××を殺す病   作:竜胆マサタカ

72 / 72
71

 

 

 

 

 

「……いったい、どういうつもりだ」

 

 洞窟浅部(せんぶ)の突き当たりに位置する、そこそこ開けた空間。

 元は坑員(こういん)の休憩所だったと(おぼ)しきそこに連れ込まれたベルナは、一糸まとわぬ裸体を隠そうともせず、自分たちを(さら)った一党の頭目である眼前の男を睨み付けた。

 

「私を犯したいなら好きにすればいい。何故このような回りくどい真似をする」

「へへっ。気の強い女だ」

 

 ベルナを(いまし)める(かせ)は、すでに解かれている。

 そればかりか、剣まで渡されていた。

 

「お前みたいな上玉、ただモノにしたんじゃ芸がねぇ」

 

 ()めつ(すが)めつ、舐め回すかのようにベルナの肌身を這う粘着質な視線。

 

 王都の高級娼婦(しょうふ)と並んでも遜色(そんしょく)ないだろう、均整のとれた瑞々(みずみず)しい肢体。

 数々の修羅場を、ほとんど無傷のまま切り抜けてきたがゆえの、(けが)れなき髪膚(はっぷ)

 

 まさしく垂涎(すいぜん)ものの美貌(びぼう)

 腹立たしいくらい美人、とはヒスイの(ひょう)

 

「腕に自信があるんだろ? 俺に勝ったら自由にしてやるってんだ。悪りぃ話じゃねぇと思うがな」

「……下衆(げす)め」

 

 そう吐き捨て、ちらと手元に目を向けたベルナ。

 握る剣の切っ先が、小刻みに震えていた。

 

「ッ……」

 

 檻から引きずり出される際、首筋に打ち込まれた針。

 おそらく痺れ薬の(たぐい)だろう。身体が思うように動かない。

 

 とどのつまり、頭目の男からしてみれば、この提案は単なる余興。

 小娘(ヒスイ)に仲間を何人もやられ、プライドを傷付けられた腹いせ。

 

 ひいては、ベルナを力尽くで組み伏せたいという、救いがたい虚栄心。

 

「そら、どうするよ? まあ嫌だってんなら仕方ねぇ。二人纏めて売り(さば)くだけだぜ?」

 

 ニヤニヤと勝ち誇った男の笑みに、ベルナは(まなじり)を吊り上げる。

 薬が効いていなければ、歯ぎしりで奥歯が何本か砕けてしまったに違いない。

 

「…………」

 

 直に(やいば)を合わせるまでもなく、対面するだけで分かった。

 平時なら、万全どころか寝起きであっても、一顧(いっこ)だにせず斬り伏せられる程度の相手だと。

 

 だがしかし、剣を握るだけでやっとな今の有様では、まともな勝負にもならない。

 いいように遊ばれ、取るにも足らないゴロツキの自尊心をくすぐるだけの結果に終わることは、目に見えていた。

 

「……分かった。受けて立つ」

「へへへへへっ。そうこなくっちゃな」

 

 それでもベルナには、頷く以外の選択肢などなかった。

 少なくとも、こうやって悪趣味な嗜好(しこう)に付き合っている間は、ヒスイが無事でいられる可能性は高まるのだから。

 

「そんじゃあ早速、行くぜぇッ!」

「!!」

 

 恵まれた体格による、力任せな棍棒(こんぼう)の振り下ろし。

 かろうじて受け流すも、体幹を崩され、たたらを踏む。

 

「へへへへへへへっ! いい顔だ! その綺麗なツラぁ、もっと歪ませろ!」

 

 指先に力が入らず、うまく剣を構えられない。

 反撃に打って出るどころか、防御や回避さえ危うい。

 

「ほぉれ、頑張れ頑張れぇ! たっぷり可愛がる前に、たっぷり遊ばせてくれよぉ!」

 

 剣戟(けんげき)を重ねる(ごと)、じわじわと追い詰められていく。

 あと十回も打ち合わせれば剣を弾き飛ばされるという予見と共に、ベルナは呆気なく組み伏せられる自分の姿を幻視した。

 

