私の名前は紅美鈴。普段は、紅魔館と言う城で門番として雇われる身だが、本来はブラッド・ワールドの漢乃国にある、誇り高き妖怪の武闘家一族「紅家」の末裔だ。
今から数百年前、私は紅家に生まれ、幼い時から紅家の一族として、大人の戦士と幾度と無い戦闘を繰り返してきた。そのお陰からか、私は生まれてわずか十三で、紅家の一族として戦うことを許された。
全ては、紅家の為。敵対する一族を退け、戦い、勝ち続けた。時には、刃物などの武器を用いる敵も存在したが、そんな連中も、全て素手で倒した。
しかし、私は一人の男を前にして、怯え、逃げ出した。男の名は青虎漢前。彼は、古くから私達の国に伝わる青虎一族の末裔であり、彼の名を知らぬ者は国に居ない。そんな強敵にもかかわらず、私は自分の力を過信し、彼に戦いを挑まれても平気な顔で油断していた。
数百年の慢心が生んだのであろう。彼のオーラを見るまでは、正直、どうせまた弱い人間だろうと思っていた。
そう、彼のオーラを見るまでは。私は戦いの直前に、彼のオーラに耐え切れず、家族の前で無残な姿を見せた。
私は家族に会わせる顔がなくなり、紅家を飛び出し、一人修行の旅に出た。舟に乗り、たどり着いたのは、ネクロと言う異国の街。私はそこで咲夜さんに出会い、紅魔郷の門番として雇われ、霊夢や魔理沙と出会った。
あれから数年。私は紅家まで戻ってきた。咲夜さん達が祖国へ用事へ行ったので、しばらく暇ができたから、門番はしばらくはお休みと言うのも好都合だった。
理由など決まっている。青虎漢前や紅家の一族に謝り、再び彼と戦わねばならない。
私の家のふもとは、見違えるほど平和だった。かつては、ここにはあらゆる荒くれ者が集い、自分の強さを証明すべく、この場で争いあっていた。
屋台では肉や魚を焼いて売っており、子供達が無邪気に遊んでいる。店の人間に、いつからこの場が平和になったのかと聞くと、紅一族がこの場をまとめ、規則を作ったからだと言う。
私は店の人間に礼を言い、山奥の実家へと向かった。この山の道中には虎が住み、普通の人間ならば食われてしまうほど危険であるが、ここは腐っても紅家の人間。ひと蹴りで虎を黙らせ、先を急ぐ。
見えてきたのは、紅家の門。門番を呼ぶと、門番は驚いた様子で私を招き入れた。
家の中庭には、彼岸花が咲き、死体の血を吸い育つ毒蛾、緋戒が飛ぶ。害虫として有名だが、夜中、飛ぶ時に放つ赤い光が美しく、それは異国のアクアフィルムと言う蝶に似るとして、緋戒の巣や繭は数億で取引され、貴族には、それのコレクターは何人もいる。
アクアフィルムが飛ぶ国ですら、アクアフィルムとは似ている様で違う、赤い光に魅了され、その繭や巣を買い求める客が絶えない。
私の父親も、そんなコレクターの一人である。まあ、そんなことは、今はどうでもいい話だ。庭を抜けると、家族が住む豪邸にたどり着く。
「…何をしに来た。紅家の面汚し。」
「謝りに来ました…謝って済む話じゃあ、無いことは解ります。」
「ふん、謝るのならば、儂などに謝るよりも、漢前に謝れ。奴が、どれほど戦闘に情熱をかけているのかを、お前は知らぬ。お前と闘う日を、どれほど楽しみにしていたか、もな。」
「…はい。」
私はその後、山を下り、彼を探して回った。ふもとの村から、隣の国、青虎一族の城、様々な場所を。
その結果、彼は、この国の中で一番の名山、黒愛山で修行をしていると言う話を聞いた。
その山は標高4千メートルの高さがあり、多くの魔物が済む。並の人間が近づくと、三日で命を落とすと言う修羅場だ。
彼は私と闘った後、私が逃げ出したのは、彼のオーラの弱さに落胆したからだと思い込み、私が彼に挑戦状を叩きつけてくる、その日を待ち望んでいると言う話も聞いた。
話を聞いた後、私は悲しくなり、その場で涙を流した。彼は、私の何倍も強かった。身体も、その精神も。
黒愛山の山頂の、世界の全てが見渡せると噂される場所。そこに彼は居た。
見ただけで感じることができる。彼は、以前の何倍も強くなっている。今でも、当時の恐怖が蘇ってくる。
しかし、私は何となく、彼の中に愛情も感じた。
「…青虎漢前?」
「…はい。挑戦状、ですか。生憎、私はあれから、あまり強くはなれませんでした。やはり山で篭るよりも、美鈴さんのように、世界中を旅した方が、得るものもあったかもしれません。だからあの時、美鈴さんに挑戦を受けてもらえなかったように、今回も、また逃げられてしまうのかも。と思いました。美鈴さんは、世界中を旅して、得たものが沢山あるのでしょう?」
私は、彼に本当のことを言うことはやめようと思った。彼の中の私を、殺したくないと思ったからだ。私は、彼への届かぬ償いも含めて、彼に今までのことを全て話した。霊夢や魔理沙、それに古明地鬱夜。世界には、まだまだ強い人達が居る。
例え道は違っても、互いに分かり合えるだけの信頼を築くことができる。
そんなことを、カッコつけて彼に伝えた。彼の中の私が、そう言うように。
彼は私の話を聞いて感動し、その博麗霊夢とは、是非一戦を交えてみたいと言った。そして彼は最後に、私と闘いたいと言った。
断る道理などなかった。元々、私はその為にここへ来た。霊夢や魔理沙に習った、その全てを彼にぶつける。そんな勢いで。
結局、彼には負けてしまった。完敗と言う訳では無いが、全てをぶつけた上での敗北と、そうではない敗北では、意味合いは大きく違う。
彼は、今回は自分の勝ちだが、それは運が少し自分に味方しただけで、本来なら美鈴さんが勝っていた試合だと言ってくれた。
私は、彼のような純粋な強さが持てるのだろうか。まあいずれにせよ、それは自分の闘いの中で見つけるしかないのだろう。
もう、逃げたりはしない。ずっと挑戦し続けていく。
次回からは、また結衣達の物語です。こんな短くてすみませんでした。