××を殺す病   作:竜胆マサタカ

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中央(ここ)、治安悪いのね」

 

 ひとしきり町を散策し終えたヒスイの第一声。

 安宿に戻り、二本の剣を壁に立て掛けるや否や、マントすら脱がないままベッドに寝転がって幾らか間を挟んだ末の、気だるげな呟きだった。

 

「治安は良いさ。昼夜問わず官憲(かんけん)が町中を警邏(けいら)してるからな」

 

 取り外した義手を床に置き、構造を把握できている範囲内で分解清掃しながら、シュウホウが返す。

 そうじゃなくて、とヒスイは足をバタつかせた。

 

「全体的に(すさ)んでるって言うか、雰囲気が重たいって言うか……」

 

 見た目は綺麗。

 空気も澄んでる。

 

 でも、どこか(よど)んでる。

 

 他ならぬヒスイ自身が、この町に(いだ)いていた第一印象。

 それを、より具体的に表現する語彙(ごい)を探してか、小難しい表情で天井を見つめる。

 

「んー、と……んん……あ、そうそう。なんかこう、張り詰めてるのよ。道行く人みんな、とにかく余裕が無いように見えたわ」

「なるほど。言い得て妙だな」

 

 中央での生活は、確かに他所とは桁違いである。

 間違いなく、この島国(くに)で最も豊かな都市である。

 

 だがしかし、返す返すも物事とは一長一短。

 度を越した栄華がもたらす恩恵へと(あずか)るためには、同じく度を越した金銭(リソース)が求められる道理。

 

 すなわち、(きら)びやかなのは上辺(うわべ)だけ。

 王侯貴族や一部の富裕層を除いた住民の大半は、課せられた税と生活費を(まかな)うため、毎日毎日、急き立てられるように働いている。

 

 語るに及ばず、疲弊(ひへい)し尽くして潰れる者も少なくない。

 けれど──それでも中央の住民は、大半が王都に留まり続けることを切望する。

 

 其処彼処(そこかしこ)(ちりば)められた旧暦(きゅうれき)の遺物による、極めて便利な暮らし。

 その水準に慣れきってしまった者たちにとって、中央から出て行くという選択肢は、少しばかり大袈裟な言い方をすれば、一種の島流しにも等しいのだ。

 

 ……そう考えると、かつてシュウホウを引き取った老婆は、やはり相当な変わり種だったのだろう。

 中央での暮らしを捨てたどころか、島国(くに)の末端と呼んで(しか)るべき僻地(へきち)であるサリテ村に移り住んだのだから。

 

 閑話休題。

 

「やっぱり長居するようなところじゃないわね、ここ」

 

 町の(よど)みが肌に合わないらしく、深々と溜息をつくヒスイ。

 そんな彼女が目を伏せた先に思い浮かんだ光景は、在りし日の故郷。

 

「…………」

 

 ベルナ亡き後も凄絶(せいぜつ)そのものだった修行に区切りをつけ、村を出たのが約一年前。

 今頃、皆の墓は随分荒れてるだろうと、ヒスイは拳を握った。

 

「……ねえ、シュウホウ。御前試合(ごぜんじあい)って、いつやるんだっけ」

「四日後だな。そこから諸々片付くまで含めたら、更に数日……最低でも七日か八日ってところだが」

 

 整備を終えた義手が、再びシュウホウの左腕として装着される。

 試しに手首や指先を動かすと、かなり(なめ)らかになっていた。

 

「八日……生活費足りるかしら」

「俺の手持ちがある。半月くらいまでなら特に問題は──」

 

 言葉の途中、シュウホウが弾かれたように振り返る。

 

「どうしたの?」

 

 険しげな金色の眼差し。

 見据える先は、部屋と廊下を(へだ)てる扉。

 

「客だ」

 

 その古びた扉板が、勢い良く蹴り壊された。

 

 

 

 

 

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