××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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「…………ッ」

 

 二人で森を()く道すがら、サリテ村の現状と、そうなるに至った出来事。

 その大凡(おおよそ)を、今の自分が知っていても不自然ではない範囲で説明したシュウホウ。

 

「そうか……そう、か」

 

 彼の話を聞いたベルナは、しばらく単調な相槌(あいづち)を繰り返し、間を繋いだ。

 向けるべき言葉を、懸命に選んでいたのだろう。

 

「黒い炎、赤い雨……なるほど。確かに、魔術師の所業と見て相違ない」

 

 地火(ちか)風水(ふうすい)に由来する災害を、不自然な形にて引き起こす術理である魔術。

 それを自在に行使し、時として地形すら変動させてしまう魔術師の存在は、国内でも明確な脅威と扱われている。

 

「今回の件が片付いたら、正式に報告を上げておこう。とはいえ先程も言った通り、近頃は人手不足だ。調査に割ける人員も、あまり期待できない」

 

 島の勢力図が統一され、国家間での戦争行為というものが消えてより、はや数十年。

 大規模な武力行使の必要性は減少の一途を辿っており、金食い虫の国軍へと回される予算も年々と目減りし続け、今や最盛期の半分以下。

 人も金も、島内全土に十分な兵を行き渡らせるには、全く足りていない。

 

 何より、被害に遭ったのは北部の小村。

 ロクに税も取れず、政府が発行する通貨すら出回っていないような僻地の焼失など、中央にとっては対岸の火事に等しい。

 いかに魔術師の爪痕が見付かったとはいえ、積極的な調査が行われる可能性は薄かった。

 

「……あ、あぁ……そう、だ。人手不足と言えば……貴殿は、何も聞かないのだな」

「?」

 

 いたたまれなくなったらしく、やや強引に、ベルナが話題を変える。

 

「二十人近い一党を討つために差し向けられた戦力が、予備兵(わたし)一人。客観的に言えば、先程のヒスイ嬢が見せた顔は極めて妥当な反応だ」

 

 にもかかわらず、シュウホウは動揺ひとつ露わにすることなく、こうしてベルナをガルド一味のもとに案内している。

 普通に考えたなら、ただただ己の身を危険に(さら)すだけの自殺行為に等しい。

 

「ん……」

 

 無論、シュウホウに自殺の意図など無い。

 ただ単純に、ベルナの()()を知っているがゆえの行動だった。

 

 が、言われてみれば確かに、あの場はヒスイに同調した方が自然であった。

 内心まずったと思いつつも、彼は努めて平静を装い、口を開く。

 

「もちろん俺も驚いたさ。正直、今だってアンタだけでどうにかなるのか疑わしく思ってる」

 

 そう淡々と告げ、肩をすくめるシュウホウ。

 ベルナは(いぶか)しげな様子で彼を見返したが……やがて納得してくれたのか、それ以上の追及が続くことはなかった。

 

 

 

 

 

「そうだ、シュウホウ殿。これを」

 

 周囲を警戒しながら進み続け、数時間。

 あと少しでサリテ村へと抜ける頃合、ベルナがシュウホウにナイフを差し出した。

 

「怪我人と言えど、徒手(としゅ)では流石に心細かろう」

 

 随所に細やかな装飾が施された、素人目にも明白なほど上等な品。

 鞘から抜くと、(こぼ)れひとつ見当たらない滑らかな白刃(はくじん)が陽光を照り返した。

 

「本来は観賞用だが、そこらのナマクラよりは余程に鋭い。気休め程度にはなる」

「……そうだな。借りておこう」

 

 どこか曖昧な表情で頷くシュウホウ。

 彼はナイフを鞘に戻すと、懐にしまった。

 

 …………。

 もし、この場にヒスイが居たなら、手渡されたナイフを凝視したに違いない。

 

 

 

 

 

 賊の首魁(しゅかい)──ガルドが持っていたものと、あまりに酷似していたから。

 

 

 

 

 

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