××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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 高い木の枝に立ったシュウホウが、周囲を見渡す。

 その隣で身を屈めた女性が横目で彼を見上げ、険しげな視線を向けた。

 

「足を滑らせて落ちたりしないでよ。獲物が逃げる」

「分かってる。そんなヘマはしな──」

 

 言った傍からバランスを崩すシュウホウ。

 背中から地面に真っ逆さま──と思いきや、うまく枝に爪先を引っ掛け、綺麗に一回転して元の体勢へと戻った。

 

「危ない危ない」

「……ホント器用ね」

 

 咄嗟、シュウホウに伸ばしかけた手を引っ込めた女性。

 口元を覆う襟巻きの奥で、浅く溜息が(こぼ)れ出る。

 

「ッ」

 

 次いで女性は目を細め、息を殺した。

 僅かな物音を聞き分け、獲物の接近を気取(けど)った模様。

 

「来たわ」

 

 彼女の名はウルスラ。

 サリテ村の狩人であり、シュウホウに狩猟の手管(てくだ)を教える先達でもある。

 

 今日は何度目かになる実地教育。

 もっとも、すでにシュウホウは一定の知識と技術を修めているため、半ば()()のような扱いだが。

 

「誘い出すから、アンタが仕留めて」

「了解」

 

 ほとんど音も立てずに飛び降り、走り去るウルスラ。

 一方のシュウホウは、短弓に矢を(つが)え、そのままじっと機を待った。

 

 ややあって、(やじり)が向いた先の木立から、一頭の大鹿(おおじか)が飛び出す。

 寸分狂わぬタイミングで放たれた矢は、吸い込まれるように鹿の胸を貫いた。

 

 

 

 

 

 事切れた鹿を川まで運び、血抜きと解体を行う。

 淀みなく正確に動かされるシュウホウの手を見つめながら、ふとウルスラが鼻を鳴らした。

 

「可愛げの無い」

「ちゃんと出来てるのに文句をつけられてしまった」

「たった一回教えただけで完璧に(こな)されたら、舌打ちのひとつもしたくなるわよ」

「理不尽だ」

「至極真っ当な心理よ」

 

 軽口を叩きつつ、くすくすと笑うウルスラ。

 どちらかと言えば気難し屋な彼女が笑顔を見せるのは、わりと珍しい。

 

「見ろウルスラ。うまく毛皮を剥ぎ取れた」

「あら本当……なんなら私がやるより綺麗ね、ムカつく」

「なめし方を教えてくれ」

「脳みそを擦り込むのよ。ま、その前に一回洗って乾かさなきゃだけど」

「なるほど」

 

 切り分けた肉を袋に詰め、おのおの半分ずつ背負う。

 肩へと感じる獲物の重みに、ウルスラは襟巻きの奥で、再び口の端を持ち上げた。

 

「じゃあ、引き上げましょうか」

「もう帰るのか? まだ昼前だぞ」

「欲張ったって仕方ないわよ。これ以上荷物が増えたら、私たちだけじゃ持って帰れないでしょ」

「そうか」

「そうよ」

 

 大鹿(おおじか)の肉と、ほぼ傷の無い綺麗な毛皮。

 狩り一回分の成果としては、十分すぎるくらいであった。

 

「……ところでウルスラ。肉はともかく、毛皮(こいつ)は何に使うんだ?」

「毛皮の使い道なんて、それこそ数え切れないわね」

 

 衣服、敷物、(かばん)、靴、装飾品。

 ウルスラが指折り数え上げていく。

 

「あとは、そうね……交換、かしら」

「交換?」

「そ。行商人が来た時に持って行けば、色々な物と取り替えてくれるのよ」

「なるほど」

 

 納得した風に頷くシュウホウ。

 行商人については、前に老婆からも教わっていた。

 

「婆様が塩と胡椒を欲しがってた。どのくらい毛皮があれば手に入る?」

「鹿なら三頭分ってとこかしら。状態が良ければね」

 

 他にも珍しい薬草とか鉱石なんかも高く買ってくれるわよ、と続けるウルスラ。

 

「ま、滅多には見付からないけど。時間があったら、あちこち探してみれば?」

「分かった。そうする」

 

 

 

 

 

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