××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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54:閑話6

 

 

 

 

 

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 ──『()絶望(きぼう)』第一章中盤にて、ベルナ・フォトンはヒスイを弟子と認めたのち、彼女に新しい腕を与えた。

 

 正式名称を『アガトラム』。

 脳から発せられる電気刺激を受信して意のままに動かせる、筋電義手の一種。

 

 数百年前に滅んだ文明、旧暦(きゅうれき)の技術で製造された遺物。

 これを装着することで、ヒスイの隻腕(ハンデ)は劇的に補われた。

 

 もともと戦闘用に作られたものではないため、多少の不便こそ残った。

 けれども語るに及ばず、肉体的な不利は大きく改善された。

 

 だがしかし──義手(アガトラム)はヒスイにとって、決して心象の良い代物ではなかった。

 

 無機質で冷たく、感覚も(かよ)っていない、球体関節が剥き出しの造形。

 動かすたびに鼓膜を掠める、微かだが耳障りな駆動音。

 

 もっとも、当然と言えば当然の帰結かもしれない。

 

 何故なら手とは、当人にとって最も自己を体現する部位。

 一番視界に入りやすいという意味では、顔以上に身近な存在。

 

 そんなアイデンティティの片割れが、永遠に(うしな)われたのだ。

 そればかりか、無性に生理的嫌悪を掻き立てられる偽物へと置き換わってしまったのだ。

 悪感情を覚えるのも、無理からぬ話。

 

 ……誤解なきよう(ただ)し書きすると、ヒスイはベルナから義手(アガトラム)を与えられたこと自体は、深く感謝していた。

 自分が隻腕(せきわん)のまま強くなれるなどと、自惚(うぬぼ)れてもいなかった。

 

 義手(アガトラム)は今後において必要不可欠なものだと、ヒスイも頭では分かっていた。

 けれども心の部分では、どうしても受け容れがたかったのだ。

 

 必然、ヒスイは日々の暮らしで大きなストレスを(かか)えるようになった。

 気付けば赤と黒の髪に、幾許(いくばく)かの白が混ざり込んでいた。

 

 加えて、ベルナに本心を打ち明けることも(はばか)られた。

 

 こちらもまた、当然と言えば当然。

 師の善意に対する唾棄(だき)に等しい感情を軽々しく口にできるほど、ヒスイは恩知らずでも恥知らずでもなかったのだから。

 

 ゆえに義手(アガトラム)への厭悪(えんお)は、ひたすら胸の内に押し込め続けた。

 負の情念を誰にも吐き出せないまま、日を追う(ごと)に一層と(つの)らせ、やがて慢性的な頭痛を患うようになった。

 

 せめてもの幸いは、そうした情動さえも、修行の原動力に昇華できたことだろう。

 

 日に日に厳しさを増し、より苛烈となる(しご)きに食らい付けた理由。

 物理的にも精神的にも、その幾らかは、義手(アガトラム)のお陰と言える。

 

 …………。

 ヒスイという少女は、お世辞にも剣才に、戦闘の才能に秀でた器ではなかった。

 

 が。虚仮(こけ)の一念とは、時に岩をも貫通(とお)す。

 才能の乏しさを埋めて余りある執念が、彼女を前へ前へと歩ませた。

 

 ベルナ・フォトンと共に過ごした、およそ半年間。

 ヒスイは緩やかに、しかし確実に強くなっていった。

 

 

 

 

 

 ──良くも悪くも、だが。

 

 

 

 

 

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