××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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 公平に述べるなら、洞窟からの脱出を果たさんとしたシュウホウたちの行動に、不手際らしい不手際はなかった。

 

 あえて難を挙げるとすれば、ベルナの心身が見た目より遥かに消耗、憔悴(しょうすい)していたことを、他の二人が完全には察しきれていなかった点くらいか。

 

 もっともヒスイもシュウホウも、各々(おのおの)が現状で(あた)う限りの注意をベルナに向けていた。

 したがって、結局のところ二人に落ち度があったとは言いがたい。

 

 すなわち、()()()()()原因は、(ひとえ)に不運ゆえである。

 

 …………。

 あるいは──少しだけ意地の悪い言い方をするのであれば──ベルナに気を配りすぎたあまり、周囲への警戒が(おろそ)かになっていたためだろう。

 

 

 

 

 

「……ッ!!」

 

 シュウホウが横薙ぎに棍棒(こんぼう)を振るう。

 間合いを詰めるべく迫ってきた賊たちを、纏めて牽制(けんせい)する。

 (あわ)せてベルナとヒスイを背後に(かば)い、二人ともども後退し、更に距離を稼ぐ。

 

「くっ……」

 

 だがしかし、そんなものは苦し紛れの無駄な抵抗に過ぎなかった。

 すでに三人は、行き止まりの空間へと追い詰められているのだから。

 

「せっかく(さら)った上玉を横取りしようたぁ、ふてぇ野郎だぜ」

「見張りのバカ共は何やってやがった! 使えねぇ奴等だ、あとでブッ殺してやる!」

「なんだ、あの左腕……肌やら髪やらの色といい、妙なナリしやがって」

好事家(こうずか)連中に見せりゃ良い金になりそうだ。さっさと捕まえちまおう」

 

 口々に好き勝手な台詞(せりふ)を並べ立てる、十人近い賊徒。

 加えて、あちこちから聞こえてくる複数の足音や怒号。

 

 すなわち時が()つほど、状況は悪化する一方。

 可及的速やかな離脱こそ最適解であることなど、シュウホウたちとて百も承知。

 

 けれど──この場を切り抜けるための手立てが、思い浮かばないのだ。

 

「くそ……くそッ! 薬さえ抜ければ、こんな……!!」

 

 壁に手をつき、がくがくと足腰を震わせ、ようやく立っている有様で歯噛みするベルナ。

 無理やり動き回ったせいか、痺れ薬の効果は薄れるどころか顕著(けんちょ)となっている模様。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ッ」

 

 一方、手のひらに血が(にじ)むほど強く剣を握り締め、浅い呼吸を重ねるヒスイ。

 瞳孔(どうこう)の開ききった双眸(そうぼう)を忙しなく周囲へと巡らせる様は、明らかに精彩を欠いていた。

 

「死んで、死んで、死んで死んで死んで死んで死んで死んでなんで生きてるのなんで死なないのなんでなんでなんでなんでなんでなんで──」

「ッ……」

 

 程なくヒスイは、ひたすら「死んで」と「なんで」の二語を小声で反唱(はんしょう)し始めた。

 おそらく本人も無自覚な行為に、シュウホウは別の意味でも冷や汗を伝わせる。

 

 ──このままじゃ、マズい。

 

「…………?」

 

 そんな中、ふと彼の視線が天井へと向いた。

 どうにか活路を求めんとする本能が後押しし、気付かせたのだろう。

 

「!!」

 

 ここは大昔に打ち捨てられた廃鉱(はいこう)

 長らく人の手など加えられていない、人工の洞窟。

 

 人為的に地形を切り崩して築かれた構造物というものは、大抵の場合どこかしらに(ひず)みを孕ませた、不自然な存在。

 大きかったり複雑だったりするほど、継続的な整備を施さなければ、あっという間に劣化する道理。

 

 ──天井一面へと、大小無数の亀裂が(はし)っていた。

 

「ッッ……!!」

 

 ままよ、と胸の内で叫ぶシュウホウ。

 最も深いヒビのあった頭上めがけて、力の限りに棍棒(こんぼう)を投げ付ける。

 

 衝突と同時に響き渡る、鈍く重い音。

 

 ぱらぱらと、石片が(こぼ)れ落ちる。

 だんだんと、破片ひとつひとつが大きくなる。

 

 

 

 

 

 やがて、凄まじい轟音の波紋と共に──崩落を引き起こした。

 

 

 

 

 

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