××を殺す病   作:竜胆マサタカ

75 / 75
74

 

 

 

 

 

「ぅ……く……ッ」

 

 (おびただ)しい振動と衝撃。

 とても立ってなどいられなかった、けれど実際の時間にしてみれば僅か数秒の出来事。

 

 それがひとまず収まった頃合、シュウホウは伏せていた顔を上げた。

 

「だ……大丈夫、か……?」

「うぅ、ぁ……は、はい……どこも、痛くはないです……」

 

 咄嗟に覆い被さる形で守ったヒスイともども、身を起こす。

 軽く周囲を見渡すと、直径十メートル近かった空間の八割ほどが、崩れた岩で埋め尽くされていた。

 

「……どうにか、上手くいったみたいだな」

 

 この場に居た賊たちの(ことごと)くは、見事なまでに岩石の下敷き。

 正確には一人だけ即死を(まぬが)れていたが、左半身を完全に押し潰され、(うめ)くばかりの有様。

 あれでは、いっそ死んだ方がマシだろう。

 

「ふぅぅ……こんな綱渡り、二度と御免だ……」

 

 悪態と(あわ)せて、一か八かの賭けに勝ったらしいと、しばし安堵に(ひた)るシュウホウ。

 が──ややあって、再び表情を張り詰めさせる。

 

 ベルナの姿が、見当たらなかったのだ。

 

「ッッ……ベルナ!? ベルナ、どこだ!?」

 

 崩落間際、我武者羅に懐へと引き寄せられたのはヒスイ一人だけ。

 まさか巻き込まれたのかと、耳の奥で血の気が引く音を感じながら、シュウホウは声を張り上げる。

 

 そして。

 

「──ああ。ここだ」

 

 積み上がった岩の向こうから、くぐもった返事が聞こえてきた。

 

「ベルナ! 無事か!?」

「問題ない。まったく、無茶をやってくれる。しかし悪くない判断だった」

 

 くつくつと笑いを含ませた、呆れ半分、感心半分の声色。

 震えた吐息で動悸(どうき)(しず)めたのち、今一度シュウホウは辺り一面の状況を(あらた)めた。

 

「俺たちの方は、なんとか通路側に抜けられそうだ」

「そうか。幸い此方(こちら)も完全には塞がっていない。少々ばかり狭いがな」

「分かった。今そっちに行く」

 

 石片を払いのけながら立ち上がるシュウホウ。

 次いでヒスイを助け起こし、どこから回り込もうかと思案する。

 

「──なあ。シュウホウ」

 

 そんな只中(ただなか)

 おもむろに、ベルナが声をかけてきた。

 

「私のナイフなんだが、二本とも村に置いてきてしまったんだ」

 

 賊の前で(みずか)ら服を脱ぐよう強要されたことを思い返したのか、苦々しげに述べる。

 

 ひとつ間を挟み、ベルナは更に言葉を続けた。

 

「帰り着いたら、片方はキミが持っていてくれないか」

「……は……? こんな時に、いったい何を──ッ!?」

 

 意図が掴めないとばかりの、疑問符を添えた口舌(くぜつ)

 けれども途中で()()に思い至ったのか、シュウホウは金色の瞳を見開かせた。

 

「おい! アンタ本当に無事なんだろうな!?」

()()()()

 

 簡潔に答えているようで、どこか明言を避けた言い回し。

 まだ思考が追い付いていないヒスイも異変を気取(けど)ったらしく、瞳を揺らす。

 

「そんなことより……早く、脱出を。おそらく今ので洞窟全体の均衡が崩れた。もう長くはもたない」

 

 私は構わなくていい、と。

 力なく咳き込みながら、ベルナが言葉を絞り出す。

 

「ばっ……馬鹿野郎! すぐ助ける! 待ってろ!!」

「……ふふっ……まあ、キミなら……そう言うと思ったよ」

 

 柔らかく、甘やかな語調。

 直後、岩の向こうで、大量の粘ついた水が地面を(したた)る。

 

「だが──()()()()()、流石に逃げざるを得まい?」

 

