「先刻の話は、内密で頼む」
おおむね草取りを終えた頃合、全身ずぶ濡れとなったヒスイが、幽鬼さながらの足取りで戻ってきた。
その様子を見かねたシュウホウが湯を沸かしていると、彼の後ろに立ったベルナが、やや
「あの子にとって、私は血も涙も無い
指導者に対する適度な反骨精神は、モチベーションを
師弟関係は多少不仲な方が、結果的には上手く回りやすい。
それがベルナの基本的な見解であり、指導方針の大筋でもあった。
「あまり情を寄せ過ぎてしまうと、目が曇る。お互いにな」
本来の筋書きにおいては
もっとも、他に誰も居ない森深くの村跡に半年間も二人きりだった背景を
結局のところ、人間という生き物は理性と感情とを完全には切り離せない。
長く濃く厚く接した相手ほど、私情の差し挟まる隙間は大きく広がっていく。
良くも悪くも、ドライな間柄に
「憎まれ役も務めのうちか。お師匠様は大変だな」
「からかわないでくれ」
そういう意味合いでは、現状におけるヒスイとベルナの関係性は至極良好だった。
シュウホウの存在が修行と日常を切り分けてくれているお陰で、少なくとも剣で打ち合う時の彼女たちは、余計な感情を
「……しかしまあ、鬼はともかく……ばばあ呼ばわりは、流石にやめて欲しいところだが」
まだ二十代だぞ、と苦々しげに続く
沸いた湯を大きな桶へと移し、適温となるよう水で埋めながら、シュウホウが苦笑した。
「ヒスイも本気で言ってるワケじゃないさ」
「どうだか。あの子がキミと二人の時に私のことを話すとしたら、ほぼほぼ聞くに
「まだちょっと熱いな。水を足そう」
「図星か」
わざとらしいはぐらかし。
ベルナが肩をすくめ、深々と溜息をつく。
…………。
ただ、決して
「たまに褒め言葉も聞くぞ」
「ほう? いったいどのように私を褒め称えているのか、是非とも教えて貰いたい」
「覚えの悪い私に根気強く付き合ってくれるあたり性格が粘着質だとか、手入れが雑なくせに腹立たしいくらい美人だとか」
純粋な褒め言葉と受け取るには、だいぶトゲを含んだ口振り。
反応に困ったベルナの
「ま、熱心にヒスイを見てくれてるのも、美人なのも、本当のことだ」
「ッ……」
何気なく呟かれた、取り立てて深い意味は無い
だがしかし、それを聞きとめたベルナは、静かに目を見開かせる。
「……キミ、も」
「ん?」
唇の隙間から
作業の手を止めたシュウホウが、疑問符と共に彼女へと向き直る。
「キミも……その、私を……美人だと、思うか……?」
やや間を置き、俯き気味に視線を外しながら、
シュウホウは、しばし思案げに彼女の顔を見つめ、こめかみに指先を添える。
「ああ──」
──今まで知り合った中で、二番目くらいにはな。
そう頭に浮かんだ
「…………」
差し込む夕陽を受けた頬が、ほんのりと赤らんでいた。