師としてのベルナ・フォトンは、まさしく剣の鬼だった。
「立て。ヒスイ」
シュウホウの知る筋書き通り、彼女がヒスイに
およそ常人に耐えられる領域の
「骨や
痛いだけで、負傷は無い。
まあ
「ッッ……」
そんなベルナの足元で、木剣を手にうずくまるヒスイ。
痛みに歯を食いしばりながらも、ややあって身を起こし──みぞおちを蹴り飛ばされた。
「ッ、か、ひゅっ」
「立つまでの動作が
そもそも、いちいち地に伏せるな。
体勢を崩した際は即座に受け身をとり、一秒以内に立ち上がれ。
そうベルナが指示する傍ら、息を詰まらせたヒスイは咳き込むことすら
無論、肋骨や胸骨を折らない程度の加減はあったが、鉄製の
「敵前での転倒や硬直は命取りと思え」
「ぁぐッ……!!」
このようにな、と更に一撃。
横隔膜の
そこからも、ベルナはヒスイに歩み寄っては容赦なく蹴り飛ばす。
ヒスイが自分の足で立ち上がるまで、延々と繰り返す。
そして何度目かの蹴りを放った頃合、ベルナは小さく溜息を吐いた。
「……初日以降、繰り返し言い続けているが、貴様に戦闘の素質は無い」
ベルナ・フォトンが持って生まれた、剣における
「もっとも、どのみち一歩ずつ素養を積み上げていくほか、道など無いのだがな」
しかし彼女は、決して才能に
「人は
地道な鍛練と数多くの実戦経験に裏打ちされた、
ゆえにこそベルナは、こと強さというものに対し、誰よりも
「ただし、どれだけ速く積めるか、どこまで高く積めるかは、才によるところが大きい」
返す返すも、ヒスイに戦闘の素質は無い。
真っ当な
加えて、おそらくその先の伸び代も浅い。
一切の
「
ゆえにベルナは、小手先の技術を選択肢から
肉体の矯正と
「細かい技は
元よりヒスイが求めるものは剣の腕前などではなく、復讐を遂げるための力。
であれば、やりようはあった。
「単純な技量とは異なる部分を鍛える。まずは私の攻撃、呼吸や間合いを見切れるようになれ」
今はまだ最低限まで加減しているけれど、段階的に脅威度を上げていく心算。
少しずつ手心を緩め、やがては真剣も使い始めるつもりだった。
「命の保証はしない。やめたくなったら、いつでも言うがいい。諦めるのも勇気だ」
──諦める。
そう何気なく紡がれた言葉を耳にしたヒスイが、木剣を握る力を強めた。
「む」
十三度目の蹴りが空を切る。
ごろごろと地面を転がり、土埃だらけの姿で立ち上がったのち、ヒスイは木剣を構えた。
「けほっ……続き、を……お願い、します……ッ」
浅く呼吸を繰り返す、苦しげな姿。
けれども、その赤と黒の
「やあぁぁぁぁッッ!!」
「……ひとつだけ、感心した点を伝えておこう」
みずから仕掛けてきたヒスイの木剣を弾きながら、ベルナが静かに告げる。
「いくたび倒れようと打ちのめされようと、一度も剣を手放さないのは上出来だ」
直後。彼女の振るった切っ先が、ヒスイの顎をしたたかに跳ね上げた。