「大丈夫?」
あちこち痣だらけとなるほどの暴行を受け、うずくまりながら
小さな身体を助け起こし、砂埃などを払ってやりつつ、ヒスイが容態を
「歯が何本かと……あとは肋骨も痛めてるわね。まあ立って歩くぶんには大丈夫かしら」
「ヒスイ。前々から言い含めてるが、あまり自分の経験を基準に考えない方が良い」
「そう?」
殴られようとも、身を斬られようとも、骨を折られようとも、ひたすら鍛錬に励み続けた日々。
そんな過去を持つがため、ヒスイは痛み、怪我、流血に対する耐性が極めて高い。
それが転じて、負傷というもの自体を思考のどこかで軽視しがちなところがあった。
「そもそもベルナは角度や程度を慎重に選んだ上で、君の身体を傷付けていた。過度な重傷を与え、動けなくなってしまわないように気遣ってな」
「……ええ、ええ、分かってますとも。治ったら傷痕ひとつ残らなかったくらいには、懇切丁寧に切り刻まれたもの」
あの鬼ばばあ、と語末に添える。
もっとも、苦々しげな舌先に
「……はい、おしまい。立てる?」
シュウホウと言葉を交わす傍ら、少年に施していた簡単な手当てを終えたヒスイ。
少年は痣だらけの顔で、ところどころ歯が折れた口元で、ありがとうと笑った。
「…………」
数歩離れた位置から二人を見ていた金色の瞳が、険を帯びる。
読み取ったのだろう。
「見たところ全部乳歯みたいだし、新しく生えてくるでしょ。運が良かったわね」
一人で帰れるかとヒスイが尋ねると、少年は頷いた。
そして再び頭を下げ、表通りへと駆け出し──
「──待ちなさい」
すれ違いざま、声音を冷やしたヒスイに、呼び止められた。
「
中指と薬指を掴まれ、強引に開かされた少年の手。
中から滑り落ちたのは、ヒスイの財布。
かなりの額が詰まっており、重い音と共に地面を転がった。
「いくら子供と言っても、会って間もない女の懐に手を突っ込むなんて感心しないわね」
歯も生え替わっていない年頃でありながら、実に鮮やかなスリの腕前。
単なる出来心などではないだろう。あまりに手慣れすぎている。
「もしかして、さっきの連中には悪いことしたかしら」
とはいえ、少なくとも暴力への抵抗を持たない人種であったのは事実。
「一応、言い分くらいは聞いておいてあげましょうか?」
みしりと、少年の指が
痛みに顔を引きつらせた彼は、必死の様相で身の上を語った。
──病気の母。
──小さな妹。
──父親はすでに亡い。
──自分が金を稼がなくてはならない。
──たとえ、悪行であろうとも。
「…………」
実に
口さがなく言ってしまえば、どこでも聞くような、ごくありふれた不幸話。
「ふーん」
あまり関心が湧かなかったらしい。
どうでもよさそうに、ヒスイは気のない、適当な
次いで──掴んでいた少年の指を、容赦なくヘシ折った。
「ま、どんな事情があったところで、私には全然関係無いんだけど」
チンピラの大雑把な暴力とは比較にもならない、鋭利な痛み。
少年は声を詰まらせ、悲鳴すら上げられず、ただ路地を転げ回る。
「行きましょ、シュウホウ」
「ああ」
…………。
日陰から日向へと抜ける間際、ふとシュウホウが、ヒスイに問うた。
「財布はいいのか?」
「いーらない」