狐坂ワカモのステルス作戦 ~戦闘禁止の超高難度ミッション~ 作:やきそばVer2
バレンタイン当日
【DU地区:シャーレビル前】
(ようやく、ここまでたどり着きました。)
(ですが、かなり疲れました......)
(あなた様......もう......すこしで......す)
数々の試練を乗り越えてきたワカモ。
なんとか、シャーレビル前へたどり着くことはできた。
ビルの前は、まさに戦場と化していた。
「どきなさい!あたしが先よ!」
「いいえ、私が先!」
「邪魔しないで!撃つわよ!」
あちらこちらから、言い争う声が聞こえる。
銃撃戦が起きたのか、銃声も混じって聞こえてくる。
(ひとまず......この混乱を利用しましょう......)
ここまでの道のりで、彼女の疲労は限界に達しようとしていた。
だが、『先生のために』という一心から、彼女は歩み続ける。
ドカ!
「ちょっと!どこ見て歩いてるの!」
前にいた生徒に、ワカモの肩がぶつかる。
疲労困憊のワカモは、前を歩く生徒に気づくことすらできなくなっていた。
回らない頭で、なんとか相手に答える。
「すみません、少しよそ見をしていました。」
「ふん、なら良いわ。さっさと行って。」
以前までの彼女なら、問答無用で攻撃しただろう。
だが、もう過去の彼女はいないのだ。
そして、ワカモはそのまま人混みの中を進んでいく。
(とにかく、先......にすすまない......と)
~~~~
「やっと......ここまで来ました。」
混乱に乗じて、無事にシャーレビルの玄関前にたどり着く。
だが、ビルの中は外ほどの混乱は起きていなかった。
このまま無策で先生の元へ向かうと、すぐに見つかってしまう。
ここで戦ってしまうと、これまでの努力が水の泡になってしまう。
ワカモは、捨てずに持っていた段ボールに入ることにした。
(持ってきておいて......良かったです......)
(荷物にまぎれ......てしまえば、大丈夫でしょ......う)
(この状態では......他の手段......は取れないですし......)
ワカモの前を、何人もの生徒たちが通過していく。
だが、誰一人として段ボールを怪しむものはいなかった。
生徒たちが無反応なのを確認して、彼女は気を緩めてしまう。
(ひとまず、落ち着けまし......たね......)
(うま......くいきま......した......)
(ね......むくな......)
だんだんと暗くなっていく視界。
『先生に喜んでもらう』ために気力を振り絞っていた、だがもはや限界だった。
いつの間にか、深い眠りへと落ちていった。
~~~~
バレンタイン当日深夜
【DU地区:シャーレビル1階】
「んあ......寝てしまったみたいですね。」
ワカモが目覚めた時、周囲の混乱は完全に収まっていた。
全ての生徒が先生にチョコを渡し終え、家に帰った後だった。
「今何時.....え!?23:56!?」
「とにかく!一秒でも早く!あなた様のもとへ!」
時計を確認すると、日付が変わる直前になっていた。
すぐに駆け出すワカモ。
「エレベーターで......いえ、これでは間に合わない!」
「こうなったら、非常階段から!」
非常階段を駆け上がっていくワカモ。
だが、時間は無情にも過ぎ去っていく。
「もうすぐ!あの扉を開ければ!」
執務室のドアの前にたどり着いた時、あたりにチャイムの音が鳴り響く。
日付が変わり、バレンタインデーが終わってしまった。
「うそ......うそ......こんなことって!」
「ごめんなさい......ごめんなさいあなた様......」
「これでは、あなた様へ決意を見せるはずが......」
「私の成長を証明することも......もう不可能です。」
思わず泣き崩れるワカモ。
「最初から......話し合いも......非暴力を貫くことも......すべて無意味だったんですね!」
「せっかく頑張ったのに......こんな結末って......」
「報われないなら、もう......変わる意味なんて......ないですね。」
悲しみのあまり、変わることを拒否し始める。
ひとしきり泣いたあと、踵を返して立ち去ろうとする。
歩き始めた彼女の耳に、足音が聞こえてくる。
(まさかあなた様......いえ、もう時間切れです......そんなわけありません。)
そして、誰かに後ろから抱きしめられる。
「そんなことないよ、ワカモ。」
「ここまで誰も傷つけずに来れたじゃないか。」
「私は、君の成長を見ることができてとても嬉しいよ。」
「君が暴れたら、すぐに私に報告が入る。」
「でも、そんな報告はなかった。」
「よくやったよワカモ。さあ、こっちへおいで。」
先生から温かい言葉を掛けられる。
しかし、ワカモの涙はまだ止まらない。
「あなた様......でも、もうバレンタインデーは......」
「時間なんて気にしないよ。君の気持ちだけで十分さ。」
「君がどう変わったのかを詳しく教えてほしいな。」
促されるまま、先生についていくワカモ。
彼女は、何があったのかを詳しく話した。
一発の銃弾を撃つことなく、ここまで来たこと。
何度も怪しまれたが、機転や運で乗り越えてきたこと。
そして、卑怯者と罵られることも厭わずに、逃げたり隠れたりしたことを。
その全てを話し終える頃には、涙はいつの間にか止まっていた。
「頑張ったんだね、ワカモ。」
「あなた様、これを......」
ワカモは、大事にしまっておいた小箱を取り出す。
そして満面の笑顔で話しかける。
「これを......受け取ってください。」
先生にバレンタインチョコを手渡す。
チョコを受け取った先生は、彼女にこう囁いた。
「ハッピーバレンタイン、ワカモ。」
完