××を殺す病   作:竜胆マサタカ

40 / 41
39

 

 

 

 

 

 あっという間の出来事だった。

 

「な、なんだテメ──」

 

 一切の躊躇なく草むらを飛び越え、焼け朽ちたサリテ村へと(おど)り出たベルナ。

 

「ふうぅぅ」

 

 鉄製の脚鎧(グリーブ)を巻いているとは信じがたい俊足に加え、ほとんど足音を伴わない疾走。

 最も近場に居た賊が彼女を見とめたのは、すでに間合いまで踏み込まれた半秒後。

 

 致命的な出遅れ。

 否。よしんば、もっと早く察せていたところで、結果は何も変わらなかっただろう。

 

「シッ」

 

 噛み締めた歯の隙間から漏れ出た、吐息に等しい声。

 腰に()いた剣を握ったベルナが、抜き打ちの一閃を放つ。

 

「──はげびっ」

 

 ぴっ、と賊の顔に赤い線が走った。

 頭部の鼻から上がズリ落ち、地面を転がる。

 

 一拍ばかりの間を挟み、二本の足で立ったままの身体の断面から、噴水のごとく弾ける鮮血。

 まるで自分が死んだことに気付いていないかのように、三歩四歩とフラフラ歩いたのち、力なく倒れ伏した。

 

「ひとつ」

 

 一方のベルナは、賊の頭が地面に落ちるよりも先、早々と次の標的に迫っていた。

 すでに殺した相手の死に目に、いちいち立ち会う趣味は無いらしい。

 

「あぺっ──」

 

 離れた場所から、つまり全容を見て取れる立ち位置にあるハズのシュウホウの視界にさえ、切っ先がブレて映った剣筋。

 それを腹に受けた賊の上半身と下半身が、いともあっさり分断された。

 

「ふたつ」

 

 確実に二人を斬ったベルナの剣は、しかしまったく血で濡れていなかった。

 

 おそろしく速く、おそろしく正確に(やいば)を通さなければ、こうはならない。

 肉も骨も構わず断ち斬る神業じみた剣技と、人体構造への深い造詣(ぞうけい)を併せ持っていなければ、こうはならない。

 

「シイィッ」

 

 更に斬殺は続く。

 絶えず、途切れず、ほぼ等間隔に。

 

 三人。

 四人。

 五人、六人、七人、八人、九人、十人──

 

「シィアッッ!!」

 

 ベルナが剣を振るうたび、誰かの手が、足が、胴が、首が飛ぶ。

 ぽん、ぽん、ぽん、ぽんと、(わら)でできた案山子(かかし)も同然に。

 

「……実際、彼女にとっては連中なんて案山子(かかし)と変わらないか」

 

 ()()()()()()()、実際に見てみると、想像を軽く上回る埒外(らちがい)な強さ。

 唖然と口元を強張らせながら、シュウホウが呟く。

 

「まあ、そりゃそうだ」

 

 いかに場慣れした賊と言えど、所詮は無頼(ぶらい)

 

 真っ当な練兵を受けたワケではない。

 日々を武芸の研鑽(けんさん)に費やしてきたワケでもない。

 

 ただ、生まれつき平均より体格に秀で、平均より力が強かっただけ。

 そんな、半端者に過ぎない(やから)の集まり。

 

「役者が違う」

 

 ベルナは、ただの予備兵などではない。

 

 五年に一度、首都で(もよお)される御前試合(ごぜんじあい)

 優勝者には島国(くに)一番の剣士であることを表す称号が与えられる、由緒正しき武闘大会。

 

 その第十七回、すなわち六年前に開催された前大会の覇者こそが、ベルナなのだ。

 

「アレが半分引退した人間の動きか……?」

 

 正規兵を辞し、はや三年。

 最強の称号も、去年の第十八回優勝者に引き継がれた。

 

 とはいえ、それによって彼女の力量が衰えたのかと問われれば、答えは否。

 

 むしろ一線を退いた身にもかかわらず、依然として技の冴えは最盛。

 仮にもし、前大会にも出場していたならば、連覇とて狙えただろう大器。

 

 であれば、そこらの賊ごときが二十人三十人と束になったところで、(かな)うハズもない。

 

 かつて最強と呼ばれた女。

 先代『剣聖(けんせい)』ベルナ・フォトンの敵ではない。

 

「ひぎっ……!?」

 

 瞬く間、二十一人が、破れた血袋と化す。

 そしてベルナは、尻餅をついた最後の一人──隻腕(せきわん)となったガルドに、切っ先を突き付けた。

 

「……久しいな」

 

 耳にするだけで身震いしそうなほど冷たい声。

 

「こうして会うのは、貴様がディルジット隊長を殺し、軍から逃げて以来か」

 

 視線を注ぐ先が焼け焦げそうなほど激しい瞳。

 

「なあ。ガルド」

 

 上官殺しの脱走兵。

 ベルナの上官でもあった人の命を奪った憎き(かたき)の名を、吐き捨てるように呼んだ。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。