××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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「あごぁッ」

 

 情報を聞き出し終えたシュウホウが、用済みとなった見張りの首を、深々と斬り裂く。

 

 (いささ)かばかり、彼らしからぬ行為。

 だがしかし、わざわざ生かしておく理由も、そんな選択肢が()れるだけの余裕も、生憎と今は持ち合わせていなかった。

 

「あが、が、がッ」

 

 ばっさりと頚動脈を断たれ、勢い良く噴き出す鮮血。

 (またた)く間に事切れる、賊の男。

 

 絶命を確かめたのち、返り血を払いつつシュウホウは立ち上がった。

 人血(じんけつ)で濡れた狩猟刀(ハンティングナイフ)の刃を拭きながら、吐息とも溜息ともつかない呼気(こき)(こぼ)す。

 

「…………」

 

 お世辞にも優れぬ顔色。

 指先を震わせ、やや手間取りながらも、ナイフを鞘に収めた。

 

 次いで眉間(みけん)にシワを寄せ、険しい面差しとなる。

 

 胸の内で思うのは、今し方に聞かされた、この洞窟に陣取る一党の名。

 

「まったく知らん……」

 

 脱走兵ガルド。

 本来の筋書きにおいて、()()()()を作り出す元凶となるハズだった存在。

 

 それを排したにもかかわらず、まるで示し合わせたかのごとく、忠実に物語(ストーリー)はなぞられた。

 縁もゆかりも無い、第三者の手によって。

 

「……そういうこと……なの、か?」

 

 シュウホウは、自分たちの置かれた現状が意味するところを、おぼろげながらに悟り始める。

 

 理解が進むにつれて浮かばせるのは、苦虫を噛み潰したような表情。

 おそらく無意識に、義手と実手(じつしゅ)の両方を硬く握り締めた。

 

「…………ああ、くそ」

 

 とはいえ、返す返すも状況は逼迫(ひっぱく)している。

 考察は後回しだと無理やり頭から振り払い、シュウホウは洞窟の入り口を睨み付けた。

 

「チッ……」

 

 見張りからの情報(いわ)く、ヒスイとベルナを(さら)った賊の総勢は、およそ三十人。

 何故()()()かと言うと、尋ねた当人も正確な数字が曖昧(あいまい)だったのだ。

 

「厄介だな」

 

 すなわち、自分が属するグループの人数すらロクに把握できていない程度の下っ端。

 更には洞窟の地形もあやふやで、仲間の配置は元より、ヒスイとベルナの居場所さえ大雑把(おおざっぱ)にしか答えられなかった始末。

 

「残す方を間違えたか」

 

 見張り二人の片割れを仕留める際、あまりよく考えもせず、間合いが遠かった方を射抜いた軽挙に歯噛みするシュウホウ。

 

 改めて思えば、あっちが明らかに年配だった。

 つまり、年嵩(としかさ)の分だけ古参である可能性が高かったのだ。

 

 尋問するならどちらを選ぶべきかなど、少し頭を使えば容易に判断できた話。

 ()くあまり、簡単な二択を損ねてしまったことに、苛立ちと自省(じせい)(いだ)く。

 

 ──ただ、一応は朗報も得られた。

 

 ()()か、()()か。

 ヒスイとベルナの処遇について、どうやらグループ内でも意見が割れてるらしい。

 

 したがって、二人はまだ無事。(はずかし)められてはいない。

 あくまで見張りの男が知る限りでは、だが。

 

 更に付け加えるなら、その無事がいつまで続いてくれるのかも分からない。

 依然(いぜん)、急を要する事態であることには変わらなかった。

 

 だがしかし──ひとまずは、間に合ったと言っていいだろう。

 

「ふうぅ」

 

 再度シュウホウは深く静かに息を吐き、頬に伝った冷や汗を(ぬぐ)う。

 (あわ)せて、クロスボウに短矢(ボルト)(つが)え、腰に()いた女神の(つるぎ)を抜いた。

 

「…………」

 

 鏡面のごとく磨き抜かれた、なれどもシュウホウの姿を映さない剣身。

 狭い洞窟内で両手剣(クレイモア)など振り回せないため、此方(こちら)を選ばざるを得なかった、できれば触りたくない代物。

 

「……頼むから、妙なことにはならないでくれよ……」

 

 そう囁き、三度呼吸を繰り返す。

 

 そして。奥から(かす)かに物音や話し声が響く虎穴(こけつ)へと、迷わず足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

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