「ほっほっほ!もう終わりかえ?相変わらず弱いのお!」
リリィさんの脈があることを確認してから、手当をサニーに任せ、兵士達が向かった先へ向かうと、リリィさんの幼馴染の兵士達は、そのほとんどがやられていて、そのうちの一人は、立って剣を構えたまま、気絶していた。
恐らく、兵士達が接近戦を好むのに対し、彼女達は遠隔魔法を使って攻撃したのだろう。兵士達は死んでこそいないものの、鎧に焦げがあり、非情なほどの攻撃を受け、命も危うい状態だ。
「さて、どうかねウイ。このまま彼らを王への人質にすれば、この街を支配できるかもしれんぞ?」
「ほっほっほ、それは良いねえシャン姉さん。そうすれば、もう我々が…ん?」
私が、酷い怪我と言って彼らに応急処置をしていると、魔女の二人組は私を見て、ずいぶんと卑しい人間だと、私に唾を吐いた。
「…あなた達、魔女ですよね。どうして、こんな酷いことをするんですか。」
私が睨みながら彼女達を見ると、彼女達は私を笑い、一丁前に睨んでいるよと、私を蔑んで見た。
「おやおや、忘れてもらっちゃあ困るねえ。私達はあんた達のせいで、随分と酷い迫害を受けてるんだ。だから、その仕返しをしに、毎日ここへきては客を襲っているのさ。」
魔女達は、マントなどを見に纏い、独特な帽子をかぶり、いかにもと言う服装をしている。
「…確かに、あなた達の気持ちは解ります。私だって、初めてここに来た時は驚きました。でも、今ようやく、そんなことをする気持ちが少しだけ分かりました…だからと言って、あんなことをして良いとは微塵にも思いませんが。」
「ふん、兵士でもない人間が、魔女様に楯突こうってのかい!そんな悪いお子さんは、こうだよ!」
魔女は杖を掲げ、彼女達の何倍もの大きさを持つ火の玉を出した。
火の玉は、まるで太陽のように熱く、私の真上に出されるだけで、汗が止まらなくなる。
なるほど、兵士達はあれにやられたのか。それは熱かっただろうに。私は心の中で兵士達を気遣い、彼らの前に立ちはだかる。
「くらいな!」
火の玉が、私へと振り下ろされる。恐らく、逃げようにも、机などに塞がれて、上手く逃げ切れなかったのだろう。
私な彼女達を殺意を込めて睨み、高電圧の光線を放ち、その炎を打ち消した。
「恋符、マスタースパーク!」
突然の電撃を前に、慌てる魔女の二人組。そんなことには関わらず、私は、彼女達を殺さぬ程度の魔法を連射する。
魔女達は慌て、バリアなどの魔法を出すが、それすらも炎の魔法で溶かし、その間から、さらに高熱の魔法を用いて、彼女達を攻撃する。
「…ふっ、お前さん、魔女だったのかい!この裏切り者めが!」
彼女の言葉にも関わらず、私は魔法を何発も連射する。氷、雷、炎、闇、光。これ以上はないほどまでに、彼女達を攻撃する。
効かないよ、と魔女達は笑い、杖を光らせ、辺り一面を氷で覆い尽くす。それにより、私の攻撃は全て凍りつき、効力を失う。
確かに、彼女達と私との力の差は歴然だ。実力も努力も、断然彼女達の方が上。
だからと言って、今はサニーに助けてもらうこともできない。ただ単に怒りに身を委ね、威力の高い魔法を連射しても、圧倒な力の差を見せつけられ、笑われるだけ。
ならば、足りない頭で考えるしかない。勝利への道筋を。彼女達を撃退しない限り、あの兵士達を助けることもできない。
私は、横たわっている兵士に、聞こえぬであろう断りをして、剣を拝借する。
恐らく、彼女達の得意とする魔法は、威力の高い魔法ばかりで、接近戦ではまるで役に立たない。故に遠隔魔法で兵士達を懲らしめ、接近する前に倒したのだろう。
「はっ!魔法使いが剣を使うなんて、呆れたもんだね!やはり、所詮は人間の犬!」
うるさい、と返し、剣を構え、スピードを上げて彼女の元に詰め寄る。
「アクセルフリーズ!」
アクセルフリーズは、先ほどのリリィさんとの戦闘で使った、単純な加速魔法としての使い方だけではなく、氷の上ならば、滑らずに高速で動くことができる。
恐らく、彼女達は強い魔力に頼り、その体力は高くないはず。私が高速で走っても、目で追うだけで、少しも動かないのがその証拠。
彼女達は、威力の高く、範囲の広い魔法を幾度となく撃ってくるが、私には全く当たらず、ただ、氷漬けになった地面を抉るだけ。やはり彼女達、老けて、知識は優れていても、ごり押してくるあたり、過去にそれ以外の魔法を使ったことがないのだろう。
