××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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 シュウホウの知る筋書き通り、ベルナがヒスイに(ほどこ)す修行は凄絶(せいぜつ)極まっていた。

 およそ常人に耐えられる領域の(しご)きではなかった。

 

 …………。

 だが、やはりと言うべきか。

 何もかも、そっくり筋書き通りというワケでは、なかった。

 

 そうなった理由。

 本流から()れた要因は、語るに及ばず、シュウホウの存在である。

 

 シュウホウが(ウルフ)からヒスイを守ったことで、彼女は片腕を失わなかった。

 結果、ベルナから特別な義手を与えられ、自分の意思で元の腕と変わらず動かせるようになるまでの過程が、丸ごとスキップされた。

 

 その分だけ、ヒスイの習熟は確実に早まった。

 それによって修行の厳しさも一段と増し、(あざ)や生傷が絶えなかった。

 そんな一長一短の状況だが、一応は喜ばしい変化と(ひょう)して差し(つか)えないだろう。

 

 ──もっとも、彼の存在がもたらした変化は、斯様(かよう)些事(さじ)だけではない。

 

「痛っ……!」

「……()みたか? すまない」

 

 本来の筋書きでは、ヒスイは独りとなるハズだった。

 

「もうすぐ塗り終わるから、我慢してくれ」

「うぅ……えへへ」

 

 ガルド一味に(さら)われ、何日も玩具(おもちゃ)同然に(もてあそ)ばれるハズだった。

 

「なんで少し嬉しそうなんだ」

「えっと、なんとなく……?」

 

 ベルナに助け出され、紆余曲折を()て、そこで初めて()()になるハズだった。

 

「そう言えば、この薬ってどうしたんですか? すっごく効きますよねっ」

「俺が調合した。昔、ウルスラから教わったんだ」

「……ですか」

 

 だがしかし、本来の筋書きとは異なり、ヒスイは独りにはならなかった。

 

「よし、終わり。あとは自分でやってくれ」

「背中だけじゃなくて、他も塗って欲しいです」

「自分でやれるだろう」

「むー」

 

 ヒスイは最初から二人だった。

 故郷を焼き滅ぼされた絶望の中でも、常にシュウホウという寄る辺があった。

 

「しかし日毎(ひごと)に傷が増えてるな。また薬草を採ってこないと、足りなくなりそうだ」

「お世話様です……」

 

 物語の其処彼処(そこかしこ)で描写されていた精神的な危うさも、この現実においては今のところ見受けられない。

 村を焼いた魔術師に対する強烈な復讐心こそ(いだ)けど、それ以外は、ごくごく普通の少女のままだった。

 

「あの鬼ばばあ……明日こそ一撃入れてやるんだからぁ……!!」

「──誰が鬼ばばあだ」

「みゃー!? せ、せせ、師匠(せんせい)!? いつからそこに!?」

「ずっと居た。にしても私に一撃入れるとは大きく出たな。明日などと言わず、今からでもやってみるといい」

「ひぃん、ごめんなさいー!」

 

 本来なら数ヶ月を()て歩み寄るに至った、ベルナとの関係性。

 其方(そちら)についても、すでに軽口が叩き合えるくらいの間柄にはなっていた。

 

「……薬を塗ったばかりだ。しばらくは安静にさせてやってくれ」

「む……あい分かった。この場はシュウホウ殿の顔を立てよう」

「えうー」

 

 これもまた、シュウホウの功績。

 彼の存在が『修行』と『日常』の境目となり、それぞれの空気を分けた結果だった。

 

「さあ、そろそろ夕食にしよう。皿を並べてくれ」

「はいっ」

「承知した」

 

 ともあれ、順調だった。

 おおむね、穏便だった。

 ひとまず、円滑だった。

 

 このまま何事もなく時が過ぎてくれればと、シュウホウは胸の奥底で願っていた。

 

 

 

 

 

 が。凶事とは、どんなに平穏を望もうとも、お構いなしに訪れる厄介者。

 

 

 

 

 

 ベルナとヒスイの修行が始まり、ちょうど一ヶ月が()とうとしていた日。

 シュウホウが、突然倒れた。

 

 

 

 

 

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