東方吸血精   作:tesorus

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Ⅺ:未来都市と魔界について

「はっ…リディ様!?すみません、お身体の方は…」

 

「良いの、大丈夫よ。それだけの強さがあれば、あなたはどこまででも行けるわ。もう夜も明ける。私達が雇っているボディーガードが居るの。腕の立つ魔法使いで、私達全員で勝負を挑んでも、傷一つすらつけられない。彼女と一緒に、ワンダーシティへ行ってみると良いわ。」

 

話によると、そこはかつて、トランプの妖精達を率いた吸血鬼が支配していた土地であったが、一人の少女によって救われ、今は平和らしい。あれ、どこかで似たような話を聞いたことがあるような気がする。

 

「大海の水を傾けてもこの血をきれいに洗い流せはしまい?緑の大海原もたちまち朱に染まろう…」

 

地下の出入口から、そう囁く声がした。振り向くと、白い帽子を被った少女が微笑み、私やリディ様を見つめていた。

 

「マクベス…ですか?」

 

「よくわかりましたね、私はルイズと申します。偉大なる女神、神綺様の眷属にして、魔界の兵士。今はアイル様のボディーガードをしています。あなた達、ここで決闘を?」

 

服が血だらけですよ、大海を傾けても流せないほどに。と、ボディーガードを名乗る少女、ルイズに言われ、身体を見ると、ここへ来るときに浴びた血と、リディ様との闘いで傷ついた箇所から飛び出た血で、黒と白の清楚なメイド服が台無しだ。

 

「あなたがここへ来た時の服があったでしょう?あれに着替えなさい。もう夜も明ける。それと、チルノを連れ戻すとか、何とか言っていたかしら。あなたが着替えて少ししたら、チルノの元に案内するわ。とりあえず、今日はゆっくり休むと良いわ。」

 

 

 

部屋に帰り、ベッドについて寝息をたてると、眼を覚ました頃にはもう昼過ぎになっていた。

 

それにしても、この城は本当に美しい。しかし、地下では人間達が食われていると言う。桜の下には死体が埋まっていると言うが、この城はまさにそれではないか。洗脳のせいでまったくそのことが言えなかったが、はっきりアイル様に申し上げなくては。

 

「明日が来、明日が去り、そしてまた明日が、こうして一日一日と小刻みに、時の階を滑り落ちて行く…おはようございます。傷はもう癒えましたか?」

 

「目覚めに言うような台詞ですか、それ。」

 

まあ、傷はまだ疼くが、昨日の決闘の後よりは良くなった。もう、動くことくらいはできる。そういえば、昨晩彼女は自分のことを魔界の兵士と言っていた。しかし、外見はまったくそうは見えない。兵士なんて物騒な言葉とはかけ離れた、普通の女子高生のような姿だ。

 

「ルイズさん、昨晩言ったことは、本当ですか?あなたが魔界の兵士だなんて。」

 

「本当です。魔界の女神、神綺様の元で兵士として働いています。何故ですか?」

 

私が、魔界の女神に忠誠を誓ってはいけませんか?と彼女が聞くと、バタン、と扉を強く開く音がした。扉を見ると、そこには見ることすら懐かしく感じるような、黒い服を着た金髪がいた。

 

「…来たわね、裏切り者。」

 

「そのブレスレットの紋章…魔界の人間ね。名前は?私のことを捕まえにきたの?」

 

裏切り者?捕まえに来た?一体、何を言っているか解らない。

 

「まさか、ただ暇つぶしに来ただけですよ。まあ、そんなに捕まりたいのなら、今この場で捕縛させていただきますが。」

 

「捕まりたい?冗談でも笑えないわ。魔界の人間に捕まるくらいなら、死んだ方がマシ。」

 

「ちょ…ちょっと!やめてくださいよ二人共!死ぬとか、捕まえるとか、一体何があったのですか?」

 

私が割って入ると、ルイズさんは私を見てクスッと笑った。それに対して、アリスさんは私を睨み、あなたには関係ない。と私に怒鳴った。

 

その時、サニーが私を尋ねて、部屋に入ってきた。彼女は入って暫くして、この状況を察したのか、私達はあっちへ行こう、と私を誘った。

 

私はアリスさんを睨み返し、部屋を後にした。

 

 

 

「本当に良い子ですね、神綺様に彼女を紹介したら、どのようなお言葉を頂けるか…」

 

「結衣は渡さない。魔界なんかに、渡すものですか。」

 

いつも雪が降っているはずの空は、少しだけ寂しそうに見えた。

 

 

 

リディ様曰く、この世界でも、私達の世界でもない世界が、まだ存在するという。

 

魔界、とは恐らく、その世界だろうと、彼女は言った。

 

私達はあの部屋を離れ、しばらく歩いていると、ナチュレ様に、そんな場所に居ると邪魔だからと、広いリビングルームへ案内された。

 

