××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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 きゅり、きゅり、と小さな金属音が室内に鳴り渡る。

 気付けば、すっかりと耳に馴染んだ音色だった。

 

「──義手で髪を()うのも、随分こなれたな」

 

 世にも珍しい、赤と黒の二色が入り混じった頭髪。

 それを()り分け、編み込んでいくシュウホウに、ベルナが感嘆(かんたん)の声を上げる。

 

 もはや私より遥かに上手い、と内心(おのの)きながら。

 

「ようやくコツが掴めてきた。早い話、指先に注意が(かたよ)り過ぎていたんだ」

「指先、ですか?」

 

 椅子に座り、されるがまま髪を(いじ)らせていたヒスイが、浅く首を傾げさせた。

 

「例えばカップを手に取る時なんかも、普通は取ろうとしているカップの方に意識が向かうだろう?」

「えっと……はい」

 

 だがシュウホウの場合、何かを掴んだり持ち上げたりする際も、自分の指をどう動かすか考えてばかりだった。

 とどのつまり、視点そのものが本来の感覚からズレていたのだ。

 

「そりゃ不器用にもなる」

 

 編み終えた髪を紐で(くく)り、飾り結びを(ほどこ)して仕上げ。

 鏡をヒスイに渡し、本人の目で出来栄えを確認させる。

 

「ほら。どうだ?」

「わあ……!」

 

 返ってきた反応は、髪と同じく二色の瞳を輝かせた笑顔。

 嬉しくて仕方ないとばかりに、満面の笑みをシュウホウへと向けやる。

 

「えへへ……ありがとうございますっ!」

 

 椅子から立ち、くるくると小躍りするヒスイ。

 そんな彼女を尻目に据えたベルナが、呆れた風に肩をすくめた。

 

「どうせ半刻と待たず、見る影も無い有様となるだろうに」

「……水を差すようなこと言わないで下さい! 師匠(せんせい)のおたんこなすー!」

 

 

 

 

 

 今日の鍛錬に出た二人を見送ったのち、シュウホウもまた支度(したく)を整える。

 肉の備蓄が心許(こころもと)ないため、狩りに向かう予定だった。

 

「そろそろ、弓の練習も始めるか」

 

 森歩き用の狩猟服に着替え、ベルナが持ち込んだクロスボウを(たずさ)えつつ、なんとはなしに呟く。

 

 十二分な威力と、片手でも扱える操作性を兼ね備えた飛び道具。

 しかしながら、強すぎる張力(ちょうりょく)ゆえ装填(そうてん)の手間が非常に大きく、またクロスボウ本体の重量も性能相応なため、持ち運ぶだけで体力を消耗する代物。

 

 要は重たくて咄嗟に取り回しづらい上、一発で獲物を仕留められなければ次を装填(そうてん)する間に逃げられてしまう。

 物事とは一長一短。全部が全部、都合良く回ってはくれないのだ。

 

「間違いなく便利なんだが、どうにもな……」

 

 今ひとつ肌に合わないらしく、眉根を寄せて手中のクロスボウを見やるシュウホウ。

 

 とはいえ、まだ義手で弓を引ける域には到達できていない。

 もう少しばかり、時間が掛かりそうであった。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

「…………」

 

 サリテ村の端に建つ家を出たシュウホウ。

 しかし彼は、そのまま森には入らなかった。

 

 まず向かった先は、村の中央広場。

 そこに築かれた墓地──整然と並ぶ墓標のひとつを前に、軽く目を伏せる。

 

「…………」

 

 焼け焦げた襟巻きと、銀の指輪が供えられた墓。

 しばし、その場に(たたず)んだのち、木彫りの耳飾りへと触れながら、シュウホウは囁くように告げるのだった。 

 

「……行ってくる」

 

 

 

 

 

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