××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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 きゅり、きゅり、とネジを回すような音が、室内に鳴り渡る。

 

「…………」

 

 整形済みの断面へと接合された土台部。

 そこに本体を嵌め込む形で装着させ、複数の留め具を用いて固定する。

 

 以降しばらくの間、ただ力なく垂れ下がるばかりであったけれど……やがて先端にあたる部分が、独りでにピクリと動いた。

 

「よし」

 

 その光景を見て取ったシュウホウが、小さく頷く。

 

「……どうやら、上手く繫がったようだな」

 

 安堵を示す浅い吐息と共に、そう呟くベルナ。

 彼女の視線は、二週間ほど前に(うしな)われたシュウホウの左腕──それに取って代わる()()へと向けられていた。

 

「切り落とした部位を(もと)に寸法を調整させたが、具合のほどは?」

「まだなんとも。ただ、感覚が(かよ)ってるワケじゃないから、慣れるまで少しかかりそうだ」

 

 球体関節人形の腕を思わせる造形。

 金属とも陶器ともつかない、奇妙な質感。

 

 強度は鉄に等しく、しかし鉄よりも遥かに軽い。

 ちょうど、元の左腕(うで)と同じくらいだった。

 

「どこか不具合が無いとも限らん。あちこち動かしてみてくれ」

「ああ」

 

 小指、薬指、中指、人差し指、親指の順に一本ずつ指を畳み、その次は逆順に広げる。

 手首を回したり、肘を回したり、腕ごと上げたり下げたりと、様々な挙動を試す。

 

「だいたい思い通りに動く。あとは練習次第ってところか」

 

 腕力や握力は、生身の七割ほど。

 弓くらいなら、どうにか引ける。

 

 もっとも、義手で重量物を無理に持ち上げたり引っ張ったりするのは、できる限り控えた方が身のためだろう。

 土台の接合部に過負荷が掛かり、ちぎれ飛びかねない。

 

「しかし……本当にいいのか?」

 

 ひとしきり動作確認を終えたのち、ふとシュウホウが(いぶか)しげに尋ねる。

 何が、と小首を傾げさせるベルナに対し、彼は言葉を続けた。

 

「こいつは()()()()()だろう」

 

 現在の島国では製造不可能な、まったく未知の技術で作られた品。

 

 数百年前、この地で二柱(ふたはしら)の神々が衝突した際に滅んだ文明。

 俗に旧暦(きゅうれき)と呼ばれる一時代の産物。

 

「出すところに出せば、相当な価値がつくハズだ」

 

 旧暦(きゅうれき)に関しては、今や文献すらほとんど残っていない。

 落日までに歩んだ歴史は勿論(もちろん)、かつての国名すら一切不明。

 

 かろうじて分かっていることは、現代よりも遥かに進んだ文明だったという一点のみ。

 そして、ごく稀に発見される当時の物品は旧暦(きゅうれき)遺物(いぶつ)と総称され、いずれも高額で取引されている。

 

 広い意味では、ヒスイが持つ女神の(つるぎ)も、この括りに含まれるだろう。

 

「そんな物を俺に──」

「構わん。以前たまたま手に入れただけの品だ。どうせ持て余していた」

 

 別段、金にも困っていない。

 あっけらかんと告げたベルナに、シュウホウは毒気が抜かれた様子で目を(しばた)かせた。

 

「……そうか。なら、ありがたく貰っておく」

「うむ」

 

 鷹揚(おうよう)と頷くベルナ。

 肩をすくめるシュウホウ。

 

 次いで彼は、先程から黙り込んだままのヒスイへと視線を移した。

 

「ッ……」

 

 悲哀を(たた)えた、赤と黒の双眸(そうぼう)

 どうやらヒスイの目には、義手を帯びたシュウホウの姿が、ひどく痛ましげに映っている模様。

 

「…………」

 

 そんな彼女を尻目に、シュウホウは曖昧な表情で頬を掻きつつ、胸の内にて思う。

 

 ──わりと気に入ったんだがな、と。

 

 

 

 

 

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