××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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 度を越した痛みと失血により、気を失ったシュウホウ。

 彼が目覚めたのは、曇天の真夜中だった。

 

「──起きたか」

 

 テーブルに置かれたランタンのみを光源とする室内。

 その中にあってシュウホウの僅かな身じろぎを見落とさず、覚醒を察したベルナが、椅子に座ったまま脚を組み替えながら口を開く。

 

「…………」

 

 シュウホウはベッドから身体を起こそうと(こころ)みるが、まったく言うことを聞いてくれず、横になったまま動けない。

 全身どこもかしこも、まるで鉛のようであった。

 

「どのくらい……寝ていた?」

「二日……いや、ほぼ三日だな。あとしばらくで夜明けだ」

「……そいつはまた、随分と寝坊したな」

 

 少しずつ闇に目が慣れ、二の腕の半ばほどから先を失った左腕へと視線を向ける。

 

 丁寧に巻かれた包帯の奥で這い回る、じくじくとした疼痛(とうつう)

 だがしかし、ここしばらく耐え続けていた激痛に比べれば、だいぶマシだった。

 

「むしろ不幸中の幸いやもしれん。一番に痛む頃合を、眠ったままやり過ごせたのだ」

「そうか。そうかもな」

 

 カップを取ったベルナが水差しから湯冷ましを注ぎ、ゆっくりと飲ませる。

 三杯飲み干したのち、ひとつ溜息を挟んだシュウホウが、ふと室内を見回す。

 

「ヒスイは?」

「隣室で眠っている。貴殿の傍を離れたがらなかったが、どうにか説き伏せた」

 

 その光景が目に浮かんだのか、眉間にシワを寄せるシュウホウ。

 どうやら二人が交代で自分の面倒を見てくれていたらしいと、申し訳なく思う。

 

 黙り込んだシュウホウの横顔を見つめながら、今度はベルナが浅く溜息を吐いた。

 

「それにしても、せめて一声の相談くらいは欲しかったものだ」

 

 語るに及ばず、左腕の傷の件。

 

「麻酔も無しに腕を落とすなど、本来なら正気の沙汰ではない」

 

 どっちみち、切り落とすことにはなっただろう。

 けれど早くに話してくれていれば、もう少し穏便に対処できる(すべ)もあったハズ。

 

 ベルナの険しい眼差しが、そんな意図を雄弁に物語っていた。

 

「……すまなかった。そうすべきと、分かってはいたんだが」

 

 考えつく限りの治療を施してなお、傷が腐るまでの時間を稼ぐのがやっと。

 もはやシュウホウだけで始末をつけられる域になかったことなど、火を見るより明らかだった。

 

 けれども、なかなか踏ん切りがつかなかったのだ。

 

「腕のことを知ったら、ヒスイが自分を責めると思った」

「それで手遅れとなり、万一にも命を落としたなら、自責程度では済まなかったのだぞ」

 

 耳の痛い指摘に返す言葉も浮かばず、渋面(じゅうめん)で閉口するシュウホウ。

 ベルナは再び溜息を挟むと、怪我人相手にこれ以上の糾弾(きゅうだん)を続けるつもりは無いらしく、話題を変える。

 

「……ともあれ、貴殿が眠っている間に断面の細かい処置は済ませておいた」

 

 経過の方も、ひとまず順調。

 このまま行けば、十日ほどで義手の装着が可能なまでには回復する見込み。

 

「当面の食糧は確保しておいた。今朝にでも現物を取りに()つ。私が戻るまで、くれぐれも安静にな」

「……すまない……世話を、かける」

 

 気にする必要は無い、とベルナが肩をすくめる。

 次いで彼女は、指先でシュウホウの首筋に触れた。

 

「まだ少し熱がある。貴殿が目覚めたことは、私の方からヒスイに伝えておく。もうしばらく眠るといい」

「……ああ……そうさせて、もら、う」

 

 タイミングを見計らったかのごとく、どっと眠気が押し寄せる。

 シュウホウは半ば独りでに降りていく(まぶた)(あらが)う気力すら湧かず、そのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 

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