「
ひとしきり町を散策し終えたヒスイの第一声。
安宿に戻り、二本の剣を壁に立て掛けるや否や、マントすら脱がないままベッドに寝転がって幾らか間を挟んだ末の、気だるげな呟きだった。
「治安は良いさ。昼夜問わず
取り外した義手を床に置き、構造を把握できている範囲内で分解清掃しながら、シュウホウが返す。
そうじゃなくて、とヒスイは足をバタつかせた。
「全体的に
見た目は綺麗。
空気も澄んでる。
でも、どこか
他ならぬヒスイ自身が、この町に
それを、より具体的に表現する
「んー、と……んん……あ、そうそう。なんかこう、張り詰めてるのよ。道行く人みんな、とにかく余裕が無いように見えたわ」
「なるほど。言い得て妙だな」
中央での生活は、確かに他所とは桁違いである。
間違いなく、この
だがしかし、返す返すも物事とは一長一短。
度を越した栄華がもたらす恩恵へと
すなわち、
王侯貴族や一部の富裕層を除いた住民の大半は、課せられた税と生活費を
語るに及ばず、
けれど──それでも中央の住民は、大半が王都に留まり続けることを切望する。
その水準に慣れきってしまった者たちにとって、中央から出て行くという選択肢は、少しばかり大袈裟な言い方をすれば、一種の島流しにも等しいのだ。
……そう考えると、かつてシュウホウを引き取った老婆は、やはり相当な変わり種だったのだろう。
中央での暮らしを捨てたどころか、
閑話休題。
「やっぱり長居するようなところじゃないわね、ここ」
町の
そんな彼女が目を伏せた先に思い浮かんだ光景は、在りし日の故郷。
「…………」
ベルナ亡き後も
今頃、皆の墓は随分荒れてるだろうと、ヒスイは拳を握った。
「……ねえ、シュウホウ。
「四日後だな。そこから諸々片付くまで含めたら、更に数日……最低でも七日か八日ってところだが」
整備を終えた義手が、再びシュウホウの左腕として装着される。
試しに手首や指先を動かすと、かなり
「八日……生活費足りるかしら」
「俺の手持ちがある。半月くらいまでなら特に問題は──」
言葉の途中、シュウホウが弾かれたように振り返る。
「どうしたの?」
険しげな金色の眼差し。
見据える先は、部屋と廊下を
「客だ」
その古びた扉板が、勢い良く蹴り壊された。