吸血鬼と人間が争いを続ける地上。しかし、その地下には、そんな血みどろな世界を忘れられるほど賑やかな、悪魔達のカジノが存在する。
悪魔、ネオティスア・スカーレットは、かつてこの地下街で生まれた。母親は、スカーレット本家の人間であるが、父親は、そんな血筋からは遠く離れた、汚らわしいサキュパスの人間であったらしい。母親は、そんな血筋を引いた子供を嫌い、この地下街に捨てたと言う。
彼女はここで育ち、生きる為にギャンブラーとしての腕を上げ、その賞金で生活をしていたと言う。
結局、彼女は、悪魔本家の主、ネカクルスに引き取られ、彼女はそのおかげで、豊かな生活を送ることができるようになった。しかし、彼女にはギャンブル癖がしっかりと爪痕を残し、散々賭博をした結果、ついに破綻し、今はネカクルスからの借金を返すため、パチュリーの元で働いている。
「さて、ここへ来れば、流石に人間共は追ってきませんよ。レミリアが迎えに来るまでは、ここに居た方が良いですね。」
「あの…」
「大丈夫ですよ。ここには、見慣れた私の知り合いばかりですから。それにしても、やっぱりここは全く変わりませんねえ。まあ、破産しない程度に、適当に遊んでいったらどうです?」
「………でも。」
私が、そんな風に遠慮していると、サニーは私の手を掴み、落ち込んで、遠慮していても仕方ないよと、私を連れ、カジノの中へ走り出した。
私には、やっぱりサニーは眩しすぎる。太陽のような彼女は、いつも私を元気づけてくれる。私が洗脳されたときも、私を支えてくれた。
彼女に連れられ、カジノの中へ入ると、そこには、大量の悪魔の、人だかりならぬ悪魔だかりができていた。話を盗み聞きすると、どうやら、この先にいるギャンブラー二人の腕が凄く、本来ならば、もう店の金を全て持って行かれてしまっていても、おかしくないくらいの実力者であると言う。
私は、その人を一目見たいと、悪魔達を押しのけ、彼女らの座るテーブルの前まで、足を進めた。
「なあ、もっと強い奴は居ないのか?せっかく休みを貰えたんだ。このユキ様に勝てるような、そんな強い奴と戦いたいんだよ!だろ?マイ!」
「…私、そろそろ飽きたんだけど。何?人を誘っておいて、何かと思えばギャンブル?あのさ、私はあなたみたいに暇じゃないの。それに、悪魔は天使の天敵なのよ?早くメトロポリスに戻らせて。」
一人は、白い羽根を生やし、その羽根と同じ服を着て、椅子に座って本を読んでいる。一方でもう一人は、この世界にそぐわぬ、黒い軍服のような服を着て、ディーラー相手にカードを切っている。恐らく、凄腕のギャンブラーとは彼のことだろう。
こんな子供が凄腕だなんて、この世界の概念は、やはり理解できない。
いや待て、こちらには、心を読むさとり妖怪がいる。ギャンブラーとは、それ即ち、心理戦を読み合う競技。もしかしたら、さとりさんにやらせれば、ボロ儲けできるかもしれない。
「……嫌らしい考え。」
頼むよ、と、私達を追ってきたさとりさんに、心の中で合図すると、彼女は嫌そうな顔をして、彼女の前に座った。
すると、悪魔達はざわつき、止めるなら今のうちだぜ、とか、
「お、来たか!賭け金はどうする?他の悪魔みたいに、ビビって賭けないか?」
「いえ。勝者に、敗者の賭け金をオールインで。」
「……ほう。嬉しいね。行くぜ!」
悪魔達のギャンブルのルールは、通常のカードゲームとは異なる。手札は、1から13までのトランプ全て。トランプ一枚を裏向きで出し合い、数の低い方が勝利となり、敗者はその出した札を捨て札にする。数字が等しければ、二人とも、そのカードを捨てる。それを、どちらかの手札が無くなるまで続ける。
ただし、13の札のみ例外で、それを出せば、1に勝つことができる。
故に、相手の手札が解れば、確実に勝つことができるギャンブル。さとりさんを出せば、無限に勝ち続けることができる。
ところが、さとりさんは相手を見るなり、目の色を変え、急に、余裕がない表情を見せた。
まずは一回目。相手が出した札は8。それに対してさとりさんは、圧倒的に強い2を提示した。
どうして!?相手が出す手が分かっているのならば、相手よりも1強い数を出せば良いだけ。なのに、どうして…
