××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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「ッ……!?」

 

 ベルナの動きが、錆びついたように強張る。

 切れ長な双眸(そうぼう)を見開かせ、驚愕を(あら)わとする。

 

「……そ、れは」

 

 随所に施された、細やかな装飾。

 先刻ベルナがシュウホウに貸し与えたものと、あまりに酷似した意匠(いしょう)

 

 否。酷似どころか、まったく同じ。

 事実、彼女の所持する短剣と同じ製作者が手掛けた、この世に二本だけ存在する姉妹剣の片割れだった。

 

「…………」

 

 (つか)を握る指先が、小さく震える。

 ベルナの脳裏に、とある記憶が呼び起こされる。

 

 ──でしたら、そちらを片方下さい!

 

 六年前、御前試合(ごぜんじあい)への参加が決まった。

 その際、優勝したらなんでもやると、当時の上官がベルナに言った。

 

 ──こいつをか? 参ったな……。

 

 ベルナがねだったのは、いつも上官が身に着けていたナイフであった。

 剣聖(けんせい)の称号を勝ち取った日の祝宴で、彼は約束通り、片方を授けた。

 

 ──おめでとう。

 

 もう片方は、変わらず上官が肌身離さず持ったままだった。

 

 そして。彼が殺された日、行方知れずとなった。

 

「……貴様」

 

 それをガルドが腰に帯びている。

 ()()を察したベルナの奥歯が、ぎりっと(きし)む。

 

「貴様が、貴様が持ち去ってッッ──」

 

 ガルドの顔を見た瞬間から水際で(こら)え続けていた怒りが、とうとう(せき)を切る。

 (まなじり)を吊り上げ、激情のまま吼える。

 

 …………。

 怒声を上げた一瞬、ベルナは確実に冷静さを欠いていた。

 

 狭まった視野。

 赤く染まった思考。

 目の前の男に、意識の全てを縫い止められた状態。

 

 すなわち──隙だらけ。

 

「──死ねぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!」

 

 野太い絶叫が、周囲を(つんざ)く。

 

 廃墟の焼け跡から飛び出した、()()()()()()()()()()()()

 ベルナが賊を指折り数えた際、事前情報と勘定が合わなかった一人。

 

「うおぉぉッッ!!」

 

 突然現れた化け物じみた強さの女が、あからさまに動揺して隙を見せた。

 仕留める千載一遇(せんざいいちぐう)のチャンスだと、蛮勇を振り絞ったのだ。

 

 ──もっとも、ベルナの力量は歴代剣聖(けんせい)の中でも更に上位。

 ちょっと隙を突いたくらいでどうこうできれば、苦労は無い。

 

「チッ……!」

 

 振り下ろされた斧を、舌打ち交じりに弾くベルナ。

 次いで返す刀にて正中線をなぞり、下っ端の右半身と左半身を、真っ二つに斬り分ける。

 

 見事なまでの反応速度と反射神経。

 攻撃は完全な後出しだったにもかかわらず、先に届くという圧倒的な戦闘能力の格差。

 

 けれど。結果として、今度はガルドに隙を晒してしまった。

 

「こン──のォッッ!!」

 

 手下の愚連(ぐれん)たちとは違う。

 痩せても枯れても、ガルドは正規の訓練を受けた元兵士。

 

「ッ!」

 

 咄嗟、彼は地面に何かを叩き付ける。

 陶器の割れる甲高い破砕音と共に、真っ黒な煙が、辺り一面へと広がった。

 

 

 

 

 

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