××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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77:Shuuhou

 

 

 

 

 

 村の広場に、新しい墓標を立てる。

 

 ただし、ここに本人の亡骸は無い。

 あの洞窟は火の勢いで完全に崩れてしまって、とても掘り返すなど不可能だった。

 

「…………」

 

 ナイフを一本、墓前に供える。

 細やかな装飾が施された、姉妹剣の片割れ。

 

 もう一方は、本人の遺言となった要望通り、俺の腰へと()かれている。

 何故こいつを俺に持たせたがったのか……その理由が分からないほど、愚鈍ではないつもりだ。

 

「すまない」

 

 そう呟き、腰を上げる。

 (あわ)せて、別の墓標へと視線を向けた。

 

「…………」

 

 風ではためく、黒焦げとなった襟巻き。

 そして──赤い宝石が嵌め込まれた、銀の指輪。

 

 昔、森で見付けたガーネットの原石を行商人に預け、加工させたもの。

 贈った時に見せてくれた顔は、きっと生涯忘れないだろう。

 

「……っ」

 

 ふと、後ろを振り返る。

 少し離れたところに立ったヒスイが、生気の無い表情で、ベルナの墓を見つめていた。

 

「…………」

 

 ベルナが居なくなった日。

 命からがら洞窟を出て以降、気を失うまでの一連を、ヒスイは何も覚えていなかった。

 

 まあ、当然だろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………」

 

 ボロボロに引き裂かれた上、賊の血が大量に染み込み、着られなくなった黒衣(こくい)

 サリテ村が守り続けてきた秘密を象徴(しょうちょう)する存在だけが袖を通す、特別な(よそお)い。

 もっとも、今のヒスイは何も知らないけれど。

 

「…………」

 

 ヒスイは失った黒衣(こくい)の代わりに、ベルナの服を纏っていた。

 

 国軍の制服に、より動きやすく改造を施したもの。

 元の持ち主との体格差ゆえか、まだヒスイには少しばかり大きい。

 

 だが、そのうち丁度良くなるだろう。

 俺を形作る核となった物語(ゲーム)で、そうだったように。

 

 …………。

 今回の一件を()て、俺は悟った。

 痛感させられた、と言い換えてもいい。

 

 ──運命は、すでに定められている。

 

 神ならざる身で捻じ曲げることなど、(あた)わない。

 小魚が激流を(さかのぼ)ったところで、川の流れそのものが変わったりなどしないように。 

 

 ──であれば、どうすべきか。

 

「決まってる」

 

 いっそ翻弄(ほんろう)されればいい。

 流され、流され、流され続けて進めばいい。

 全身を冷え切らせながら、血と痛みを受け容れながら、()()()まで向かえばいい。

 

「これが俺の役割か。だとしたら随分と相応しい名を貰ったものだ」

 

 シュウホウ。

 転じて、終報(しゅうほう)

 

 島国(ここ)ではない世界において、事故や災害などの状況終了を指す言葉。

 最後の幕引きを(にな)わんとする無謀者を奮い立たせるには、これ以上無い名前だ。

 

「……すまない」

 

 はためく襟巻きを撫ぜる。

 次いで、木彫りの耳飾りへと触れる。

 

「許……いや。許さなくていい」

 

 ヒスイが時折、嫌なものを見る眼差しを向けていると知りながらも、(よそお)い続けた品。

 それを、そっと外す。

 

 …………。

 俺は。

 

「彼女を愛そう」

 

 俺は。

 

「彼女に寄り添おう」

 

 俺は。

 

「彼女の全てを肯定しよう」

 

 俺は。

 

 俺が──

 

 

 

 

 ──()()を殺す(やまい)となろう。

 

 

 

 

 

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