東方吸血精   作:tesorus

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ⅩⅨ:こんなことの為に生まれた訳じゃない

最近、まともに寝れていない気がする。

 

昨日はリリィさんに起こされ、その前はアリスさんの説得に時間を費やし、今日は…

 

「あら、気づいてましたか。夜中にこっそりしようと思っていたのですが…」

 

「…どうして、あの二人を殺したんですか。ルイズさん。」

 

昨日と同じ、ホテルの一室。昨日とは違い、サニーは完全にぐっすり寝ている。

 

私は窓際に、部屋を背に立っていて、ルイズさんはその後ろで、巨大な檻を背に立っている。まず最初に、あの檻で何をするのかを聞きたいが、二人を殺した事情を聞くのが先だ。

 

「ふふ、よくわかりましたね。そんなに彼女達の死臭が残ってますか?」

 

「…彼女達の魔力の残骸が、わずかにルイズさんの腕に残ってます。それだけです。」

 

そう伝えると、彼女はそうですか、と愛想笑いをして、その事実を語った。

 

実はルイズさん、昼過ぎから、私と彼女達の死闘を見ていたと言う。それで、私のことを傷つけた挙げ句、彼女達の往生際があまりにも悪かった為、イラついて殺したと言う。

 

「まあ、大したことのない馬鹿どもでしたよ。別に私が手を下さずとも、誰かに殺されてました…それで?あなたは、そんな愚かな敵軍の命乞いを聞けと。」

 

当たり前です、と彼女を睨む。すると彼女は私を煽るように笑い、やっぱり面白いですね、と愛想笑いをした。

 

「あ、そうだそうだ。何をしにきたか、ですね。そりゃあ、気味も悪かったですよね。あそこまであなた達をストーカーしていたら、流石に頭にくるでしょう。はっきり言います。誘拐しに来ました。さあ、私と一緒に魔界へ行って、神綺様に仕える兵士になってください。」

 

やっぱりか、なんとなくわかっていた。しかし、私なんかよりも、ルイズさんのような優れた兵士はいくらでも居るのに、何故、私に限るのだろう。それに…

 

「私は、例え魔界に行っても、あなた達なんかには従いません。なんで、どこの誰とも知らない人の為に、命をかけねばならないのですか。」

 

私は、神綺なんて人物には恩も何もないし、しかも、その人の為に命を捨てるなど、真っ平ごめんだ。

 

彼女はそれを聞くと、そんなことは百も承知です。と答えた。それならば、何故私を魔界の兵士にできると思ったのだろうか。それが不思議で仕方がない。

 

「そう。確かに、このままでは、貴女は兵士としては使えません。ですから、こんなものを用意しました。」

 

彼女が取り出したのは、透明な液体の入った注射器。なるほど、そういうことか。何となく察しはついていたが、やはりこの手で来るか。

 

「…洗脳するんですか。」

 

「はい。当たり前でしょう?この注射器には、初めに命令を受けた人物の命令には生涯逆らえなくなる、特殊な麻薬を入れてあります。もちろん、他の影響は全くありませんがね。」

 

安心してください、アリス以外の魔界の兵士は、みんな射ってますよ。と彼女は私に近づき、私の肩を叩いた。

 

どこが安心してください、だ。洗脳なんて、もうこりごりだ。しかも、リディ様達の時とは、まるで状況が違う。私は、嫌だ嫌だと首を振り、ひたすら彼女の注射針から逃れようとする。

 

戦ったら、確実に勝てない相手。私が苦戦したあの二人を、彼女は一瞬で仕留めるほどの力の差。私は逃げる以外、打開策を見出せない。

 

すると彼女は、諦めたのか、もういいですと言って、注射器をしまった。

 

「…良いんですか。」

 

「いえ。でも、今日は諦めてあげましょう。もう午前の二時。これ以上は明日に響きます…結衣さん、私、諦めませんから。」

 

彼女はそう言って、腕時計に秘められた装置を使い、ブラッド・ワールドから離脱した。

 

ルイズさん、彼女も本来は、あんなことの為に生まれてきた訳ではないはずなのに、どうして彼らはあんな風になるのだろう。

 

私は、寝る前にと置きっ放しにしてあった、既に膜がはり、冷めたホットミルクを飲み干し、眠りについた。

 

次の日私は、夕べ遅かったにもかかわらず、朝の六時に目を覚まし、サニーとさとりさんを起こし、ホテルのスタッフに頼んで、朝食を早めに出してもらった。

 

日はまだ完全に登らず、まるで黄昏時のようだ。日は街の家を一軒一軒慎重に照らし、まるで子守をしているかのようだ。

 

この世界は、今日変えてみせる。誤った常識を覆してみせる。そうでなければ、ずっとこのままだ。

 

私が何をしたいのか、それが解っていて、自信げに私を見るサニーと、まるで何のことだか解らないように私を見るさとりさん。

 

