××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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64:閑話7

 

 

 

 

 

 ………………………………。

 ……………………。

 …………。

 

 ──『()絶望(きぼう)』第一章、終盤。

 作中期間で約半年に(わた)る修行パートを()て、事態は急展開を迎える。

 

 運命の日、主人公の少女は一人きりで村に居た。

 師である女性剣士が獣を狩りに行っている間、村人たちの墓を掃除していたのだ。

 

 そんな中、気付けば少女は数十人の賊に囲まれていた。

 そして、かつて自分を(さら)い、散々に(もてあそ)んだ末、剣士によって撃退された賊の首魁(しゅかい)──手配犯の男と、再び対面した。

 

 もっとも、此度(こたび)における男の目的は、少女ではなかった。

 彼女を人質に取り、剣士を捕らえることだった。

 

 そのために男は新たな手下を揃え、周到に準備を重ねていた。

 およそ半年間、確実な好機の訪れを待ち続けていた。

 

 満を()しての襲撃。

 咄嗟の決断を迫られた際、少女は判断を誤った。

 剣士との修行で着実に力をつけていた彼女は、逃げるのではなく立ち向かう道を選んでしまった。

 

 事実、少女は善戦した。

 数人の手下を斬り伏せ、一度は手配犯の男の喉笛に切っ先を迫らせた。

 

 けれども、結局は数の暴力に(かな)わず、あえなく囚われの身となった。

 

 危機を察した剣士が駆け付けた頃には、すべてが手遅れだった。

 少女を盾にされ、武器を捨てるよう求められた。

 

 人質が単なる赤の他人であったなら、剣士は迷わず見捨てただろう。

 剣士にとって手配犯の男は、愛した人の(かたき)でもあるのだから。

 

 だがしかし、構わず斬り捨てるには、剣士は少女へと情を寄せすぎてしまっていた。

 仇討(あだう)ちと少女の命とを(はかり)にかけた結果、剣士は無抵抗で剣を捨てた。

 

 男は、ただ少女を捕らえるだけならば、この日を迎えるまで他に何度もチャンスがあった。

 にもかかわらず半年もの間、ひたすら待ち続けた理由だった。

 

 そこから数ヶ月間、二人はあらゆる方法で(はずかし)められた。

 取り分け女性剣士が受けた仕打ちは、筆舌に尽くしがたいものであった。

 

 手配犯の男にとっても、剣士は特別な存在だった。

 彼が賊へと堕ちるよりも前、まだ真っ当な軍人であった頃から、鬱屈(うっくつ)とした感情を(いだ)き続けていた相手だった。

 

 男は剣士を、手下たちには指一本触れさせなかった。

 少女の命で脅しをかけ、奴隷のように、家畜のように、情婦のように扱った。

 成人版では、偏執的(へんしゅうてき)で捻じ曲がった欲望による行為の数々が、赤裸々(せきらら)と描写されている。

 

 ──だがしかし、どんな目に遭おうとも、剣士は諦めなかった。

 

 今度は剣士が、好機を待ち続けた。

 そして数ヶ月ののちに訪れた、ほんの僅かな光明を、見事に掴んでみせた。

 

 剣士はボロボロの身体で、再び剣を取った。

 少女に群がる手下たちを一掃し、彼女を逃がした。

 

 が──剣士自身は、逃げなかった。

 

 何故なら、すでに剣士は身籠(みご)もっていた。

 あらゆる陵辱(りょうじょく)を耐え抜いた彼女も、(かたき)の子を産むことだけは、耐えがたかったのだ。

 

 剣士は男たちのアジトである洞窟に火をかけ、自分もろとも何もかもを焼き払った。

 唯一逃げ(おお)せた少女は、煌々(こうこう)と燃え盛る炎が尽きるまで、洞窟の前で立ち尽くしていた。

 

 その間、一声(ひとこえ)の悲鳴も上がらず、一滴の涙さえも(こぼ)れなかった。

 もはや泣き叫ぶことすら(あた)わず、ただただ少女は茫然自失と炎を見つめていた。

 

 

 

 

 …………。

 これこそが、少女の辿った二つ目の絶望。

 

 己に対する過信と慢心のせいで、姉にも等しく慕っていた師を失ってしまった。

 少女は二人から、また(ひと)りとなった。

 

 

 

 

 

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