××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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 村の畑で採れた野菜。

 森で()んできた香草。

 さっき(さば)いたばかりの鹿肉。

 

 それらを混ぜ、煮込んだシチュー。

 味付けは塩と、森ブドウで作ったワイン。

 

「……そろそろ、いいか」

 

 沸騰(ふっとう)した鍋を、火から上げる。

 杓子(レードル)で掻き混ぜたのち表面を(すく)い、軽く冷ましながら(すす)る。

 

 次いでシュウホウは、鷹揚(おうよう)と頷いた。

 

「まあまあだな」

 

 

 

 

 

 サリテ村が焼け落ち、すでに半年近くが過ぎ去っていた。

 

 第十七代剣聖(けんせい)ベルナ・フォトンへと師事し、日々を修行に明け暮れるヒスイ。

 彼女の習熟は、本来の筋書きよりも随分と早い。

 

 何故かと理由を問うならば、シュウホウからの支援が、要因としては最も大きい。

 

 ベルナの課す修行は、常軌(じょうき)(いっ)した域にある。

 だがしかし、過酷だからこそ、彼女はヒスイの食事等にも細かく注意を配っている。

 

 人は気力だけで強くなどなれない。

 身体を動かすには栄養が、消耗を癒すには休養が必要不可欠。

 

 時に夜を(てっ)し、パンひと切れ口にする暇さえ無い鍛錬を(ほどこ)すことも、確かにある。

 けれども、そこで生じた不足分は、必ず前後で(まかな)わせている。

 そのあたりは、一度たりとも(おろそ)かにはしていない。

 

 したがって、ベルナとヒスイの二人きりだった本来の筋書きでは、共に過ごした時間の半分近くを生活基盤の作成に割いていた。

 

 黒い炎と赤い雨の被害を受け、大半が駄目になった畑の立て直し。

 獣や果実などを目的とした、森での食糧調達。

 他にも、炊事や洗濯などの雑事全般。

 

 が──この現実において、そうした交々(こもごも)は、シュウホウが一手に(にな)っている。

 

 だからこそ、ヒスイはベルナとの修行に専念できている。

 (しか)らば、どちらの方が能率で(まさ)るかなど、比べるにも及ばないだろう。

 

 

 

 

 

「何をやっている?」

 

 夕食の支度(したく)を終えたシュウホウ。

 二人が戻るまで手持ち無沙汰だったため、村の片隅で草をむしっていた彼の背中に、(いぶか)しげな声が掛けられる。

 

 振り返った先には、眉根を寄せたベルナの姿。

 どうやら今日の鍛錬は早めに終わった模様。

 

「お疲れ。ヒスイは?」

「水を欲しがったから川に放り込んでおいた。満足したら戻るだろう」

 

 突っ込みどころ満載な台詞(せりふ)であったが、シュウホウは曖昧な表情と共に、そうか、とだけ返した。

 割と日常茶飯事らしい。

 

「それで、何をやっているのだ」

「見ての通り、草取りだ。だいぶ(しげ)ってたんでな」

「…………」

 

 何食わぬ口振りでの返答。

 シュウホウの手元に注がれていたベルナの眼差しが、険しさを増す。

 

「キミは(いささ)か、優しすぎる」

 

 憮然(ぶぜん)とした、(たしな)めるような語調。

 もっとも、当然と言えば当然の反応。

 

 そこは、亡骸を野晒(のざら)しで放置するワケにもいかなかった、ガルド一味の墓なのだから。

 

「賊徒の(つか)へと墓標を立てるだけに留まらず、手入れまで行うなど」

 

 墓前に花を供えるどころか、唾を吐きかけられて(しか)るべき所業を積み重ねてきた輩。

 そもそもシュウホウ自身、危うく奴隷として売り飛ばされるところだった。

 

「死者に同情を寄せたくなる気持ちは理解できる。しかし、たとえ死のうとも悪党は悪党だ」

「……分かってるさ」

 

 だからこうして、ヒスイが居ないうちにやってる。

 

 そんな口舌(くぜつ)を続け、バツが悪そうに再び草をむしり始めるシュウホウ。

 彼の背中を見つめながら、ベルナは溜息交じりに肩をすくめる。

 

 そして。その隣で、しゃがみ込んだ。

 

「手伝おう」

「…………」

 

 シュウホウは何も言わず、黙々と作業に(てっ)した。

 どう言葉を返せばいいのか、分からなかったのだろう。

 

 

 

 

 

 ちらと横目で捉えた、ベルナの顔。

 彼女が浮かばせていた表情を、見てしまったから。

 

 

 

 

 

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