喉笛に浅く突き立った刃先。
あと数センチ手元を押し込まれれば、頚動脈を断ち切られる。
「ッッ……ベッ、ベル、ベルナ……!?」
そこまで追い詰められ、ようやっとガルドは、目の前の人物が誰なのかを見て取った。
より正確には、ここまでの流れが
ともあれ、旧知の──ひいては、自分が知る限り最も強い女に剣を向けられているという状況に、ガルドは顔面蒼白となった。
「な、なんっ、なんで、テメェが、こんなところにっ」
「……何故? 何故だと?」
そんなことも分からないほど脳みそが腐り果てたか。
そう冷たく告げたのち、ベルナは淡々と
「三年間、コソコソ隠れ続けた貴様の尻尾を掴んだと軍部から聞かされた時は、ガラにもなく胸が
取るものも取りあえず、現地へと向かった。
しかし辿り着いた時には、すでに突入作戦は終了していた。
が。
ガルド含む残り半数が逃げたと知ったベルナは、嬉々と追討に名乗りを上げた。
「ひとつだけ礼を言う。貴様が相変わらずの逃げ腰だったお陰で、こうして私みずから手を下せる」
「がっ……!?」
数ミリ、更に深く
死を間近としたガルドは、声を裏返させながら
「ま、まま、待てっ! なあ、頼む、待ってくれ!」
自分だけが在処を知る隠し財産の存在を明かすガルド。
助けてくれれば全部やると、懸命に言葉を並べ立てる。
けれども、ベルナの表情は微塵も揺らがない。
「その隠し財産とやらも、どうせ奪った金だろう。それで私を買収できると考えているなら、随分と見くびられたものだ」
「ッぐ……」
金品では効果が薄い。
そう判断したガルドは、一層と声を張り、哀れっぽく命乞いする。
「頼む、頼む! お互い、あのクソみてぇな新兵訓練をやってきた同期じゃねぇか!」
情に訴えかけるべく、過去を掘り返す。
結果は──生憎と、まったくの逆効果だった。
「……人を舐めるのも大概にしろ、クズめ。いまさら私が貴様に情けなどかけると思うか?」
敬愛する上官を殺し、逃げた先でも数々の非道を積み重ねた、最低の悪党。
今一度、ガルドという男に対する認識を噛み締めたベルナは、表情の一切が失せた顔で、彼を見下ろす。
「可能なら貴様は生かしたまま捕らえろと命ぜられたが……やはり駄目だな」
これ以上は姿を見るのも、声を聞くのも不快極まる。
そもそもベルナがここまで足を運んだ理由は、
元よりガルドと遭遇したならば、生かしておく気など毛頭なかった。
「死んでディルジット隊長に会ったら、せいぜい詫びろ。もっとも、お前があの人と同じところに行けるとは思えないがな」
「ひぐっ──」
切っ先を押し込み、喉を貫き、突き殺す。
そのつもりだった。
そうする間際──ふと、ガルドのベルトに差したナイフが、ベルナの視界へと映り込んだ。