××を殺す病   作:竜胆マサタカ

63 / 63
62

 

 

 

 

 

「先刻の話は、内密で頼む」

 

 おおむね草取りを終えた頃合、全身ずぶ濡れとなったヒスイが、幽鬼さながらの足取りで戻ってきた。

 その様子を見かねたシュウホウが湯を沸かしていると、彼の後ろに立ったベルナが、やや口籠(くちご)もった語調で、そう述べる。

 

「あの子にとって、私は血も涙も無い()()()()でいた方が都合が良い」

 

 指導者に対する適度な反骨精神は、モチベーションを(うなが)すカンフル剤となり得る。

 師弟関係は多少不仲な方が、結果的には上手く回りやすい。

 

 それがベルナの基本的な見解であり、指導方針の大筋でもあった。

 

「あまり情を寄せ過ぎてしまうと、目が曇る。お互いにな」

 

 本来の筋書きにおいては(たも)てなかった、適切な距離感。

 もっとも、他に誰も居ない森深くの村跡に半年間も二人きりだった背景を(かんが)みれば、無理からぬ帰着(きちゃく)だろう。

 

 結局のところ、人間という生き物は理性と感情とを完全には切り離せない。

 長く濃く厚く接した相手ほど、私情の差し挟まる隙間は大きく広がっていく。

 良くも悪くも、ドライな間柄に(てっ)しきることは難しい。

 

「憎まれ役も務めのうちか。お師匠様は大変だな」

「からかわないでくれ」

 

 そういう意味合いでは、現状におけるヒスイとベルナの関係性は至極良好だった。

 シュウホウの存在が修行と日常を切り分けてくれているお陰で、少なくとも剣で打ち合う時の彼女たちは、余計な感情を(やいば)に乗せてはいなかった。

 

「……しかしまあ、鬼はともかく……ばばあ呼ばわりは、流石にやめて欲しいところだが」

 

 まだ二十代だぞ、と苦々しげに続く口舌(くぜつ)

 沸いた湯を大きな桶へと移し、適温となるよう水で埋めながら、シュウホウが苦笑した。

 

「ヒスイも本気で言ってるワケじゃないさ」

「どうだか。あの子がキミと二人の時に私のことを話すとしたら、ほぼほぼ聞くに()えん罵詈雑言(ばりぞうごん)の嵐だろう?」

「まだちょっと熱いな。水を足そう」

「図星か」

 

 わざとらしいはぐらかし。

 ベルナが肩をすくめ、深々と溜息をつく。

 

 …………。

 ただ、決して罵倒(ばとう)だけではないことも、確かだった。

 

「たまに褒め言葉も聞くぞ」

「ほう? いったいどのように私を褒め称えているのか、是非とも教えて貰いたい」

「覚えの悪い私に根気強く付き合ってくれるあたり性格が粘着質だとか、手入れが雑なくせに腹立たしいくらい美人だとか」

 

 純粋な褒め言葉と受け取るには、だいぶトゲを含んだ口振り。

 反応に困ったベルナの渋面(じゅうめん)に、今度はシュウホウが肩をすくめた。

 

「ま、熱心にヒスイを見てくれてるのも、美人なのも、本当のことだ」

「ッ……」

 

 何気なく呟かれた、取り立てて深い意味は無い文言(もんごん)

 だがしかし、それを聞きとめたベルナは、静かに目を見開かせる。

 

「……キミ、も」

「ん?」

 

 唇の隙間から(こぼ)れたような小声。

 作業の手を止めたシュウホウが、疑問符と共に彼女へと向き直る。

 

「キミも……その、私を……美人だと、思うか……?」

 

 やや間を置き、俯き気味に視線を外しながら、訥々(とつとつ)と問うベルナ。

 シュウホウは、しばし思案げに彼女の顔を見つめ、こめかみに指先を添える。

 

「ああ──」

 

 ──今まで知り合った中で、二番目くらいにはな。

 

 そう頭に浮かんだ台詞(せりふ)を呑み込み、ただ頷いて返す。

 (いささ)かデリカシーに欠ける発言だと判断したらしい。

 

「…………」

 

 斯様(かよう)な彼の胸中など知る(よし)も無いベルナは、そうか、とだけ短く答え、両手で目元から下を覆う。

 

 差し込む夕陽を受けた頬が、ほんのりと赤らんでいた。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

担いだ神輿が重すぎる!(作者:Ωが来た!)(オリジナルファンタジー/コメディ)

 周囲が人外だらけの中、主人公が生き残る為に軽そうな魔王候補を神輿として担いだ筈が…なんか気付いたら手に負えなくなっていた話▼ 或いは、ヤバい女達に囲まれ人外価値観に振り回されてながらも、知恵と勇気と下心で切り抜けようとするお話。▼ 尚、大小様々な矢印を追加で受けている様で、しっかりそれにも振り回される模様。


総合評価:1594/評価:8.47/連載:19話/更新日時:2026年09月09日(水) 07:00 小説情報

救えなかったら時が戻る人、やり遂げたら何故か周りが病み始める。(作者:ゲーミング千手観音)(オリジナル現代/日常)

▼ 普通に日常を過ごしていただけなのに、何故か突然「その日毎に救助対象が変わって、しかも助けられずに死なせてしまうと一日の最初に戻る」という状態に陥ってしまう主人公。▼ 絶望して、心を壊しながらも一年間やり遂げた主人公はその呪いから開放される。▼ ────そしたらなんか今まで助けた人全員病んだ。なんで?▼ そう言ったお話。▼ 尚、助けられた人達は呪いが無くな…


総合評価:1095/評価:8.21/連載:8話/更新日時:2026年07月25日(土) 20:00 小説情報

ヤンデレに監禁されるわけwww(作者:ヤンデレエアプ)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

ヤンデレから逃げようと思ってる。▼ヤンデレのみんなには悪いけど抜け駆けで▼ヤンデレは逃走とかされたことないから、びっくりするかもしれないけど、もう逃げたい気持ちを我慢できないから▼


総合評価:2243/評価:8.22/連載:7話/更新日時:2026年09月09日(水) 12:06 小説情報

不憫少女を死ぬほど甘やかした結果(作者:重い女すこ)(オリジナルファンタジー/コメディ)

悪魔に転生した。▼最初はマジかよ悪魔かよ俺ツエー無双モテモテ勇者転生譚が始まるんじゃないのかよとか思ったりしたものだが、悪魔に転生してから千年も経ったらそんな憧れも摩耗してきた。▼悪魔は人の欲望を最大化し、不幸と絶望を摂取する生き物だ。男や女どもの醜い欲望丸出しの見下し合い、騙し合い、小競り合いを見てきた結果、人間というものに嫌悪感を抱くまでなってしまった。…


総合評価:1991/評価:8.56/連載:7話/更新日時:2026年06月23日(火) 11:01 小説情報

ED傭兵、清純幼淫魔を誑かす 〜行き倒れ淫魔を哀れに思い、ED治療も兼ねて拾ったが――勃たんし、それを硬派で誠実と勘違いされるし〜(作者:ぞうきん)(オリジナルファンタジー/恋愛)

 過去の出来事から不能になったオッサン傭兵クレバーは、ある日淫魔の少女を拾う。あわよくばED治せないかななんて軽い気持ちで考えていたが、彼は淫魔という生物のことを全く分かっていなかった。淫魔は幼かろうがなんだろうが、好いた男のためならば――――人外の執着心を以って、あらゆる手段でその精を搾り尽くさんとするのだ。


総合評価:1736/評価:7.96/連載:10話/更新日時:2026年08月09日(日) 17:59 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>