立ち位置の近かったシュウホウが、壁に立て掛けられた女神の
それをベッドから跳ね起きざま、手元を見もせず掴み取った彼女は、ひとつ首を振る。
所作に合わせて、赤と黒の入り混じった長髪が、しゃらりと鳴った。
「トイレなら三部屋向こうよ。ドアを蹴破るくらい切羽詰まってるなら、早く行けば?」
突如として押し入ってきた、物々しい雰囲気の男たち。
ヒスイは鞘に収めたままの
勿論のこと、冗談や軽口の
「それとも、さっき路地に居た連中の仲間? 早速のお礼参りだとしたら、わざわざ御苦労様。よく私たちの居場所が分かったわね」
「……いや。そういう感じじゃなさそうだ」
腰に
「どうやら俺たちは、
「素泊まりなのに?」
「…………」
「ふふっ」
先刻の一件からも察せる通り、中央の空気は決して清廉とは
重税と物価高に苦しみつつも、町を離れたくない一心で後ろ暗い行為に手を染める者。
そんな
ごく当たり前の話だが、人は衣食足りねば礼節など容易く忘れ去る。
猿からの進化を
とはいえ……中央の表立った犯罪件数は、他の町と比べると極端に少ない。
したがって、ほとんどの隊員が非常に職務熱心である。
中央の治安が、表面的には良好に保たれている主な理由のひとつ。
まあ当然だろう。国家が直轄する警察組織に面と向かって喧嘩を売るなど、およそ正気の沙汰ではない。
──ゆえに。中央を
そして、そうした輩が狙う獲物は、地方からの出稼ぎ労働者や観光客が大半を占める。
町に根付いていない、住民との繋がりが薄い余所者。
十万人規模の大都市で、そんな人間が数人や数十人消えたところで、気に留める物好きなど滅多には居ない道理。
必然、余所者が集まる宿屋は格好の狩り場。
アウトローと繫がった主人が小遣い稼ぎのために宿泊客を差し出すなどといった流れも、さほど珍しくはない。
「安宿にしたのは失敗だったか」
再度の溜息ともども、シュウホウがぼやく。
この展開もまた、彼の知識に
一応、本来の筋書きとは異なる宿を選んだのだけれど、意味は無かった模様。
「でもここ、言うほど安くないわよ。こないだ立ち寄ったナントカって町なら、たぶん同じ額で一番良い宿に泊まれたでしょ」
「ナントカじゃない。ラントカだ」
「だいぶ惜しいわね」
…………。
肩をすくめつつ、ヒスイが踵の尖った靴で、足元を踏み付ける。
うつ伏せに倒れた大柄な男が、苦しげな
「けどラッキー。この人数なら、さっき失くした財布の中身分くらいにはなりそうだわ」
見るからに荒事慣れした暴漢五人。
それをシュウホウと言葉を交わす傍ら、部屋を血で汚すのが嫌だからと、剣も抜かずに叩きのめしたヒスイ。
「お見事」
「ありがと」
ベルナの死を越えて、はや三年。
単なる村娘に過ぎなかった少女は、気付けば本当に強くなった。
あるいは──
「ほら、さっさと有り金全部よこしなさい。こっちは別に死体から剥いでもいいのよ?」
「…………」
この場面だけ切り取ると、どっちが悪党か判断つかないな。
そう胸の内で