東方吸血精   作:tesorus

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ⅩⅥ:愛を知らない

ブラッド・ワールド内の、小さなホテル。時刻は、夜8時。私達が合流した頃には、部屋は3部屋借りてあり、もう2つの部屋に仲間達を押しやり、レミリアさんは一人、別室で過ごしていた。

 

何故、彼女達の住む紅魔館が襲われたかは、異変解決にあたり、今更隠す話でもないと、咲夜さんから聞いた。レミリアさんは何らかの理由で、吸血鬼の王であるブラッデル・スカーレットから命を狙われているらしい。

 

他の皆の配慮なのだろう。今、一番危険に晒されているのは、他でもない彼女なのだから。

 

そんな一室に、私は一人で来るようにと、部屋に呼び出された。直接口で呼び出されたのではなく、私がホテルのシャワーを浴び、ギャンブルで手にした大金の一部を使い、借りた4つめの部屋に帰ってきた時に、机に彼女の文字で、来て欲しいと呼ばれた。

 

しかし、部屋に入っても、彼女の姿は見当たらない。彼女は確かに、ここで待っていると言っていたのだが、一体どこへ行ったのだろうか。

 

「…あら、ごめんなさい。大分待たせたかしら?」

 

それからしばらくして、彼女は私にそう断ってドアを開けた。

 

彼女は、服を着替えていた。恐らく、彼女が席を外していたのは、そのせいだろう。

 

赤いネクタイと、白いワイシャツ。それから、黒いスカート。どこかで見たことのある服装だ。そう、先ほど救ってくれた、悪魔ネオティスアの服装だ。

 

別に、彼女の服は汚れていた様子もなかったし、寝巻きにしてはしっかりしているし、一体、何故そんな服を着てきたのだろうか。

 

彼女は、私を通り過ぎ、ホテルの開いた窓に腰を掛け、この服を着るのも久し振りね、とため息をついた。

 

「どういうことですか?と言うかその服…ネオティスアさんの服ですよね?」

 

彼女は、私の問いかけを聞くと、首を振り、確かに、彼女も着ていたから、貴女から見たら、そう見えるかもしれないわね。と、儚く笑った。

 

「この服は、人間達に対する吸血鬼の軍隊の正装よ。まだ、悪魔の連中とは仲が良かった時期に作られたから、彼らの服とはデザインが同じなのかもしれないわね。」

 

なるほど、つまり彼女は吸血鬼の脱走兵。戦うことに異議を持ったか、敵に慈悲を抱いたかで、抜け出してきたのか。それならば、彼女が、吸血鬼の王であるブラッデルから命を狙われていると言う、先ほど咲夜さんから聞いた話とも一致する。

 

「それと、貴女にも、咲夜にも話していない話が、一つだけあったわ。ブラッデル・スカーレット。彼女は、私の父親よ。とは言っても、母親が再婚した相手で、実の父親ではないけれどね。」

 

「……え?」

 

私は、それを聞いた瞬間、心臓が強くなる感触を覚えた。

 

父親?それって、父親に命を狙われていると言うこと?いや、それだけじゃない。普通、王の娘ならば、その城の姫として、高い地位につくことができるはず。

 

しかし、彼女はそんなこと全くなく、一兵卒として、徴兵された。

 

訳が解らない。例えどんな暴君であろうと、それだけはしないはずだ。そんなことをしてしまえば、王の血筋が途絶えてしまう。

 

「どうして…どうして、自分の娘にそんなこと…」

 

「…しないわよ、あいつは。実の娘にそんなこと…」

 

彼女は、私の問いかけに対し、小声で呟き、窓から飛び降りて、その窓を閉めた。

 

「あいつは、自分の実の娘の、フランのことが可愛くて仕方がないのよ。フランは、私の母親と、ブラッデルの間に生まれた、正真正銘あいつの娘。だから、あいつはフランに、紅魔館ってでかい館をプレゼントして、そこの地下全てを、あいつの遊び場にした。笑えるでしょ?父親は違うと言っても、今となってはフランも私もあいつの子供。なのに、姉の私は兵士として父親の足の裏を舐めるようなことをしていて、妹のフランは楽園で一生遊んで暮らす。」

 

馬鹿みたい、と彼女は笑った。

 

空には既に闇と雲が広がり、雨の音がシトシトとなり始めていた。雷の音も鳴り響き、その音は、まるでこの世界が、私達に帰れと言うような、そんな風な怒号にも聞こえた。

 

窓の先を見てみると、高台に立つホテルからは、街中の明かりが一望できる。街の全てに明かりがつき、明かりがつかぬ部屋など、一つもない。まるで、街全体が、何かに洗脳されているようだ。

 

「それで、私は「フランお嬢様」を守るために、一人のメイドと一緒に、紅魔館に越してきた。メイドはあくまで、私を紅魔館の主として、彼女は私の妹として扱っててくれたけど、本当は、彼女が本当の主で、私はあのメイドと同じ、ただの召使い。本当に馬鹿みたい。で、「フランお嬢様」は私に、何ておっしゃったと思う?「どうして、お外に出してくれないの」よ?」

 

そんなこと、こっちが聞きたいわ。と、彼女はやけくそに笑い、ベッドに身を投げ、空のグラスに瓶の口を傾けた。

 

