東方吸血精   作:tesorus

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頭が良いチルノって、何だかチルノじゃないみたい。


ⅩⅢ:夢に見た世界

少女、チルノ・ブリザードセルは、私にはにかみ、私を抱きしめ、トウキョウには、私の愛しい弟子が居るの。懐かしいわ。と囁いた。

 

私は、彼女に言わねばならないことがある。彼女を救い、桜の下の死体を、掘り起こす。元を正せば、その為にこの場所へ来た。

 

恐らく、今の彼女に救いは不要だ。だが、桜の下に死体が埋まっていることには変わりない。

 

「チルノさん、貴方に、頼みがあります。元を正せば、私達はその為にここへ来ました。私も、サニーも、他のみんなも。」

 

「知っているわ。だから言ったでしょう?迷惑をかけたと。けれど、もうその必要はないわ。私はキサラギ…幻想郷を棄てた身。ルーミアや慧音先生、リグルやローレライには悪いけれど、もうあの場所に戻るわけにはいけないの。」

 

「はい。そのことは、もういいです。確かに、もともと、この世界へ来たのは、貴方の奪還でしたが…今は、別件です。」

 

「ほう、それはまたどんな?」

 

「桜の下の死体を…地下に収容された人間を、解放してください。それだけです。」

 

例え彼女が、以前の彼女と性格が変わっていても、いや、むしろ変わっているからこそ、人を思いやる気持ちや、それによって心を傷めることもあるはずだ。

 

私はそう思い、彼女にそう話した。しかし、そんな私の希望は、彼女に粉々に粉砕されることになる。

 

「先ほどから、あなたの話を聞いていたけれど…今はっきりと分かったわ。あなた、馬鹿ね。」

 

「……え?」

 

「一言で言うと、独り善がりって所ね。貴女は想真にそっくりね。他の人間達の観点を受け入れず、自分の観点で、良いことを言ったと思い、それにひたすら酔い痴れる。それが貴方。私にはそう見える。違う?」

 

彼女の発言が正論すぎて、私は何も言い返せない。この世界にもルールがあり、そこの人間はそのルール下で生き、死んでいった。それが間違いであると考えるならば、彼らが反逆すれば良いだけの話。

 

私のような、他所の場所で生きてきた者が介入することは、決して許されない。私のやっていることは、農家の人間が家畜を殺すことを、家畜が可哀想だからと、それを止めることに等しいかもしれない。

 

「……はい。そうかもしれません。でも、命をそんな風に扱うなんて、許せません。その人達にも、未来はあります。それに、人間を狩るのは必須ではないはずです。だから…」

 

「結衣、あなた本当に想真そっくりね。もしかして、知り合い?」

 

「はい…まあ、幼馴染みですし…」

 

「そう。それともう一つ。貴女は、この世界のニンゲンの恐ろしさを知らない。知らないほうが幸せかもしれないけれど、想真の幼馴染みなら、可愛い子には旅をさせろ、の意味も兼ねて、その恐ろしさを嫌と言うほど思い知らせてあげる。」

 

彼女は私の頬を撫で、私の頬にキスをした。その後、私の耳元で、そっと囁いた。

 

「ここに来るとき、ライト・ダークとギャラクティス、それからブリザードを通ったそうね。アイスバードには、もう一つだけ、道が延びているの。そこから道なりに行くと、ワンダーシティに着くわ。そこから船が出ているから、それに乗りなさい。着く場所は、ニンゲンの王国、ネクロ。行ってみればわかるわ。ニンゲンの恐ろしさが。」

 

 

 

私はしばらく、チルノさんの言っていた、人間の恐ろしさ、と言う言葉の意味を考えていた。

 

妖精に、吸血鬼。この世界の生物は、人間など簡単に滅ぼしてしまうほどに強いものばかりだ。それを裏付けるように、この館の妖精メイドは人間を狩り、食料としている。

 

一体、それを凌駕する人間など、本当に居るのだろうか。

 

 

 

そんなことを考えていると、夜もすっかり更け、空には、冷める気もしないほどの闇が広がっていた。

 