 カチッ、カチッ、と硬い物を叩く音。

 火おこしの際、よく聞く音色。

 

「どうやら、ここは石炭の鉱床(こうしょう)だったらしい」

「ッ!? まっ、待てベル──」

 

 シュウホウが声を裏返らせながら制止するも、時すでに遅し。

 

 

 

 

 

「気に病まないでくれ。これは決してキミのせいではない」

 

 空間を埋め尽くす大小様々な黒褐色(こっかっしょく)の岩石が、激しく火の手を上げ始めた。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

担いだ神輿が重すぎる!(作者:Ωが来た!)(オリジナルファンタジー/コメディ)

 周囲が人外だらけの中、主人公が生き残る為に軽そうな魔王候補を神輿として担いだ筈が…なんか気付いたら手に負えなくなっていた話▼ 或いは、ヤバい女達に囲まれ人外価値観に振り回されてながらも、知恵と勇気と下心で切り抜けようとするお話。▼ 尚、大小様々な矢印を追加で受けている様で、しっかりそれにも振り回される模様。


総合評価:1769/評価:8.53/連載:22話/更新日時:2026年09月16日(水) 07:00 小説情報

救えなかったら時が戻る人、やり遂げたら何故か周りが病み始める。(作者:ゲーミング千手観音)(オリジナル現代/日常)

▼ 普通に日常を過ごしていただけなのに、何故か突然「その日毎に救助対象が変わって、しかも助けられずに死なせてしまうと一日の最初に戻る」という状態に陥ってしまう主人公。▼ 絶望して、心を壊しながらも一年間やり遂げた主人公はその呪いから開放される。▼ ────そしたらなんか今まで助けた人全員病んだ。なんで?▼ そう言ったお話。▼ 尚、助けられた人達は呪いが無くな…


総合評価:1112/評価:8.21/連載:8話/更新日時:2026年07月25日(土) 20:00 小説情報

不憫少女を死ぬほど甘やかした結果(作者:重い女すこ)(オリジナルファンタジー/コメディ)

悪魔に転生した。▼最初はマジかよ悪魔かよ俺ツエー無双モテモテ勇者転生譚が始まるんじゃないのかよとか思ったりしたものだが、悪魔に転生してから千年も経ったらそんな憧れも摩耗してきた。▼悪魔は人の欲望を最大化し、不幸と絶望を摂取する生き物だ。男や女どもの醜い欲望丸出しの見下し合い、騙し合い、小競り合いを見てきた結果、人間というものに嫌悪感を抱くまでなってしまった。…


総合評価:2004/評価:8.56/連載:7話/更新日時:2026年06月23日(火) 11:01 小説情報

ED傭兵、清純幼淫魔を誑かす 〜行き倒れ淫魔を哀れに思い、ED治療も兼ねて拾ったが――勃たんし、それを硬派で誠実と勘違いされるし〜(作者:ぞうきん)(オリジナルファンタジー/恋愛)

 過去の出来事から不能になったオッサン傭兵クレバーは、ある日淫魔の少女を拾う。あわよくばED治せないかななんて軽い気持ちで考えていたが、彼は淫魔という生物のことを全く分かっていなかった。淫魔は幼かろうがなんだろうが、好いた男のためならば――――人外の執着心を以って、あらゆる手段でその精を搾り尽くさんとするのだ。


総合評価:1753/評価:7.96/連載:10話/更新日時:2026年08月09日(日) 17:59 小説情報

魔法少女世界で俺のエンカテーブルがクール系に偏り過ぎてるんだが(作者:TSから逃げるなぁぁ!!卑怯者おぉ!!)(オリジナル現代/冒険・バトル)

「大変だお前ら!魔物が現れ」「私には関係無い。」「騒ぎ立てる程の事ではないわ」「私が出る必要が無い…」「…………」「貴様に言われずとも分かっている!」「たぞああぁあああぁああッんああああぁあぁああ」


総合評価:1446/評価:7.92/連載:10話/更新日時:2026年07月27日(月) 19:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>