しかし、瓶には一滴もワインが入っていなかった。すると彼女は、無いか。と呟き、瓶を床に投げ捨てた。

 

瓶は、床に当たってバラバラに砕けた。私が彼女に、そのことを注意すると、彼女は、たまにはワガママ言わせてよと言って、布団にくるまったまま、ふてってしまった。

 

それから数時間後、私が呼んだ清掃員が来た。そのままでは、流石にガラスが散らばって危ないので、清掃員のスタッフを呼び、綺麗にしてもらったのだ。

 

その頃には、彼女はもう寝てしまった。それからしばらくして、大雨は止み、窓を開けると、心地よい風が、ジメジメとした雨の匂いを運んできた。

 

既に街の大半の灯りは消え、人通りは全くなくなり、静かな夜の光景を醸し出す。それを見て、もし、この世界の夜が明けなければ、この世界はどれほど平穏だろうか。と思うのは、恐らく私だけだろう。

 

しかし、そんな中にも、少しだけだが、乱世の面影は残っている。

 

兵士たちは、夜にもかかわらず、誰もいない街で、監視の目を光らせているのが、その一つであろう。

 

私は、大分眠気が身体を襲いに来ているので、もう寝ようと思い、レミリアさんの部屋を後にした。

 

私は、ベッドに潜り込み、ホテルの枕に顔を埋めた。

 

明日になったら、もう東京に帰ろうか。ワンダーシティでも言ったが、学園長からは、あくまでチルノさんに関する異変解決を任されたのであって、レミリアさんと、彼女の父親に関する異変は、別に解決しろとは言われていない。

 

明日になったら、もう帰ろう。そろそろ授業に出席しないと、単位を落としてしまう。

 

そんなことを考えていると、睡魔が私を包み、意識がなくなった。

 

 

 

「…起きろ。」

 

私はその後、鋭く突き刺さるような女性の声に目を覚ました。

 

目の前には、黒い服を着た、剣を左腕に持った銀髪の女性が、私の正面にいた。

 

彼女を見た瞬間、私は、今の状況に気づいた。恐らく、彼女はネクロシティの兵士。空いていた窓から、私達の部屋に入ってきたのだろう。

 

「…お前が、夕方の騒ぎの犯人であることは、仲間から聞いてきた。いや、それだけではない。お前が、吸血鬼の手の者であることも。」

 

私は、ベッドから飛び降り、異空間から魔道書を引き出す。すると、彼女も剣を鞘から抜き、私の前に構えた。

 

今は、さとりさんも、サニーも寝ている。私一人の力で、なるべく静かに撃退したい。

 

そんなことを考えていると、彼女は、私への警戒心を解かずに、小さな声で私に質問をしてきた。

 

「…教えて。私は、あなたの仲間のことも、できれば誰も傷つけたくないの。私の親友を…シェリーを…どこへやったの?」

 

「…え?」

 

私は、彼女の問いに対して、少しばかり驚いた。

 

当たり前だ。夕方には、私を殺すことしか考えていなかったネクロシティの兵士が、私と話をしようとしてくれている。

 

それだけじゃない。誰も傷つけたくない。まさか、ネクロシティの兵士が、そんなことを言うなんて。私はあまりの衝撃に、一気に私の中の戦意は喪失した。

 

私は、ここで彼女を攻撃すれば、私は人ではなくなる。そう思った。だが、私はそのシェリーと言う女性を知らないし、第一、ネクロシティの兵士と、吸血鬼の関係すら、夕方に知ったばかりだ。

 

「…ごめんなさい。到底、信じてくれるとは思いません。でも、話させてください。私や、ここで寝ているみんなは、本当は、この世界の人間ではないのです。隣の部屋の彼らと知り合いなのは、その別の世界で彼らと会って、そこで友達になったからです…だから、シェリーなんて人は…その…」

 

私は、代わりには到底なり得ないが、ここまでの経緯を、全て話した。話せるのならば、話したいけれどと付け加え、ひたすら、自分達は、貴女と争う気はないと言う思いを告げた。

 

すると彼女は、剣を鞘に収め、余所者か、と落ち込み、軍手をした右腕で涙を拭き、もう天国かなと、彼女は涙目で空を見上げた。

 

「…そう、なら良いわ。その話、信じるわ。起こしてしまってごめんなさい。あと、夕方の騒ぎのことも…みんな、パチュリー様のことも、シェリーのことも大好きだったから、魔法使いや吸血鬼を見たら、いっつもあんな風なの…そうよね、きっと、あなたの世界では、そんなこともなくて、魔法使いも、吸血鬼や人間も、みんな仲良しなのね。」

 

彼女は、私に会釈して、開いた窓の前に立ち、そこから飛び降りた。そして、彼女は、別れ際に涙を流し、自分に言ったのか、私に言ったのか、解らないような音量で、こそっと呟いた。

 

「最後に教えてあげるわ。貴女の友人とは、早く別れた方が良いわ。貴女の友人は、最悪だから…」

 

 

 

 

 

私は、彼女の涙を見たあとで、一つだけ決心した。

 

彼らを救うまで、この世界からは出ないと。

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