「貴殿らには借りがある。ゆえに頼みとあらば引き受けよう」
最初の対面となる
中央への報告を終え、宣言通りサリテ村まで戻ってきたベルナが、そう切り出した。
「その上で、先んじて言っておく。貴殿に剣の才は無い」
木剣を握り、髪を後ろで括ったヒスイに向けられる鋭い視線と、
「……いや、剣才以前の問題だな。重心、体格、体型、関節、筋肉。そうした
加えて、細かな所作から察するに、運動神経や体操能力も平均以下。
気絶したシュウホウを担ぎ、何時間も歩いてガルド一味から逃げ
「諸々を矯正し、土台を作るまでに半年。そこから本格的な修練を始めたとして、並の域に到達するまで……更に三年から五年といった
ちら、とベルナが視界の端に立つ灰髪を捉える。
「正直シュウホウ殿の方が、よほど見込みはありそうだが」
「生憎と、この有様でな」
トラバサミを受けた脚は、全治三ヶ月。
…………。
否。あるいは、もはや──
「まあ、アンタが持ってきてくれたクロスボウのお陰で、狩りは問題なくやれそうだ」
食糧調達やら何やら、身の回りのことは俺がやろう。
そっちが専念できるようにな。
肩をすくめ、曖昧な表情を浮かばせつつ、淡々と告げるシュウホウ。
助かる、と返したのち、ベルナは再びヒスイに向き直った。
「ヒスイ嬢」
「はいっ」
真剣な様子で真っ直ぐベルナを見返す、赤と黒のオッドアイ。
数拍、沈黙が挟まる。
「私は子供の頃、歌手になりたかった」
「……はい?」
唐突な自分語り。
意図が分からず、ヒスイは目を丸くさせる。
「満員御礼の舞台に立ち、拍手喝采と、同業者の嫉妬や羨望を浴びるのが夢だった」
この人、だいぶ俗物だなぁ。
そう思うヒスイであったが、あえて声や顔には出さなかった。
「けれども残念ながら、すこぶる音痴でな。諦めざるを得なかった」
当時の口惜しさを思い出したのか、軽く目を伏せ、かぶりを振るベルナ。
次いで。周囲の空気が、一瞬で張り詰めた。
「ッッ……!!」
「非才は罪ではない。求める理想に己では至れぬと悟るなど、誰もが一度は通る道だ」
先日のガルドたちなど比較にもならない、全身に突き刺さるような殺気。
骨まで震えるほどの寒気に、思わずヒスイは半歩退いた。
「だがしかし、それでもなお理想を求め、手を伸ばさんとするのであれば──」
いつの間にか鞘から引き抜かれていたベルナの剣が、虚空に銀色の軌跡を
切っ先に触れたヒスイの
「──罪人と同等の地獄は、覚悟せよ」