狐坂ワカモのステルス作戦 ~戦闘禁止の超高難度ミッション~ 作:やきそばVer2
バレンタイン二日前
【百鬼夜行自治区:大通り】
「案外うまくいくものですね。」
イズナに変装したワカモがつぶやく。
指名手配中の彼女は、見つかると交戦は避けられない。
戦う必要自体を無くすために、似た身体的特徴のイズナに変装したのだ。
愛銃もガンケースに入れるほどの徹底ぶりだ。
ただ、完璧な変装を目指したため、ここでも大きく時間をロスしてしまった。
うまく見た目を完全に再現することはできた。
だが、声だけはどう頑張っても、変えることができなかった。
可能な限り話すことは避けねばならない。
いまのところ、怪しまれることなく、大通りを順調に進んでいくワカモ。
通行人たちは、ワカモを見ても特に気にしていないようだ。
(このままいけば、無事に百鬼夜行を抜けられるかもしれません。)
(あなた様、ワカモが変わったことを証明して見せます。)
作戦がうまくいったことを喜びながら、歩みを進めていく。
だが、試練の時が来てしまった。
「イズナ~、どこに行くにょ~」
ミチルだ。
イズナと親しい彼女であれば、声だけで偽物とばれてしまう。
だが、黙っていればよけいに怪しまれてしまう。
覚悟を決めたワカモは、小芝居をうつことにした。
「部長......イズナは病院に行くところです......今朝から体調が悪くて......」
「大丈夫、イズナ~?なんか声が変じゃない?」
「喉もかなり痛くて......そのせいかもしれないです......」
「イズナ、わかった。病院まで送っていくよ。」
「大丈夫です、部長。私は一人で大丈夫です......」
「そんなことないよ、無理は駄目だよ~」
(まずいです。このまま一緒にいたら、変装がばれてしまいます。)
(ですが、今すぐ逃げたら騒ぎになります。)
(なにか、なにかいい方法はないのでしょうか?)
ワカモが思案する中、状況はさらに悪くなる。
「イズナさん、ミチルさん、こんにちはですの~」
「ユカリ、私語は慎んで。任務中でしょ。」
「そうでした!災厄の狐さんの捜索中でしたの。」
百花繚乱の二人の言葉に反応するミチル。
「何かあったの?」
「一昨日、この近くのチョコレート専門店に災厄の狐が現れましたの。」
「また何かをしでかす前に、身共たち全員で彼女を捕まえようとしていますの。」
「念のため、他校にも警戒を呼び掛けているわ。相手が相手だけに、やれることはすべてやらないと。」
(やばいです。彼女たちは私を狙っています。)
(正体がばれないようにしませんと。)
ワカモが危機感を募らせる中、キキョウが何かに気づく。
「イズナさん、なぜ銃をガンケースに入れてるのかしら?」
「いつもなら、ガンケースなんて使っていなかったよね?」
「確かに変ですわね。理由をお聞きしても?イズナさん。」
キキョウの発言を聞いて、疑い始めるユカリ。
ミチルも、二人の発言を聞いて疑い始めたようだ。
彼女たちの様子を見て、とっさに銃に手を伸ばすワカモ。
だが、すぐにその手を離す。
(こうなったら、力ずくで......いえ、駄目ですワカモ。暴力は振るわないと決めたはずです。)
(ですが、このままでは正体がばれるのは時間の問題でしょう。一体どうすれば。)
絶体絶命のワカモ。
だが、チャンスは不意にやってくる。
遠くに本物のイズナが歩いていたのだ。
(この距離なら、彼女も気づくはず。)
(リスクが高いですが......やるしかありません。)
「ギャアー!お腹が!お腹が痛いです!」
「だれか!だれか助けて!」
突然大声で叫びだすワカモ。
叫ぶと同時に、急に倒れこむ。
疑いの目を向けていた三人も、ワカモの想定外の行動に困惑する。
「一体なんですか?この大声は?」
心の優しいイズナは、急病人が出たと思い込んだようだ。
叫び声を聞いたイズナが猛スピードで近づいてくる。
その様子を見て、内心ほくそ笑むワカモ。
(混乱していますね、これなら何とかなるかもしれません。)
「そこにいるのは、部長じゃないですか。」
「それに、キキョウさんとユカリさんも。どうしたのですか?」
「そこに倒れている方は......私!?」
「「「イズナがもう一人!?」」」
思わず、本物のイズナに視線を移す三人。
異常事態が続けて起きたせいで、彼女たちは混乱している。
ワカモは、その隙を逃さなかった。
(今です!!これならケガもしないですし、あなた様から見ても許容範囲でしょう。)
バアン!モクモクモクモク!
「まさか、災厄の狐!変装し......ゲホッゲホ」
「一体なんです......ゴホッ」
突然、あたりに煙が立ち込める。
ワカモがスモークグレネードを投げつけたのだ。
キキョウだけがかろうじて正体に気づいたものの、煙幕のせいですぐに動けない。
(今のうちに!少しでも遠くに!)
「イズナが追いかけます!」
煙幕の外にいたイズナがすぐに反応する。
追跡を振り切るべく、ワカモは素早く近くの家の屋根に飛び移る。
だが、彼女はすぐに屋根から飛び降り、路地裏に隠れる。
「素早いですね、さすがは七囚人!イズナ、このまま追い続けます!」
「イズナさん!身共たちは地上から探します、見つけたら連絡してくださいませ!」
上からイズナの声が聞こえてくる。
すぐ近くの大通りからも、複数人の足音が聞こえてくる。
だが、どちらの音もすぐに離れていく。
どうやらうまくいったようだ。
以前のワカモはコソコソ隠れるなんてことはしなかった。
だが、彼女はもう変わったのだ。
それを知らない追手は、ワカモの隠れている路地裏を無視してそのまま駆けていく。
追手が十分離れたのを確認した後、ワカモは路地裏を出る。
(臆病者みたいに逃げるのは癪ですね。それに、隠れるのも性に合いません。)
(あなた様......ワカモは暴力を使わずに窮地を脱しました。)
(もう、前までの私ではありません。)
(状況的に仕方なかったとはいえ、話し合いで解決することはできませんでした。)
(申し訳ありません、あなた様。許してくださいますか?)
暴力に頼らずに、追手を撒いたワカモ。
大きく時間をロスしたものの、百鬼夜行自治区から出ることに成功する。
だが、彼女の心の内にはほのかな後悔の念が浮かんでいた。
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変装のリスクの高さを思い知ったワカモ。
彼女は次の策を練る。
(忌々しいピンクの女狐のまねをしたくはありませんが......あの方法を使いましょう。)
機転を利かせて、窮地を脱したワカモ。
だが、試練は続く。
はたして、非暴力を貫くことはできるのだろうか?
第三話に続く