××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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「貴殿らには借りがある。ゆえに頼みとあらば引き受けよう」

 

 最初の対面となる邂逅(かいこう)から、ちょうど二週間目。

 中央への報告を終え、宣言通りサリテ村まで戻ってきたベルナが、そう切り出した。

 

「その上で、先んじて言っておく。貴殿に剣の才は無い」

 

 木剣を握り、髪を後ろで括ったヒスイに向けられる鋭い視線と、忌憚(きたん)の無い言葉。

 

「……いや、剣才以前の問題だな。重心、体格、体型、関節、筋肉。そうした一瞥(いちべつ)で分かる要素だけ汲み取っても、明らかに戦闘向きの身体ではない」

 

 加えて、細かな所作から察するに、運動神経や体操能力も平均以下。

 気絶したシュウホウを担ぎ、何時間も歩いてガルド一味から逃げ(おお)せたという話を聞いた時は、相当な幸運に恵まれたと感じたほどだった。

 

「諸々を矯正し、土台を作るまでに半年。そこから本格的な修練を始めたとして、並の域に到達するまで……更に三年から五年といった塩梅(あんばい)か」

 

 ちら、とベルナが視界の端に立つ灰髪を捉える。

 

「正直シュウホウ殿の方が、よほど見込みはありそうだが」

「生憎と、この有様でな」

 

 トラバサミを受けた脚は、全治三ヶ月。

 (ウルフ)に深々と噛まれた腕は、更に時間を要するだろう。

 

 …………。

 否。あるいは、もはや──

 

「まあ、アンタが持ってきてくれたクロスボウのお陰で、狩りは問題なくやれそうだ」

 

 食糧調達やら何やら、身の回りのことは俺がやろう。

 そっちが専念できるようにな。

 

 肩をすくめ、曖昧な表情を浮かばせつつ、淡々と告げるシュウホウ。

 助かる、と返したのち、ベルナは再びヒスイに向き直った。

 

「ヒスイ嬢」

「はいっ」

 

 真剣な様子で真っ直ぐベルナを見返す、赤と黒のオッドアイ。

 数拍、沈黙が挟まる。

 

「私は子供の頃、歌手になりたかった」

「……はい?」

 

 唐突な自分語り。

 意図が分からず、ヒスイは目を丸くさせる。

 

「満員御礼の舞台に立ち、拍手喝采と、同業者の嫉妬や羨望を浴びるのが夢だった」

 

 この人、だいぶ俗物だなぁ。

 そう思うヒスイであったが、あえて声や顔には出さなかった。

 

「けれども残念ながら、すこぶる音痴でな。諦めざるを得なかった」

 

 当時の口惜しさを思い出したのか、軽く目を伏せ、かぶりを振るベルナ。

 

 次いで。周囲の空気が、一瞬で張り詰めた。

 

「ッッ……!!」

「非才は罪ではない。求める理想に己では至れぬと悟るなど、誰もが一度は通る道だ」

 

 先日のガルドたちなど比較にもならない、全身に突き刺さるような殺気。

 骨まで震えるほどの寒気に、思わずヒスイは半歩退いた。

 

「だがしかし、それでもなお理想を求め、手を伸ばさんとするのであれば──」

 

 いつの間にか鞘から引き抜かれていたベルナの剣が、虚空に銀色の軌跡を(えが)く。

 

 切っ先に触れたヒスイの睫毛(まつげ)が、文字通り目の前を、はらはらと落ちていった。

 

 

 

 

 

「──罪人と同等の地獄は、覚悟せよ」

 

 

 

 

 

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