東方吸血精   作:tesorus

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前編の続きってだけなので、少し短いかもしれません。


ⅩⅣ-Ⅱ:夢に見た世界は実在する 後編

ルイズさんは、青年と二人きりで少し話がしたいので、先に行っていても良いと言い、その場を後にして、青年を引きづって森の中へ戻っていった。

 

森の影に隠れていた三月ウサギは、青年が森へ消えるのを見ると、彼のような面倒な奴が居なくなってせいせいしたよと、ハツカネズミの手元の紅茶を飲み干した。

 

「紅茶なら飲めるだろう?君も飲むかい?」

 

「…本当にあるんですか?無いものを勧めるのは、あまり良く無いですよ?」

 

私は、ここと同じような世界が描かれた物語を思い出し、少し彼に疑ってかかった。

 

彼は、あの物語に描かれた、三月ウサギそっくりだ。その物語の中の少女に、ありもしないワインを勧めたりして、彼女を困らせるような存在。それが彼だ。

 

まあ、紅茶は元からあのネズミが飲んでいたのだから、無いわけがないのだが。

 

それよりも、人の紅茶を奪って飲み干すとは何て奴。

 

「いやいや、あるよ。僕はあんな奴とは違うからね。」

 

彼が左腕に持ったティーポットから、三つのティーカップに、血のように赤い紅茶が注がれる。どこまでも透き通っていて、砂糖も加えられていないのに、ほんのりと甘い香りがする。

 

どうぞ、とウサギから差し出され、紅茶を鼻元に当てると、やはり、甘い匂いがほんのりと鼻の中を包む。

 

私は、狂おしいほどにお菓子が好きで、それに合う紅茶も大概は揃えているが、こんな紅茶は飲んだことがない。ひょっとすると、この地域の特産の紅茶なのかもしれない。

 

口に入れると、キャラメルやチョコのような甘味が漂い、後から紅茶の味わいがくる。

 

「美味しい…」

 

「そりゃそうさ。僕もこの辺りの紅茶は大概知っているが、こんな紅茶は飲んだことがない。悔しいが、こればかりは完敗だよ!」

 

「…え?このあたりの茶葉ではないのですか?」

 

「ああ。あまり大きい声では言えないが、あいつは、このあたりの人間ではないんだよ。どこから来たかも、一体、何でこのあたりに移り住んできたのかも、知らないし教えてもくれない。まあ、このあたりに住む連中は、ほとんどがそうなんだがね。」

 

彼は、そもそもこのあたりには、あまり人が住んでいなかったとも話した。こんな樹海の中のちっぽけな場所に、たくさんの動物や奇怪な連中が集まり、こんなに賑やかになるなんて、初めは思いもしなかったと。

 

その茶葉は、もしかすると、彼が、彼が元いた場所から摘んできたのかもしれない。兎はそう言って、今度は彼自身のティーカップの紅茶を手に取り、飲み干し、今度は、先ほどまでの彼にはなかった、冷静とも取れるような表情を見せた。

 

「…奴は不思議さ。普段は、あんな気弱そうな表情をしているように見せかけて、戦闘能力が凄く高いんだ。まるで別人だね。それが、奴の故郷と繋がりがあるのかも。まあ、だから何と言う訳ではないがね。あの時のあいつは、まるで戦うために生まれてきたように見える。」

 

そう寂しげに語るウサギの目には、少しだけ、憐れみとも取れるような色彩が写ったように見えた。

 

それから、しばらくの時間を、三日ウサギやハツカネズミ、それから、タキシードを着た兎と共に過ごした。お近づきの印にと、彼ら三人と、私達三人で、自己紹介をしあうことにした。

 

まず始めに、タキシードを着た兎が自己紹介をした。彼は、名をアイーゼルと言い、時空を超える力を持つ。しかし、その力には制約があり、走っている間しか、時空を飛ぶことができない。走ることをやめれば、その能力を使う前の場所に戻ってきてしまうと言う。

 