次のターン、相手の出した札は11。対して、さとりさんが出した札は9。
どうしよう。もしかしてさとりさん、相手の心が読めない?いや、そんなはずはない。覚妖怪が心を読めぬ相手など、いるわけがない。
私が焦っている間にも、ターンは経過する。相手の札は、最も強い1。対して、さとりさんが出した札は4。とうとうさとりさんが一敗し、彼女はその札を捨て札に置く。
間違いない。さとりさんは、彼女の心が読めていない。
でも、どうして心が読めないのか、私には全く理解できない。
「なかなか面白いな、あんた。この世界の奴じゃないだろ?だろうな。この世界にさとりは居ない。」
「…となれば、あなたも。まさか、メトロポリスの人?さっき、そこの女の子が、そんなことを話してたわね。」
「…だったらどうする?」
彼女からそれを聞くと、彼女の左腕が、カタカタと揺れたが、すぐに左腕を抑え、その揺れは収まった。
「別に何もしないわ。ただ、私の故郷が、あなた達の世界と因縁があってね。まあいいわ。ゲームを続けましょう。」
「なるほど、そうは見えないがな。まあいいや。」
次に彼女が出した札は13、対して、さとりさんが出した札は1。
恐らく、彼の1を恐れ、道連れを選んだのだろうが、彼は、それをすっかり見越していた。これで、彼女が13を出すタイミングを間違えれば、彼女は摘んでしまう。
どうする、もう後がない。もし彼女が負ければ、私達は一文無し。そう考えるだけで、私は頭が狂いそうになる。
それに対して、相手の相方は随分と余裕そうだ。早くしてね、と声をかけるあたり、彼に相当な信頼を置いているのだろう。
次に相手が出した札は、またもや1。それに対して、こちらは7。相手は、敗北を恐れ、いきなり13は出さないだろうという読みだろう。
相手が1を出す確率は、わずか11分の1。それに、相手の心境次第で、0にも100にもなる。
しかし、これを境にして、さとりさんの猛反撃が始まる。次に相手が出した札は、またもや1。それに対して、さとりさんの札は、何と、使いどきを間違えれば敗北する、13。
何と、彼女の13の札を、捨て札にしてしまった。それだけではない。相手の2、3、4、6の札すらも、それと同じ、またはそれより1多い札を提示し、相手の手札から奪っていく。
「ど、どうして…」
「簡単なことよ。あなたは、1を持ち続けているが故の慢心から、序盤で、私が敗北のリスクが最も高い13を出すことは、まずあり得ないと判断した。そして、私が出した札は13。あなたは焦り、自分の冷静な判断を無くした。安全と確信の間に彷徨い、結果こうなった。さあ、次はどうするの?」
「……!」
焦る彼女を前に、付き添いの娘は本を閉じ、そろそろ帰れそうね、と笑顔を見せた。
さとりさんの札切りも流石だが、それ以上にこの二人、一体何者なのかに、私は関心があった。
けれど、そんな、どこか恐ろしいほどの余裕に、私は見覚えがあった。しかし、それが誰だったかを思い出すのは、後の話になる。
結局、さとりさんは彼女に勝ち、私達は、白い羽根を生やした少女から、ここにその分の金が入ってるから、遊びなり何なりして、この世界の人の為に使ってあげなさいと言って小切手を貰い、さとりさん相手に、面白かったから、もう一回やろうと誘う相方を殴って気絶させ、その場を去った。
何となくだが、白い羽根を生やした少女の周りにいると、凄く心が洗われるような感触を覚えた。
あの天使のような少女に、私はまた会いたいと思った。あの雰囲気を、私は恐らく忘れないだろう。
「てか、天使でしょ。」
「えっ!?」
「いや、だから、どう見ても天使だって。周りの悪魔も、彼女の羽根に触れた瞬間、マグマに触ったみたいに熱かったって言ってたし、それって、聖なる物に触れたからでしょ?それに、彼女本人も、天使って言ってたしね。」
「…本当にいたんだ、天使って。」
そっか。そりゃあ、吸血鬼も悪魔も、妖精も居る世界だもんな。天使くらい居てもおかしくないか。
それから数時間して、ネオティスアが迎えにきて、私達は再び、地上へ帰った。
そんな中、誰かにつけられているような、私達の後ろを歩く、革靴の音が聞こえた気がした。