××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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 ちょうど西日が完全に失せる間際、シュウホウはサリテ村まで帰り着いた。

 

「…………」

 

 やけに静かで、重々しい空気。

 そう間を置かず違和感を気取(けど)った彼は、荷物を捨てて駆け出した。

 

 そして。感じ取った異変の正体と、対面する。

 

「……………………」

 

 墓所(ぼしょ)である広場の近くに転がった、数人の男の死体。

 いずれも鋭利な刃物で身体を裂かれ、血溜まりの中に倒れている。

 

 ()()()にこそ既視感(きしかん)はあったが、見知った顔は一人も居ない。

 ただ、およそ堅気(カタギ)の人間ではないと、その風体(ふうてい)から察せられた。

 

 ──否。そんなことなど、この際どうでもいい。

 

「何故」

 

 金色の双眸(そうぼう)を見開かせたシュウホウが、震えた声音で呟く。

 

 彼の瞳が向かう先には、死体の傍へと無造作に転がった、二本の剣。

 

 見間違えるワケもない。

 女神の(つるぎ)と、ベルナの愛剣だった。

 

「何故」

 

 おぼつかない様子で、剣へと近寄る。

 

 視界の焦点が定まらない。

 甲高い耳鳴りが鼓膜に突き刺さる。

 浅く速く、引きつったような呼吸を繰り返す。

 

「ッッ」

 

 ふと、血溜まりに浸かったボロ布が目についた。

 それを錆びた所作で見とめたのち、いよいよシュウホウは顔面蒼白となる。

 

「そん、な」

 

 無惨に引き裂かれた、特徴的な黒衣(こくい)の残骸。

 シュウホウと始めて出会った時も袖を通していた、ヒスイの服。

 

 彼が知る物語(ゲーム)の一幕を彩った一枚絵(スチル)と、()()()()()()()()だった。

 

「何故、だ」

 

 足が震えて立っていられず、膝から崩れ落ちる。

 こみ上げる嘔気(おうき)のまま、胃の中身を残らず吐き戻す。

 

「何故、何故、何故、何故、なぜ、なぜ、なぜ……なんでッッ……!!」

 

 シュウホウは、理解できなかった。

 ただただひたすら、疑問ばかりが脳裏を駆け巡った。

 

「なんで、どうしてっ」

 

 ()()()()原因は取り除いたハズなのに何故、と。

 確かに自分の手でガルドを殺したハズなのに何故、と。

 

「ふざけるな、ふざけるなよ。ちくしょう、ちくしょうっ」

 

 灰色の髪を掻きむしり、ぶつけどころの無い怒りと厭悪(えんお)を並べ立てる。

 絶望感と無力感が胸を埋め尽くし、目の前がチカチカと明滅する。

 

「ちくしょう……ちく、しょう……」

 

 そのままシュウホウは、血と胃液の臭いが立ち込めた広場に(うずくま)り──

 

「──ッッ、くそォ!!」

 

 額が割れるほどの勢いで、頭を地面に打ち付けた。

 

「落ち着け」

 

 更にもう一度、鈍い殴打が鳴り響く。

 

「落ち着け落ち着け落ち着け、馬鹿野郎が。ぐだぐだ考えるのは後回しだ」

 

 そうして文字通り、頭に上った血を下ろす。

 まだ息は荒いものの、確かな足取りで立ち上がる。

 

 次いで額を(ぬぐ)いながら、賊と(おぼ)しき亡骸が作った血溜まりへと触れた。

 

「……まだ、そう時間は()ってない」

 

 血は冷たくなっているものの、乾いているのは(ふち)の部分だけ。

 つまりこの惨状は、せいぜいのところ二時間か三時間前の出来事。

 

「小屋で一夜を明かさなくて、本当に良かった」

 

 もしも其方(そちら)の選択肢を()っていたなら、きっとシュウホウは死ぬまで後悔し続けただろう。

 不幸中の幸いだと、心の内で己を鼓舞(こぶ)する。

 

「二人は(さら)われた。()()()()()()

 

 ひとまず、そこについては認めなければならない。

 理由や経緯(いきさつ)うんぬんの考証については、あとでいくらでもすればいい。

 

「だが」

 

 差し当たって重要なことは、ひとつだけだった。

 

「ここには、俺が居る」

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 すなわち──筋書きを変えられる、唯一の不確定要素。

 

「俺が助け出す。助け出せる」

 

 正直、なんの確証も無い理屈だった。

 それでもシュウホウは、あえて強く断言した。

 

「…………」

 

 次いで彼は、足元に転がる二本の剣を見やる。

 ……よくよく(あらた)めると、近くにはベルナの服も脱ぎ捨てられていた。

 

「ッ」

 

 二人の救出に向かうならば、武器は必須。

 しかしながら、両方持って行けば道中での荷物となる。

 

 暫時(ざんじ)思量(しりょう)()て、シュウホウは女神の(つるぎ)を選んだ。

 

 (あわ)せて、身を(ひるがえ)し、夜の森へと駆け込んで行った。

 

 

 

 

 

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