当然、先ほどのブレイジングスターのような、高速の魔法など、眼中になかった。それが彼女達の弱点。
少しずつ間合いをつめ、高速に動く。彼女達の魔力切れを狙うのは現実的な打開策ではないが、これならば、容易に接近戦に持ち込める。
「くそ…なんだいなんだい!私達が、こんな若い魔女に負けるってのかい!」
彼女の問いかけなど聞かず、接近し、剣に氷の魔法を宿し、彼女達の中の一人を傷つける。彼女達は巨大な火の玉を出し、私の剣もろとも溶かそうとするが、自分達が傷つかぬように威力を抑えているため、私にはそんなものは効かない。
剣で彼女の腕を切り裂き、その傷口を氷漬けにすると、その一人は痛みのあまり倒れ、もう一人は、それを庇うように、私に跪く。
私は、その跪いたもう一人の首に剣を突き出すと、彼女は降参だ、と両腕を挙げた。
「わ…解った…ここは去る。だから、私の命だけは勘弁しておくれ。悪いのは全部姉さんで…」
「な、何を言うかい!私は悪くない!ウイ、言い出したのはお前さんだろう!」
怯え、私に命を乞う彼女達を見ていると、何だか自分が悪いことをしているかのように思えてくる。
解りました、と私は溜息をついて、剣を兵士達の元に返し、もう、これっきりにしてくださいと言って、彼女達を逃した。
兵士達を病院へ運び、今日はそれで一日が終わった。
これが、この世界の魔法使い達。確かにこれならば、魔法使いの全てを裁きたくなるのも解らなくはない。
だが、そんなことをしては、永遠に憎しみは消えない。きっと、あんな魔法使いだけではないはずだ。何も知らず、これからの未来に胸を踊らせる、そんな魔法使いすら、兵士達は正義の鉄槌と言い、裁いたことだろう。
それだけではない。例え、どんなことがあっても、許しを乞う人間を、正義の鉄槌などと言って、殺めたりしてはいけない。
そんなことをしては、人ではなくなる。どんな状況であろうと、そんな人間達は、ほとんどの場合、心の闇を抱えている。それを「溶く」ことによって、新たな未来を得ることができる命を、決してみだりに扱ってはならない。
もちろん、意識が戻った彼らにそんなことを言っても、彼らは聞く耳を持たなかった。何も知らないから、関係ないから、そんなことが言えると、彼らは私に嘆いた。
でも、いや、関係ないからこそ、私はこの世界を優しく照らして見せたい。こんな復讐と恨みに身を任せた世界など、見ていて気分の良い世界ではないはずだ。
彼らのお母さんも、決して、そんなことの為に彼らを生んだ訳ではない。
魔法使いも、人間も、吸血鬼も悪魔も妖精も天使も、あんなことをして、されるために生まれてきた訳ではないことを、彼らはきっと知っているはずだ。
そう、この夜の闇のように、この街は、いや、この世界は暗い正義に包まれている。正義の鎧に覆われ、身の内の血を化粧品とし、偽りの化粧で身を美しく見せている。
そう。今もきっと、どこかで誰かが…
「何してるんだい、ウイ!早くしないと、吸血鬼や人間に殺されちゃうわい!」
「そんなことを言ったって、歳のせいか身体がもたないわい!ああ…世の中、昼間のあいつみたいな奴ばっかだったら良いのにねえ…そもそも…」
「ふふ、敵前逃亡ですか…それはいけませんね。私達の軍ならば、非国民で死刑ですよ?お二人さん。」
逃げ惑う二人の前に姿を現した、セーラー服の少女。胸に光る、魔界の紋章。彼女の右手には、無数の氷でできたつぶてが浮かんでいる。
魔女の二人は、出会った瞬間、彼女から放たれる、凄まじいほどの魔力に気づいた。このままでは、確実に殺される。そう思った二人は、魔法を放つ用意をする。
「…笑止。」
しかし、彼女の攻撃を前に二人はボロボロになり、先ほどのように、泣いて許しを乞う。
「頼む、命だけは…」
そんな二人を見て、彼女はあきれて二人を見下し、光の無い目を彼女達に向け、右手に、高電圧の電流を流す。
力なく二人に、彼女はミネラルウォーターの瓶を開け、二人をビショビショに濡らした。
この後に何をされるか解った二人は、血の気が引き、必死に許しを乞うが、彼女は一切反応を示さない。
「……!頼む、許しておくれ!」
「ダメですよ。もうダメだと思ったら、女王様万歳の合図と共に、手榴弾で自爆ですよ。学校で習いませんでしたか?あれ、そっか。ここは魔界じゃないか。まあ、何でもいいです。さようなら。」
二人の首を掴み、手から電流を流す。初め、二人は悲鳴をあげていたが、そのうち心臓が動きを止め、動かなくなった。