××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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 サリテ村の四方に一軒ずつ建てられた、狩猟用の拠点。

 その中で最も村から遠い東の小屋は、普通に歩けば片道およそ数時間を要する。

 

「ぜーっ……ぜーっ……ッ、げほっげほっ!! も、む、無理……足、言うこと、聞かなっ……」

 

 それを二十四時間以内に五往復。

 しかも達成できなければ、数を倍に増やされてしまう。

 

 ヒスイは走った。

 三日前に折られた肋骨が痛もうと、あちこち斬られた傷が痛もうと、必死に走った。

 ほぼ丸一日、精も根も尽き果てるまで、死に物狂いで駆け抜けた。

 

 そうして彼女は、どうにか刻限の直前、五往復を成し遂げた。

 なお、道中で吐き連ねたベルナに対する罵詈雑言(ばりぞうごん)の数は、ともすれば四桁に迫る。

 

「せ、師匠(せんせい)……も、戻り、ま──あーっ!?」

 

 まさしく疲労困憊(ひろうこんぱい)といった風体(ふうてい)で、サリテ村へと帰り着いたヒスイ。

 ひとまず報告を済ませるべく家に戻った彼女は、わなわなと震える指先をベルナに突き付け、甲高く声を上げた。

 

「……なんだ。帰って早々(そうそう)騒々(そうぞう)しい」

 

 椅子に座り、くつろいでいたベルナが、溜息交じりに述べる。

 一方のヒスイは、直前までの疲労すら忘れ、彼女に詰め寄った。

 

「何やってるんですか! 何やってるんですか! 何やってるんですか!」

「シュウホウに髪を()わせている」

 

 綺麗な銀髪に(くし)を通させながらの、事もなげな返答。

 ざわっ、と背筋が粟立(あわだ)つ感覚に押される形で、ヒスイは更に声を張り上げた。

 

「なんでシュウホウさんに髪を()わせてるんですか!?」

「義手を細やかに操るための訓練だ。私が提案した」

 

 ──天才か、この人は。

 ──ずるい、嫌だ、今すぐ離れて。

 

 目から鱗が落ちるような発想への賞賛。

 じくじくと(はらわた)を侵す、泥にも似た厭悪(えんお)

 

 ヒスイの胸奥(きょうおう)から湧き立つ、相反する二つの感情。

 互いに押し合いへし合い、どう出力すべきか脳が判断しかね、しばし硬直する。

 

 …………。

 やがてヒスイは手を振り上げ、自己主張し始めた。

 

「私! 私もやって欲しいです!」

「まだ私が終わっていない」

「じゃあ次! 師匠(せんせい)の次!」

「好きにすればいいが、まずは水浴びでもしてきたらどうだ。汗やら土やらで酷い有様だぞ」

「ッッ……誰のせいだと思ってるんですかー! 師匠(せんせい)のあんぽんたーん!」

 

 いつか絶対に殴る。

 腰の入ったパンチを顔面にお見舞いする。

 

 そう改めて心に誓いつつ、勢い良く(きびす)を返すヒスイ。

 

「……だいぶ余裕がありそうだな。明日からの錬成を組み直すか」

 

 扉を閉める間際、後ろで呟かれた不穏極まる台詞(せりふ)は、聞こえなかったフリをした。

 そして後日、吐くほど鍛錬内容を増やされた。

 

 

 

 

 

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