「…かつて、ワンダーシティは、赤の女王の掌中にあった。女王は、そこに住む生物を道具のように扱い、虐げた。しかし、そんな時、年端もない、どこから来たのかも知れない少女が立ち上がり、一夜にして女王軍を壊滅させた。少女はその後、消息を絶った。」

 

アリスさんが、窓越しに黄昏れ、様々なことを考え込んでいた私に近づき、そう呟いた。

 

夜はすっかり更け、城の庭内の湖には蛍が舞い降り、青白い光によって幻想的な風景を作り出している。

 

月には、青い蝶が舞う。アクアフィルムと言う蝶らしい。月の光を餌とし、それを体内で栄養にする際に、その青い羽根を光らせる。

 

私は、その物語を知っている。有名なおとぎ話だ。その英雄の名前も知っている。だが、何故彼女は、急にそんな話をしだすのだろうか。

 

「私…とても昔に、そんな様な夢を見た気がするの。まだ年端もない幼い頃に…うまく思い出せないけれど。」

 

彼女は、そういうと、また黙ってしまった。そういえば、あの英雄と彼女は同じ名前だ。アリス、なんてありきたりの名前だが、もし彼女があの英雄ならば、私なんかが側にいて良いのだろうか。

 

ひょっとすると、私が知る以上に、彼女は凄い人間なのかもしれない。

 

 

 

その晩、私は夢を見た。

 

アリスさんに良く似た少女が、タキシードを着た兎を追い掛けている。今のアリスさんとは違い、青い吊り上げのスカートと、リボンをしている。兎は時計を見て、お茶会に遅れてしまう、と繰り返し叫んでいる。

 

「ねえ、あなたは誰?兎なのに、何でタキシードを着ているの?」

 

「何だ君は?兎がタキシードを着てはいけないのかい?私の名はアイーゼル。帽子屋のレイクロクがお茶会を開くので、私も是非行きたいと思ってね。君は?君もお茶会に招かれたのかい?」

 

「いえ、私はアリス。ちょっと道に迷ってしまって…この庭の出口はどこかしら?」

 

「そうか、アリスか。それなら、あの穴をくぐると良い。お、もうこんな時間だ!私も行かねば!」

 

少女は、兎に連れられ、穴の中に飛び込んだ。

 

夢は、そこで覚めた。

 

夢に見た世界、間違いない。昨日話していた、あの世界だ。結局、アリスはその夢の中で、幾度となく不思議な世界を冒険をするのだが、結局、彼女は夢を見ていたと言うオチで終わる。

 

まさか、本当にアリスさんは、あの不思議の国の英雄「アリス」なのだろうか。

 

そして、「アリス」が救ったあの世界は、このブラッド・ワールドに実在する。だとすれば、彼女はこの世界の英雄。そんな彼女と、はたして本当に私なんかが一緒に居て良いのだろうか。

 

 

 

ワンダーシティは、ブリザードの北に位置する街である。その国境には、炎を吐く白いドラゴンや、アクアフィルムの幼虫が生息する樹海が広がっている。

 

私達は、ワンダーシティまで空を飛ぼうと話し合ったが、ルイズさんに、天まで樹が伸びる樹海では、空を飛び、それを避けることは不可能に近いと言われ、止められた。私達は彼女の、私が護衛しますから、早めに城を出ましょう。という助言に従い、午前の四時に城を後にし、ホテルでスター達を拾い、樹海に入った。

 

樹海は、日が差しているものの、樹木が生い茂り、とても暗い。周囲には、ドラゴンの咆哮が五月蝿く響き、足元には、アクアフィルムの幼虫が、紫色の毒針をつけて蠢めく。

 

本当に、こんな場所を通ってまで、ワンダーシティへ行く必要があるのだろうか。一瞬はそう思ったが、隣にいるアリスさんの表情を見て、すぐに自分を諌めた。

 

そうだ、私が何も感じなくても、それが他人にとって、非常に重要になることなど、いくらでもある。

 

自分が何も知らなくても、どこかでそれを知り、頑張る人は必ず居る。

 

そうだ。今日もまた、どこか私の知らない場所で、私の関係のないことを…




まだ結衣達の冒険は続きますが、次回から、ちょっとだけ特別編。主人公は、美鈴になります。
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