××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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 サリテ村の焼失以降、ヒスイとシュウホウが身を置いていた住まい。

 位置取りが村外れであったためか、奇跡的に黒炎を(まぬが)れた空き家。

 

 その一室へとシュウホウを運び込み、ベッドに寝かせたベルナ。

 次いで彼の容態を(あらた)め──息を呑んだ。

 

「な……ッッ」

 

 (ウルフ)に深々と噛まれ、一部は骨まで達した左腕の傷。

 ひどく化膿(かのう)し、壊死(えし)しかけていた。

 

「ひっ……!?」

 

 包帯を剥いだ先の惨状。

 それを目にしたヒスイが、あまりの痛々しさに怯えた声を上げる。

 

「た……た、大変……!! すぐ、すぐに薬を──」

「無駄だ」

 

 駆け出そうとした彼女を、ベルナが止めた。

 

「もう塗ってある」

 

 薬だけではない。

 ()んで崩れた傷口に残る、様々な手当ての痕跡。

 

 とどのつまり──すでに可能な限りの治療を(ほどこ)した上で、こうなっているのだ。

 

「くそっ……!」

 

 明らかに昨日今日、いきなりこうなったものではない。

 もう随分と長く、痛み以外の感覚すら失せていたハズ。

 

「何故、黙って……いや……どのみち、か」

 

 ベルナは思わず悪態をつきかけるも、かぶりを振った。

 

 なにせ、ここまでの深手。

 たとえ町の医療施設に駆け込んだところで、どうにもならなかったに違いない。

 

 むしろ長距離の移動で体力を消耗すれば、いたずらに症状が悪化した可能性も高い。

 ヒスイはおろか、ベルナにさえ何も言わなかったことはともかく、サリテ村に腰を落ち着かせて治療に専念した判断自体は、決して間違っていないだろう。

 

 結果こそ、この通りだが。

 

「せ、師匠(せんせい)……」

 

 赤と黒の双眸(そうぼう)が、(すが)るようにベルナを見つめる。

 だがしかし、多くの負傷兵を見てきた彼女が出した結論は、残酷だった。

 

「放っておけば、あと数日と待たずに傷が腐り始める。左腕ごと切り落とすしか、ない」

「……そん、な……」

 

 およそ一ヶ月間、どんなに叩きのめされても立ち上がってきた少女が、茫然自失とへたり込んだ。

 青ざめた顔を(うつむ)かせ、かたかたと震え始める。

 

「わ……わた……私の、せいだ」

 

 やがて。消え入りそうな声で、呟いた。

 

(ウルフ)から、私を庇ったせいで……!! 私が、私がぁ──」

「ヒスイ!」

 

 半狂乱となりかけたヒスイを一喝(いっかむ)するベルナ。

 震える両肩に手を置き、落ち着け、と告げる。

 

「悔いるのは後回しだ。一刻も早く処置をしなければ、本当に手遅れとなってしまう」

 

 重い音を立ててベルナの足元に転がる、彼女の篭手。

 処置とやらのため、邪魔な(よそお)いを外した模様。

 

「湯を沸かせ。それと清潔な布を、できるだけ多く。糸や紐も欲しい」

「は、はいっ」

 

 どうにか焼け残った物資は、すでに大半が空き家(ここ)に集められている。

 ヒスイは泡を食ったように(きびす)を返し、倉庫へと向かった。

 

 一方のベルナは、再びベッドに視線を戻す。

 

「シュウホウ殿。話は、聞こえていたな?」

「……ああ」

 

 びっしりと額に汗を浮かばせ、浅く呼吸を繰り返しながら、シュウホウが目を開けた。

 

「幸い、特殊な義手の持ち合わせがある。だから安心……とは、ならないと思うが」

「……義手……そう、か」

 

 朦朧(もうろう)とする意識の中、()()から引っ張り出した、ひとつの情報。

 

「用意が整い次第、すぐにでも始める。構わないか?」

 

 まさか自分が()()を装着することになるとは。

 そう胸の内で呟きつつ、シュウホウは緩慢と半身を起こす。

 

 そして。静かに首肯(しゅこう)を返した。

 

「────分かった。やってくれ」

 

 

 

 

 

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