中央。
この
正式な首都名は、やたら長ったらしく舌を噛みそうになるため、あらたまって呼ぶ者は滅多に居ない。
人口およそ十万人。
加えて、ここまで人間が密集しているにもかかわらず、街並みは驚くほど清潔。
都市の四方を練り歩けど、汚物や汚水の気配など皆無。
表通りを見渡す限り、ひたすら美麗な景観が続くばかり。
何故と理由を問うならば、現存する中でも間違いなく最大を誇る
中央の地下に広がる巨大施設。
上下水道の循環および廃棄物の処理を
また他にも、馬を必要としない馬車や、入れたものを凍らせて鮮度を保つ箱などなど。
そうした奇怪極まる様々な品々も、中央の豊かさを助ける一因となっている。
資源すら十分に行き渡っていない北部は勿論のこと、
取り分け王侯貴族たちの暮らしぶりは、別世界の域に近い。
──ただし、何事も一長一短。
いかに
シュウホウの義手がそうであるように、定期的な整備は必要不可欠。
そして地下施設を筆頭とした諸々の機能維持には莫大な費用と労力、ひいては大量の資源が、絶えず投じられ続けている。
本来ならば北部に回されるべき
すなわち、
したがって中央は、他の町とは比較にならないほど税も物価も高い。
ヒスイとシュウホウが泊まる安宿ですら、
現代文明の
それを保つための代償と考えたなら、至極当然の対価。
更に言えば
整備やら機能維持やらと大層に
正味のところ、いつ限界が訪れても不思議は無い。
数十年後か、あるいは数時間後か。
…………。
過去の残火に
例えるならば、いつか弾ける
とはいえ、ヒスイやシュウホウにとっては、すこぶるどうでもいい
「♪」
小綺麗な大通りを、分厚いマントで全身すっぽり覆ったヒスイが、鼻歌交じりに往く。
その澄んだ歌声ゆえか、あるいは目深なフードの奥に覗き見える美貌ゆえか、すれ違う人々の幾らかは足を止め、振り返っていた。
なお、ある意味ではヒスイ以上に目立つ容姿を持つシュウホウにも、かなりの視線が集まっている。
もっとも、ここ数年で飽きるほど浴びてきたものであるため、お互い取り立てて気に留めた様子は無い。
「──昨日着いた時から思ってたけど、綺麗な町ね」
隣を歩くシュウホウの耳元に口を寄せ、猫撫で声で
そうする意味は特に無い。ただ甘えたい気分なのだろう。
「気に入ったか?」
「んーん。ぜーんぜん」
シュウホウが尋ねると、首を振りながらの否定が返る。
「なんかイヤな感じ。見た目は綺麗、空気も澄んでる。でも……どこか、
目を細め、吐き捨てるように告げ、手のひらに頬ずりする。
「んっ」
満足したのか、最後に指先へと口づけを落とし、ヒスイはシュウホウの手を離す。
次いで軽快な足取りで彼の前に
「正直あんまり長居したいとは思わないけど、観光にはいいかもね。
「……ああ。そうだな、そ──」
相槌の言葉尻を織るよりも先、シュウホウは口を
「…………」
何気なく通り過ぎようとした路地。
その奥から、子供のものらしき悲鳴と、何か大きな物が勢い良く倒れる音を聞いたのだ。