リビングルームは、氷で色々な物がコーティングされていて、とても綺麗だ。床も透明で、下の階が透けて見える。氷で何もかもが覆われていると、滑ってしまいそうだが、そのようなことはないので、気兼ねなく歩くことができる。

 

ナチュレ様は、昨日は恥ずかしい所を見せて、悪かったわねと、私達に紅茶を下さった。

 

…やっぱり、覗き見はバレてたか。

 

「そういえば、魔界と言えば…幻想郷にある命蓮寺が異変を起こした時があったんだよ。あ、異変って言うのは、幻想郷で起きた事件のことなんだよ。まあ、全部霊夢さんが解決しちゃうんだけどさ。」

 

「へえ、あの眼帯してる巫女さん、そんなに凄い人なの?」

 

「うん。でも、何で眼帯してるんだろう。怪我でもしてるのかな……って、霊夢さんの話じゃなくて、命蓮寺の話だよ。その命蓮寺の尼さん、妖怪からも好かれてたんだよ。けど、その異変の前までは、封印されてたんだって。その封印されていた場所が、魔界って場所らしいんだよね。」

 

魔界、どのような場所なのだろう。ゲームの中の世界のように、魔物が住むような世界なのだろうか。確か、ルイズさんは、魔界には女神が居ると聞いた。どのような女神なのだろうか。

 

「止めておきなさい、ミラークロスについて調べようなんて。」

 

背後から、聞きなれない、耳を撫でるような声がした。振り向くと、その声の主、さとりさんが立っていた。

 

「あれ?ルナとスターは?」

 

「留守番してるわ。人食い悪魔の城になど、行きたくないと。」

 

「ふうん。ミラークロスって何?」

 

「魔界都市ミラークロス、かつて、異世界の人間達が、魔界のことをそう呼んでいたそうよ。知らないでしょうけれど、幻想郷は、元々、結界なんて張られていなかったの。」

 

さとりさんがそう話すと、サニーは驚き、さとりさんをじっと見た。

 

「え!?それじゃあ、外の世界と…結衣の住んでいる世界と、繋がっていたの?」

 

「ええ。けれど、六百年ほど前に、ある世界の人々が、幻想郷を結界で隔離して、彼らの世界の少女を、巫女にしたのよ。その巫女こそ…博麗霊香。彼女は、元々、幻想郷の人間ではなかったのよ。間接的ではあるけれど、彼女の血が流れている霊夢も…」

 

「そんな…そっちの世界の人間ってこと?信じられない…ねえ、その、ある世界って、どんな場所なの?」

 

「ある世界…未来都市メトロポリス。文明が、幻想郷は愚か、外の世界とも比べ物にならないほど進んだ世界。それくらいしか、兄からは聞いていないと言うか…きっと、知らないのだと思う。」

 

未来都市メトロポリス…何故だろう、初めて聞いた名前ではないような気がする。その単語を聞いた瞬間、私は、心の中に複雑な感情を覚えた。何故かはわからない。わからないけれど…

 

メトロポリスは、文明が、幻想郷は愚か、外の世界とも比べ物にならないほど進んだ世界。ううん、それだけではない。人体実験、発展の邪魔となるものの破壊…科学の発展の為ならば、何だってする。私は、あの世界を知っている。

 

私は故郷を、あの世界の人々に…

 

「…痛っ!」

 

そのことを思い出そうとしたとき、頭に、脳に入れられていた鎖で、脳を引っ張られるような痛みを感じた。私は思わず、頭を両手で抑えたが、痛みに耐え切れず、椅子の下に倒れこんだ。

 

「結衣!大丈夫?」

 

サニーの、そんな声も聞こえないほどの頭痛が私を襲う。こんな痛みを味わうなら、いっそのこと殺してくれた方がマシだ。

 

見える、荒廃した世界が。青空の元に、神社の鳥居や紅のお屋敷が崩れ、人々が泣き、誰かの助けを請う声が…

 

《私達が何をしたかは、知らないけれど、今は、忘れておきなさい。存在しない世界を思い出そうとしていることによる負担で、脳が破裂寸前まで来ている。このままでは、死んでしまう。本当はまだ、死んではいけない。あなたには、まだこの世界を守る使命が残っている。》

 

脳内を伝う、優しい声。彼女の言う通り、考えることをやめると、荒廃した世界が脳裏から消え、痛みが治まった。

 

《さあ、頑張って。全ての世界を救えるのは、あなただけなのだから。》

 

「待って!あなたは、あなたは一体誰なの!?」

 

《マエリベリー、メトロポリスの教授よ。》

 

マエリベリー…メトロポリスの…?

 

 

 

気がつくと、私は多くの医者の妖精に囲まれていた。どうやら、ナチュレ様が呼んでくれたらしい。

 

医者は、特に脳に異常は見られない、と言った。脳が破裂しそうであったかと聞いたら、そのような症状は見られない。と言われた。

 

医者達に礼を言い、私とサニー、さとりさんは、アリスさんとルイズさんの居る、私の部屋へ向かった。

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