「ぐぉっ、あ……ッ!?」
まったく想定外の出来事。
受け身すらとれず、岩や木の根が張り出した地面を転げるガルド。
途中、したたかに顎を打ち付ける。
やや遅れる形で、口内を鉄の味が満たした。
「おご、ごっ……おぉ……」
目の前の世界が
数秒かけて状況を理解するや否や、ガルドは息を呑んだ。
「い、ぎ……!?」
足首に深々と食い込む、
ガルドみずから手下へと命じ、村の周囲に仕掛けさせた罠のひとつ。
だがしかし、彼は設置場所くらい当然すべて覚えている。
こんなところに置かせた記憶など、まったくなかった。
「はぁ、あ……?」
何故、と脳髄を満たす疑念。
頭がグラグラ揺れて、まるで思考が纏まらない。
「──因果応報、だな」
そこへ唐突に響いた、
「村の外周から人数や配置を確認していた時に見付けた罠は、置き場所をズラさせてもらった」
土や草を踏む靴音。
言うことを聞かない身体に鞭打ち、ガルドが視線を動かす。
そこに居たのは、背が高く細身の男。
「て、めぇ、はっ」
灰色の髪。
褐色の肌。
金色の瞳。
「念には念を入れておいて良かった。やはり俺が直接動かなければ、ことは筋書き通りに進もうとするらしいな」
ほんの数日前、ガルドが片腕を失う羽目になった一件。
その際のドサクサで逃げ出した男女の、片割れ。
「……お前を逃がすワケにはいかない」
ガルドの前で膝をつき、目線を近付けた灰髪の青年──シュウホウが、そう呟く。
そして。誰も知るハズが無い、すでに少しずつ
「
九死に一生を拾ったガルドは、再び手下を集めて再起を図り、辛抱強く機会を待った。
結果、首尾良くヒスイを人質に取り、ベルナをも捕らえた。
「お互い、数ヶ月に
だが、幸運を掴むのが遅すぎた。
形勢逆転した時、すでにベルナは──
「ヒスイだけを逃がしたのち、お前たち諸共ベルナは死んだ。彼女自身が死を選んだ」
それが本来の筋書きにおいてヒスイが味わう、二つ目の絶望。
「……ああ、すまない。こんなことを話したところで、言ってる意味なんか分からないよな」
酷い耳鳴りで、シュウホウの言葉など半分も聞こえていなかった。
「つまり──ここで、お前が消えれば、そうはならないってことだ」
ただし幸か不幸か、
表情筋すら痺れ始め、不自然に強張ったガルドの顔から、瞬く間に血の気が引いていく。
「悪いが慈悲はかけてやれない。どうぞ好きに恨んでくれ」
せめて相手が根っからの悪党で良かったと、シュウホウは胸の内で静かに思う。
お陰で
「さて。じゃあ、さっさと済ませようか」
「……これで、全てが変わる……変わる、ハズだ」
華美な
両手を組み重ねてナイフを握った格好は、どこか祈りを捧げる所作にも似ていた。
「まっ──」
ロクに舌先すら動かせない中、必死に制止を叫ぼうとしたガルド。
けれども一切の聞く耳持たず振り下ろされた切っ先は、まっすぐ彼の心臓を貫いた。