これで最後だ、全部、今日で終わりにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…本気なの?やめときなさい。そんなことをしたって、幻想郷や、あなた達が住む外の世界に、何の利益もないでしょ?」

 

本当のことを告げると、さとりさんは反対し、じゃあ良いですと置いてきても、幾度となく私の前に立ち、それを止めにかかった。

 

その二人の魔女はもう殺されたのだから、もう終わったことだとか、そもそも魔界の使徒と関わったのが運のつきであったとか言って、挙げ句の果てには、死に急ぐこともないと、私を力づくで私を押さえつけた。

 

しかし、だからと言って、この世界を見過ごす訳にもいかない。私は彼女を振り切り、ネクロの城に走り込む。

 

昨日のコーヒーハウスを通り過ぎ、変わりゆく街並みを見ては見送る。これが最後になるかもしれない、この街の空気。

 

世界が色を変え、城の中心に近づくに連れ、店の数は減っていく。

 

当然、私達のことを知らない兵隊達も増えてくる。私の体内にある魔力を察し、魔女の出現と慌て、すぐさま私を囲う。

 

「サニー!」

 

「解ってる!プリズムフラッシュ!」

 

兵隊の目を眩まし、その隙に空中へ飛び、下降して兵士達を交わす。

 

戦闘の間違いを証明するのだ。だから、兵隊を傷つけて宮殿へ乗り込んでも、それはお前達もやっているで済まされてしまう。だからこそ、城へは無血で攻め込まねばならない。

 

その為に、サニーの力はとても役に立つ。光を操る程度の能力、幻想郷の妖精の魔法に、大した威力はないが、目眩しには十分なほどの力だ。

 

むしろ、威力がないから、兵隊を傷つけずに能力を使うことができる。

 

「結衣!城が見えてきたよ!」

 

「うん!でも、正門から入れば、多くの兵士達と出会って、それだけ困らせる!だから、入るのは、通用口がある反対側!三人だけだから、なるべく見つからないように、裏道を探っていくから!」

 

裏道へ駆け込み、城内に侵入する。まるで、革命を起こす反逆者のようだが、王様に直訴するにはこうするしかない。

 

通用口から入り、裏の階段を駆け上がる。少ない数の兵士達が見張りをしており、見つかると、彼らは仲間に伝える為にその場を去るが、そんなことは構わずに階段を上がる。

 

最悪、縛られて玉座に引っ張り出されても良い。城の外部から、地下牢から逃げられそうな抜け道は幾らか見つけておいた。

 

しかし、そんな甘さは、すぐに私達へ牙を向いた。

 

玉座への扉を開け、ついにその扉を開けようとしたその時、私は扉の前で、幾千もの兵士達に囲まれた。兵士達は、私達の前に槍を構え、逆らうならば首を突き刺すと言って、私達を脅す。

 

「……本気のようね、仕方ないわ。被害は最小程度にするけれど。サニー、結衣。サポートしなさい。」

 

さとりさんはサードアイを光らせ、臨戦態勢に入る。サニーも身構え、もう戦うしかないと言う眼をしている。

 

「…戦うか。ならば、我々も!パチュリー王妃の仇、ここでとらせてもらう!」

 

「ダメええええええええええ!」

 

ダメだ!そんなことをしては、本末転倒だ。

私は、サニーとさとりさんの身構えた手を振り払い、そんなことをしてはいけないと、彼女達を止めた。

 

ざわめく兵士達。当たり前だ。臨戦態勢に入り、戦闘に集中せねばならないこの状況で、そんな仲間を止めることなど、自殺行為に等しい。

 

兵士達は、しばらくの間唖然としていたが、やがて我を取り戻し、私達三人をロープで縛り上げる。

 

荒い現実味を帯びたロープが、身体中に伝わる。所々濡れていて、血の匂いがして、とても気持ち悪い。

 

ロープは手足に食い込むほどにキツく縛られて、身動きが取れないどころか、じっとしていても痛いくらいだ。

 

「結衣!何で…!こんなことじゃ、本当に殺されちゃ…う…」

 

猿轡をされ、口も封じ込まれる。本当に自分の意志では動けなくなる。こうなれば、完全に向こうの言いなりになるしかない。

 

でも、それでも、あのまま血祭りになるくらいなら…

 

 

 

 

 

 

 

「さて、地下牢に連れて行くぞ。まずは魔女裁判にかけて、それから拷問を…」

 

「はは、随分余の部屋の前がにぎやかだと思えば、なかなか面白い魔法使いが居るではないか。」

 

私達が地下牢へ護送されそうになった、丁度その時だった。玉座の扉が開き、マントを羽織った男が現れ、兵士達を止めた。

 

その男を見た兵士達は、皆男の前に跪き、私達も、その場に正座させられた。

 

