洞窟内は、たった数分で全域が火の海となった。
落盤に際し、立ち込めた
大昔、ここが
引火を重ね、加速度的に増す火勢。
あちこちで賊の悲鳴や絶叫が響き渡り、次々と炎に吞まれて行く。
「く、うっ……ああぁぁぁぁッッ!!」
ヒスイとシュウホウが洞窟の外へと飛び出したのは、まさしく間一髪のタイミングだった。
「がっ──ぐ──」
勢い余って地面を転がり、あちこちぶつけ、あるいは擦りむき、血を流す。
だがしかし、そんなことなど気にも留めず、シュウホウは弾かれたように起き上がった。
「ッ……ベルナ! 近くに居るなら返事をしろ、ベルナッ!!」
だがしかし、返答は無い。
当然と言えば当然だろう。
この洞窟の出入り口は、ここ一箇所だけなのだから。
ギリギリで逃げ延びたシュウホウたちよりも先に脱出できていない。
つまりそれは、逃げ遅れたことを意味する。
「ベルナ! くそっ……!」
シュウホウ自身、分かっている。
どんなに叫んだところで、返事などあるハズがないのだと。
そう。分かっている。
この火勢に呑まれたとなれば、どうあっても助かる見込みなどないのだと。
それでもシュウホウは声を張り続けた。
「ベルナ……!!」
故郷を失い、天涯孤独の身となったヒスイに武芸を教え、家族同然に接してくれた存在との離別。
ベルナとの暮らしで少しずつだが明るさを取り戻しつつあったヒスイは、その事件を
全てを
──それこそが、シュウホウの知る
だからこそ彼は、変えようとした。
まるで救いの無い、ひたすらな悪意だけが凝り固まった、最低最悪の
「ベルナ! 頼む、返事をしてくれ! ベルナ!!」
ヒスイ本人には、何ひとつ真実を伝えられない。
より正確に述べるなら、シュウホウが真実を知り得ていることを、
それでも、ヒスイが
何もかもが、必ずしも筋書きのまま進むワケではない。
だからこそシュウホウは、変えられると思った。
凄惨な運命を、自分という
そう信じて行動した結果が、これだった。
「ベル──ッ、げほっげほっ!!」
火に近付きすぎたあまり、激しく咳き込むシュウホウ。
その拍子によろめき、膝をついた。
「…………」
ふと、背後のヒスイを振り返る。
地面にへたり込んだ彼女は、深く項垂れていた。
まるでカーテンのごとく顔を覆う、赤と黒が入り混じった髪。
果たして今、どのような表情を浮かばせているのかは、およそ
「ヒスイ……」
シュウホウには、掛ける言葉が見つからなかった。
何より彼自身、あまりに唐突なベルナの死を、とても受け止めきれなかった。
…………。
ゆえに。シュウホウは最初、聞き間違いだと思い、己の耳を疑った。
「────────────」
炎の音に紛れて、小さく。
ほんの小さく鼓膜を掠めた、ヒスイの声。
「────────ひひっ」
それは確かに、
「ヒ、スイ……?」
まさか、と彼女を呼ぶシュウホウ。
返答代わりに、更なる
「けひっ、きひひっ、くひゃははははっ……あーっはっはっはっはっはっはっは!!」
狂わんばかりに笑う。
転げ回るように笑う。
何がそんなにおかしいのか、ただただ笑う。
そしてヒスイは、ゆるりと顔を上げた。
「────
赤と黒のオッドアイを
「ひひ、へひっ、ひゃひゃひひはははははははははッ──」
次いで、またも笑い狂い、笑い転げる。
やがて力尽きたのか、糸が切れた人形のように倒れ……気を失った。