××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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78:閑話8

 

 

 

 

 

 ………………………………。

 ……………………。

 …………。

 

 ──『()絶望(きぼう)』第一章。

 

 その終端(しゅうたん)は、師である女性剣士の死という二度目の絶望を味わった主人公の独白によって締め括られる。

 

 ──絶望の底で、主人公の少女は思った。

 

 自分のせいで師は死んだ、と。

 何もかも、自分が愚かだったせいだ、と。

 

 ──絶望の底で、主人公の少女は思った。

 

 自分がもっと慎重だったなら、と。

 少しでも冷静であったなら、数十人もの相手に剣一本で挑む愚など犯さなかった、と。

 

 そうすれば、師は死なずに済んだ、と。

 

 ──絶望の底で、主人公の少女は思った。

 

 自分がもっと賢明だったなら、と。

 少しでも考える頭があったなら、背を向けて逃げ出す選択に至れたハズだ、と。

 

 そうすれば、師は死なずに済んだ、と。

 

 ──絶望の底で、主人公の少女は思った。

 

 自分がもっと強ければ、と。

 誰よりも強ければ、と。

 何者も歯牙にかけないほど強ければ、と。

 

 そうであったなら──師は死なずに済んだ、と。

 

 だが今更になって悔いたところで、何もかも手遅れだった。

 もはや少女が何をしようと、師が死んだという事実は(くつがえ)らなかった。

 

 剣士と二人であった少女は、再び(ひと)りとなった。

 村人たちの墓に剣士の墓標を加え、何日も何日も、墓前から動けなかった。

 

 少女は己の蒙昧(もうまい)を嘆いた。

 少女は己の迂闊(うかつ)を呪った。

 少女は己の浅薄(せんぱく)(いと)うた。

 少女は己の軽挙を(べっ)した。

 

 何より、少女は──己の弱さに(いきどお)った。

 

 そして皮肉にも、自分自身への強烈な怒りが、少女を絶望の底から拾い上げた。

 気も狂わんばかりの激情が彼女を再起させ、立ち上がる気力を与えた。

 

 

 

 

 

 少女は、まさしく修羅(しゅら)となった。

 

 目に焼き付いた師の残影。

 耳に焼き付いた師の言葉。

 頭に焼き付いた師の教訓。

 

 毎日毎日、それらを忠実になぞり続けた。

 ただただひたすら、己を鍛え上げることに腐心した。

 

 肌に残った、斬られる痛み。

 肉に残った、殴られる痛み。

 骨に残った、折られる痛み。

 

 師が少女の諦めを願い、叩き込んだ痛みの数々が、逆に彼女を支えた。

 かつて受けた痛みの数々が少女の土台となり、強靱な精神を育て上げた。

 

 …………。

 否。単なる不撓不屈(ふとうふくつ)とは、(いささ)か異なる。

 

 言うなれば、狂気にも似た苛烈。

 

 ()()は、少女の非才を補った。

 彼女を加速度的に強くした。

 

 やがて少女は、強さ()()なら師にも匹敵する力を(つちか)っていた。

 師の形見、寸の合っていなかった軍服も、いつの間にか着こなせるようになっていた。

 

 そうなった頃合、少女は故郷を(あと)にした。

 

 唯一となった生きる理由──復讐を遂げるために。

 

 

 

 

 

 ()くして物語は、第二章。

 三年後へと、コマを進めていく。

 

 

 

 

 

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