想像していたのに比べたら随分と若いが、恐らくあの男こそ、この国の王様だろう。王冠を被り、銀色の長髪をなびかせるその姿は、紛れもないイケメン…いや、王様としての威厳に満ちている、と言った方が良いのかもしれない。

 

王様は、兵士達に道を開けるように命じ、拘束された私の正面に立ち、かがんだ。

 

「お主、名前は?」

 

答えられない。当たり前だ。猿轡を咬まされていて、答えろと言う方が無理だ。

 

しばらくして、王様はそれに気づいたのか、私のロープを持つ兵士に命じて、その猿轡を外させた。

 

「お主、名前は何という?」

 

「…血郷結衣です。」

 

「そうか、ならば、何故命の危険を犯してまでこの城へ来たのか申してみよ。何、安心せい。死罪などつまらぬことにはせぬ。革命などという目的ではないことは知っておる。何か用があって来たのだろう?でなければ、わざわざ兵士達と仲間との死闘を止めたりはせぬからな。」

 

王様は本当に偉そうに、私をまるでそこの小動物を扱うようにして見下してくる。本当なら、ガツンと言ってやりたいところだが、流石に命が惜しいので、そんなことは…

 

やらなきゃ、意味がない。

 

「…正直に言います。あなた達がしている魔女狩りは、絶対に間違っていると思います。いや、それだけじゃない。吸血鬼との戦争だって。どうして、魔法の使える使えないで人を分けて迫害をするのですか!彼女達だって、命の危険を感じたら、ひたすら助けを求めていましたよ!それなのに、命をそんな風に扱ってはいけない!国のリーダーなのに、そんなことも解らないのですか!」

 

私の発言に、兵士達がどよめく。さとりさんやサニーも、そろそろ口を止めねば殺されると目で合図する。

 

しかし、こんなことで引き下がれない。私は口を止めない。

 

「王妃様を殺された?だから何なんです!彼らを殺したからって、王妃様が戻ってくるのですか!?どうして、そんな野蛮な憎しみあいを止めるどころか、自分もいい気になって参加して!頭おかしいんじゃないですか!?さっさと…ん…」

 

再び猿轡をはめられ、一切話せなくなる。さっさと首をはねろと兵士達は豪語し、私のそばの兵士は剣を抜き、私に突き出す。

 

しかし王様はそれを止め、やはり殺すには惜しい娘だと、私の頭を撫でる。

 

「そうか。良いか結衣。お主など、無礼者の一言で死刑になど簡単にできる。だが、余はそのようなことはせん。お主が気に入ったからだ。しかし、面白い女よのう。命の危険を晒して、ここまで余に物を言うとは…しかし、そこの二人は平凡な娘よのう。ならばこうしよう。結衣、お前に免じて、そこの二人は自由にしてやろう。」

 

王様はそう言うと、兵士に命じて、サニーとさとりさんのロープと猿轡を解き、階段から外へ出した。

 

サニーは私の名前を呼んで、謝って心配するが、私の拘束は解かれずに、一切身動きができない。

 

王様はその二人が居なくなったのを見ると、再び立ち上がり、私の顔を近づけた。

 

「お主は面白い女だ。手放すにはもったいないほどの無礼者だ…気に入った。お主の意見自体にはあまり興味はないが、それは明日聞いてやろう。まあ簡潔に言うと、魔女が可愛そうであるから、魔女狩りを廃止せよと言うことか。」

 

王様は、全てお見通しだと言うように私を見つめ、また頭を撫でた。

 

「くだらん意見だが、お主の頼みだ。考えてやらんこともない。まあそもそも、お主はこの街の人間ではないな。それもまた一興。それにも関わらず、ここまでの意見を述べるとは…やはり面白い。と言うことで、しばらくお主は、地下牢で囚人になってもらおう。それで明日、ゆっくりこの中で話を聞いてやろう。」

 

王様が再び合図すると、兵士は私の足のロープを解き、地下への階段から、地下牢へ護送し始める。

 

…この男、絶対にどうかしている。絶対に死んだと思って、せめて話は伝えきろうと思って話したのに。

 

結局、地下牢まで護送され、まんまと私は囚人になってしまった。私の独房は階段の近くで、牢番の部屋のすぐ近くだ。

 

ダメだ、魔法も使えないように、地下牢全体に結界が張られているし、これじゃあ常に見張られていて、脱出のしようがない。

 

正面は鉄格子がはめ込まれていて、外からはこちらの様子が丸見えだ。中には、ベッドとトイレがあるだけ。

 

服も取り上げられ、代わりにぼろ切れのような囚人服を着せられた。それから、昼食に水とパンが渡された。




結局捕まる主人公。まあ、このまま捕まりっぱなし…ってことはないのでご安心を。と言うか、割とすぐに解放されます。

追記:誤字修正しました。
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