××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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 ヒスイが課せられた修行の内容は、大きく分けて主に二つ。

 

 ひとつは、ベルナとの徹底的な実戦訓練。

 

 場所も時間も状況も日によって異なるが、基本的に()()()()()()()

 食事、入浴、睡眠……その時にヒスイが何をしていようと、一切お構いなしである。

 

 法則性は皆無。

 いつ、何が合図となって始まるのかさえ、まったく分からない。

 そして、いざ火蓋が切られれば、長い時は半日近く、休息無しで打ち合い続ける。

 打ち合うと言っても、ほぼヒスイが一方的に叩きのめされる形だが。

 

 ベルナ(いわ)く、この修行には複数の目的が含まれているとの談。

 もっとも、今のところヒスイ本人に具体的な説明は行われていない。

 

 その一方で、もうひとつの修行──基礎鍛錬の趣旨は、実に明白だった。

 

 ごく当たり前の話だが、ほんのしばらく前まで、ヒスイは単なる村娘に過ぎなかった。

 したがって彼女の身体は、お世辞にも戦闘に適した構造ではない。

 

 辺境育ちゆえ体力はある方だけれど、あくまで一般人の範疇(はんちゅう)

 戦士として見た場合は、及第点にすら遠く及ばない。

 

 体格も痩躯(そうく)とまでは行かないものの、やはり肉付きが良い方ではない。

 骨格から細身なため、必然的に筋力も乏しい。

 

 取り分け致命的だったのは、柔軟性の低さ。

 最低限、攻撃と呼べる威力で蹴りや拳を繰り出すには、関節の可動域が狭すぎた。

 

 それらの根本的な、才能の有無以前の問題を払拭(ふっしょく)するための基礎鍛錬。

 事実、体力錬成、骨格矯正、柔軟運動を積み重ねたヒスイの身体は、まだ成長期の伸び代を残していたことも合わさり、確実に作り変わっていた。

 

 ──ヒスイは、基礎鍛錬が好きだった。

 

 もしも楽しいかと問われれば、迷わず全力で首を横に振る。

 何せ(ベルナ)が「やれ」と達してくる鍛錬の内容は、毎度毎度、回数やら距離やら(おもり)やらの桁をひとつ間違えているとしか思えなかった。

 

 大抵いつも、終わる頃には立って歩くどころか、起き上がることさえままならない。

 しかも時々、そのまま実戦訓練へと突入するケースもある。

 たとえ口が裂けても、楽しいなどと浮ついた感想を(いだ)けるハズがない。

 

 ──それでもヒスイは、基礎鍛錬が好きだった。

 

 実戦訓練では、比較対象(ベルナ)と力量が隔絶(かくぜつ)し過ぎているあまり、まるで成長を実感できない。

 自分が本当に前へと進めているのか分からず、文字通りの片手落ちで打ちのめされる都度、無性に焦りを感じてしまう。

 

 だが基礎鍛錬は、鏡に映る己の姿を見つめるたび、少しずつだが変化を実感できる。

 体質なのか、あまり手足は太くなってくれないけれど、そこを差し引いても違いは瞭然(りょうぜん)であった。

 

 ──私は、少しずつだけど、確かに進めてる。

 

 薄着で鏡の前に立ち、拳を握り締めるヒスイ。

 図らずも基礎鍛錬は、彼女のモチベーション管理という点においても、高い効果を発揮していた。

 

 

 

 

 

「今日は、そうだな。この村と、私たちが最初に会った小屋を往復してこい。五周で構わん」

「……えっと、師匠(せんせい)。それ、急いで歩いても三日くらいかかると思うんですけど……」

「なら走れ。明日の昼までに終わらせろ。間に合わなければ数を倍に増やす」

「ひぃん……」

 

 なお、それはそれとして、いつかヒスイはベルナの顔面を思いきり殴るつもりだった。

 

 

 

 

 

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