××を殺す病   作:竜胆マサタカ

56 / 57
55

 

 

 

 

 

 正面きってぶつかり合う、二本の真剣。

 金属同士の衝突音が、早朝の澄んだ空気に甲高く波紋する。

 

「ッく……!!」

 

 片手用の小剣(しょうけん)を両手で握り、身体ごと押し込もうと爪先を踏み締めるヒスイ。

 一方のベルナは、左手一本で両手剣(クレイモア)を構え、それを真っ向から受け止めている。

 

「……ふむ」

 

 よく(あらた)めると、ベルナは小指と薬指に力を篭めていなかった。

 すなわち、残る三指だけで両手剣(クレイモア)を保持していた。

 

 不自然かつ不安定な握り方。

 これでは威力も剣速も、本来の半分すら引き出せないだろう。

 

「もう何度も言っていることだが……」

「ッッ」

 

 にもかかわらず、数秒程度の拮抗を()て、ベルナはあっさりとヒスイを弾き飛ばした。

 

「貴様に力押しは向かん」

 

 互いが振るう剣自体の重量差。

 彼我(ひが)膂力(りょりょく)と体格の開き。

 

 そして何より、天地ほども(へだ)たった技量。

 ほとんど予定調和と(ひょう)すべき結果であった。

 

「勝ち気は結構だが、すぐ正面から飛び込むのは悪癖でしかない。いい加減に治せ」

「きゃあッ……!?」

 

 川辺で立ち会う二人の足場を占めるのは、主に石と砂利。

 必然、バランスを崩しやすく、たたらを踏むヒスイ。

 

「シッ」

 

 そこにベルナが、すかさず追撃を入れる。

 

 その剣筋は急所こそ外せど、峰打ちでもなんでもない、正真正銘の斬撃。

 無防備に受ければ、少なくとも痛いだけでは済まない一撃。

 

「────」

 

 迫り来る白刃(はくじん)

 寸止めしてくれる、などといった甘い考えは、少なくともヒスイの頭には存在しない。

 

 事実、すでに彼女の身体は其処彼処(そこかしこ)包帯だらけ。

 真剣を持ち出すようになって以降、ベルナは顔色ひとつ変えずに平然と斬りつけてくる。

 

 切り口が恐ろしく鋭利なため、治りこそ早いし、ほとんど傷痕も残らない。

 だがしかし、肌身を裂かれる痛みは、何度味わっても地獄だった。

 

 加えて、出血に伴う悪寒は明確な『死』の息遣いを感じさせる。

 避けられるものなら避けたいと思うのは、至極当然だろう。

 

「ほう」

 

 我武者羅(がむしゃら)だった。

 無理やり足を踏ん張らせ、体幹が傾いたまま姿勢を維持し、剣を振るった。

 

「今の反応は悪くない」

 

 二度目の甲高い衝突音。

 この日ヒスイは初めて、ベルナからの攻撃を止めた。

 

「が、剣にばかり気を取られすぎだな」

 

 もっとも、喜悦(きえつ)や達成感を覚える(いとま)など無かった。

 

「武器を手にした相手が、武器だけで攻撃してくるとは限らん」

「がッ……!?」

 

 みぞおちに突き刺さる膝蹴り。

 息を詰まらせたヒスイの視界が、一気に暗くなる。

 

「ふむ」

 

 もともと無茶な体勢だったため、流石に(こら)えきれず、うつ伏せに倒れる。

 ただ、相変わらず剣を手放すことだけはしなかった。

 

「差し当たり、十点といったところか」

 

 無論、百点満点でな。

 そう淡々と言葉を続けながら、ベルナはヒスイの背中を浅く突き刺した。

 

「ぃぎっ……!!」

「立つのが遅い」

 

 倒れたら一秒以内に起き上がり、臨戦態勢へと戻る。

 出来なければ、容赦なく攻撃を加える。

 

 修行を始めた当初から続く、暗黙のルールだった。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。