さらにこの能力、オンとオフが効かない。つまり、彼が走れば、自動的に、彼は次元の彼方へ飛ばされてしまう。数年前も、帽子屋の開いたお茶会へ急いでいると、気がつけば異世界の、誰かの家の庭にいたと言う。

 

本当にそんなことできるのかと、彼に能力を使って欲しいと頼んでみたが、あんな目に会うのはこりごりだと言って、全くそれを見せてくれなかった。

 

まあ検証などしなくとも、時空を飛ぶことのできる人を私は知っている。その人のおかげで私は今ここに居るし、そもそも、この世界にはおかしなことがいっぱいだ。そんな奴もいるだろうと思い、彼の話はスルーした。

 

さて、次は誰が自己紹介をするのか。私は、それを待っていた。三月ウサギやハツカネズミも、きっと面白い能力を持っているに違いない。それを早く聞きたい。と。

 

しかし、それからしばらくすると、彼らは、そのまま雰囲気に話を流し、その後は、それぞれ自分のやりたいことを、躊躇もなくやり始めた。

 

ハツカネズミは、先ほど兎に飲まれた紅茶のおかわりを注ぎ、三月ウサギは、分厚い本を読み始め、アイーゼルは、昼寝を始めた。

 

私は、初めはきょとんとし、三月ウサギに、自己紹介を続けないのか。と話しかけたが、それはもう飽きた。やはり自分のことを他人に話すなど、あまり面白いものではないと言い、その後は、私を無視して本をひたすら読み進めていた。

 

なるほど、流石は夢の国の住民達。面白いことを見つけ、しばらくはそれに没頭していても、すぐに飽きて、また別のことを始める。これが奴らの日常であり、一種の価値観なのかもしれない。

 

私は呆れ、もう帰ろうかと思った。

 

「ねえサニー、さとりさん…もう帰らない?チルノさんの異変は、一応アレで済んじゃったし…」

 

「うん、まあ良いけどさ。アリスさん達はどうするの?そもそも、アリスさんが居なきゃ、帰れないよね。」

 

「あ……」

 

そうだ、思い出した。そもそもここに来た理由は、アリスさん達を探して、ネクロシティに行くため。そのために、ここまで逃げてきたんだった。

 

私は何をやっているんだ。こんな暇人どもとお茶会なんてしている暇はなかったことに、何故気付かなかったのだろう。

 

「ああ、そうだったのか。君達、アリスの知り合いなのか。アリスなら、数日前にここへ来たよ。前にここへ来た時には、随分と幼かったのになあ。まったく、時の流れと言うのは早いものだよ。」

 

ウサギは、私達の話を聞くなり、独り言なのか私達に言っているのか解らないくらいの音量で、そう呟いた。彼女はどちらに?と聞くと、彼は城の方に首を振った。

 

急がなければ、先に行ってしまうかもしれない。私はそう思い、サニーとさとりさんに支度をさせ、その方角へ走り出した。

 

恐らく、今の私達では、あの女王には勝てない。そんなことはすっかり忘れて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…随分と家から引き離されたね。これは戻るのが大変かもね。それで、要件は?」

 

「そうですね。私もそろそろ、本業に戻らねばならないので、要件だけ的確に。いつかはまだ確定していませんが、もし「あれ」が他の世界に見つからぬようからば、近いうちに、幻想郷に攻め込むとのことです。」

 

「おお、それはまた物騒だね。他のみんなは参加するのかい?」

 

「恐らく、ユキとマイは、もうその気ですし、夢子も、神綺様の命令とあれば、逆らうことはないのでは?サラは知りません。」

 

「…そうか。まあ、幻想郷以外に「あれ」があれば、それが最善だけれどね。その本業ってのは、それの関連かい?」

 

「はい。まあ、そんな感じです。トウキョウの方に行ってきます。では、またいつか。そうそう、偶には、神綺様と連絡を取ってください。心配してましたよ。あと、結衣さんには、仕事抜けするので、先に行っていてとお伝えください。」

 

「ああ、わかったよ。」

 

ルイズさんが、右腕の腕時計のボタンを押すと、彼女の下に、ブレスレットと同じ紋章が現れ、彼女は、その紋章と共にその場から姿を消した。

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