「くッ……!!」

 

 内乱に巻き込まれて両親を亡くしたベルナは、自分のような人間を少しでも減らしたくて、軍人となった。

 女の身で戦場に出ると決めた時から、いつか、こうなる覚悟はあった。

 

 けれども、口惜しいものは口惜しい。

 こんな形で、純潔を散らされるなど、と。

 

「くそッッ──」

 

 悪態をついたベルナの脳裏に、ふとシュウホウの顔が浮かぶ。

 噛み締めた唇の端から、ひとしずく、赤い血が(したた)った。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

担いだ神輿が重すぎる!(作者:Ωが来た!)(オリジナルファンタジー/コメディ)

 周囲が人外だらけの中、主人公が生き残る為に軽そうな魔王候補を神輿として担いだ筈が…なんか気付いたら手に負えなくなっていた話▼ 或いは、ヤバい女達に囲まれ人外価値観に振り回されてながらも、知恵と勇気と下心で切り抜けようとするお話。▼ 尚、大小様々な矢印を追加で受けている様で、しっかりそれにも振り回される模様。


総合評価:1692/評価:8.5/連載:21話/更新日時:2026年09月13日(日) 07:00 小説情報

救えなかったら時が戻る人、やり遂げたら何故か周りが病み始める。(作者:ゲーミング千手観音)(オリジナル現代/日常)

▼ 普通に日常を過ごしていただけなのに、何故か突然「その日毎に救助対象が変わって、しかも助けられずに死なせてしまうと一日の最初に戻る」という状態に陥ってしまう主人公。▼ 絶望して、心を壊しながらも一年間やり遂げた主人公はその呪いから開放される。▼ ────そしたらなんか今まで助けた人全員病んだ。なんで?▼ そう言ったお話。▼ 尚、助けられた人達は呪いが無くな…


総合評価:1110/評価:8.21/連載:8話/更新日時:2026年07月25日(土) 20:00 小説情報

不憫少女を死ぬほど甘やかした結果(作者:重い女すこ)(オリジナルファンタジー/コメディ)

悪魔に転生した。▼最初はマジかよ悪魔かよ俺ツエー無双モテモテ勇者転生譚が始まるんじゃないのかよとか思ったりしたものだが、悪魔に転生してから千年も経ったらそんな憧れも摩耗してきた。▼悪魔は人の欲望を最大化し、不幸と絶望を摂取する生き物だ。男や女どもの醜い欲望丸出しの見下し合い、騙し合い、小競り合いを見てきた結果、人間というものに嫌悪感を抱くまでなってしまった。…


総合評価:2003/評価:8.56/連載:7話/更新日時:2026年06月23日(火) 11:01 小説情報

ED傭兵、清純幼淫魔を誑かす 〜行き倒れ淫魔を哀れに思い、ED治療も兼ねて拾ったが――勃たんし、それを硬派で誠実と勘違いされるし〜(作者:ぞうきん)(オリジナルファンタジー/恋愛)

 過去の出来事から不能になったオッサン傭兵クレバーは、ある日淫魔の少女を拾う。あわよくばED治せないかななんて軽い気持ちで考えていたが、彼は淫魔という生物のことを全く分かっていなかった。淫魔は幼かろうがなんだろうが、好いた男のためならば――――人外の執着心を以って、あらゆる手段でその精を搾り尽くさんとするのだ。


総合評価:1749/評価:7.96/連載:10話/更新日時:2026年08月09日(日) 17:59 小説情報

ヤンデレに監禁されるわけwww(作者:ヤンデレエアプ)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

ヤンデレから逃げようと思ってる。▼ヤンデレのみんなには悪いけど抜け駆けで▼ヤンデレは逃走とかされたことないから、びっくりするかもしれないけど、もう逃げたい気持ちを我慢できないから▼


総合評価:2827/評価:8.1/連載:9話/更新日時:2026年09月15日(火) 12:06 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>