スカーレットとブリザードセルの異変が解決してから数週間後、私は魔界の女王から、魔界へ戻ってくるように命令された。命令に逆らえば、今私が居る世界ごと、私を殺しに来るらしい。
内容は大体解っている。私はきっと、魔界の裁判にかけられて殺されるのだろう。当たり前と言えば当たり前かもしれない。あれだけの帰界命令を、全て無視して来たのだから。
裁判、とは言っても、判決などは全て女王の独裁である。女王が死刑と言えば殺され、無罪と言えば生かされる。まあ、彼女が裁判をする以上、無罪など有り得ない話だが。
とにかく、今日から一週間以内に魔界へ行かねばならない。私が時属性の魔法を使えば、五秒足らずで行ける。昔の私なら、せめて誇り高く死ぬために、帰界命令の手紙を見るなり、すぐに魔法を使い、殺されに行くだろう。もしくは、魔界の連中の手に下るならと、自ら自殺をはかったかもしれない。少なくとも、ブラッド・ワールドに行く前の私ならそうしただろう。
しかし、私はあの一件で変わってしまった。結衣に教わった。どんなに汚くなっても、どんなに恥曝しになろうと、生きねばいけないと言うことを。
きっと、魔界に居る父が聞いたら、私を嘲笑い、なんて恥知らずの娘を育ててしまったのだろうと嘆くだろう。しかし、私は知った。どんなになっても、生きていくことこそが誇りだと。例え、誰に何と言われようと、生きていくことこそが誇りだと。
けれど、私はもう死ぬしかない。逃れられない「死」がそこにある。私はどうすればいいのか解らなくなり、とりあえずこの命令のことは忘れ、部屋に引きこもり、廃人のような生活をしてみた。
部屋に引きこもって生活するのは、想像以上に楽しかった。時間の概念を忘れ、電子の世界に逃げ込んで、朝夕問わずに遊び続けた。時間を見てみると、一週間は愚か、すでに1ヶ月の時が経っていた。
マズいことをした。最初にまず、そう思った。
何が「命は大切」だ。本当にそう思うのなら、一週間以内に魔界に行き、私が今居るこの世界…トウキョウの人間を救うことが先だったはずだ。しかも、自分も助からない。これでは元も子もない。
とりあえず、自分が住んでいるマンションの窓とドアは開けたくない。きっと開けば、先には、私達が「地獄」と呼ぶ世界の光景が広がっているだろう。私は頭の中が真っ白になって、タイム・スペースドールを使って魔界へ行った。
「一つ、魔界から無断で異世界へ行った罪。
二つ、魔界からの令状に背いた罪。
三つ、余計なことをして、異世界の争いごとに加わった罪。」
魔界につくと、捕縛され、魔界の女王でもあり、魔界の創造主でもある、神綺の前に突き出された。彼女は、私のことを塵でも見るような目で見ながら、私の罪を数えた。
「さて、どうしてくれようかしらね。アリス・マーガトロイド。」
「ごめんなさい。許してください。ですが、命だけはお助けください。」
本当にお笑いだ。いっそのこと笑ってもらった方が良い。今までずっと守ってきた、命を落としてでも誇り高くあろうとする自分を捨ててしまった。
本当なら、最期まで彼女に反抗し、自分の意志を貫き通したかった。けれど、私はこないだの一件で変わってしまったのだ。もう、あんな自分に戻ることはできない。
「…そう。意外ね、貴女がそこまで誇りを捨てるなんて。恥ずかしくないのかしら?ふふ、私はそれならそれで良いわ。私、貴女が誇り高い人だと思っていたから、貴女を処刑しようと思っていたの。けれど、違ったようね。」
彼女の冷たい眼差しを受けたからか、私の頬に涙が流れた。それは、私が殺されないことへの嬉しさの涙なのか、それとも、これほどまでに見放されたことへの悲しみの涙なのか。それすらも解らなくなるほどに、頭の中が空っぽになってしまった。
「言いたかったわ。貴女の父親に、貴女は誇りある死を遂げたと。けれど、それももう叶わない夢ね。まあ、もしそれなら、もっと早くにここへ来ていたかしら。まあ良いわ。」
私は、絶対に許されないことをしてしまった。もう、私の家族に合わせる顔なんて無い。本当に、本当に一生の終わりかもしれない。家からの絶縁は当たり前、もう、魔界の誰もが私のことを、神綺様が今私を見ているような目で見るようになるのかもしれない。
「そうね…じゃあ、反社会軍や、法律違反の庶民が行く、収容所があるでしょう?明日から、そこが貴女の楽しい我が家。嬉しい?嬉しいわよね?ふふ、そこで死ぬよりキツい苦痛を味わいなさい。」
泣きたい。泣きたいくらいに屈辱で屈辱でたまらない。けれどそれ以上に、自分が恥ずかしい。自分を支えてくれた人の居る世界まで捨てて、その上こんな扱いをされてまで、「殺してくれ」と言えない自分が。
本当に、命以上に価値がある物は無いのだろうか。本当に、生きていることは宝なのだろうか。確かに、結衣の言っていたことは正しい。命は、簡単に捨てては宝。世界には、生きたくても生きられない人達がたくさん居る。
けれど、やはりそれは間違っている。
命よりも大切な物なんて、たくさんある。現にあのトウキョウだって、犯罪を犯した人の「命」を危ないからとつぶし、「社会」と言う命よりも大切な物を守っている。なんだ、解ってるじゃん。みんな、命よりも大切な物があること。
けれど、私はもう変わってしまった。死にたくない、生きていたいと言う感情が私を支配し、今私の身体を縛るロープのように、私の心を縛っている。なんてざまだ、私は身体の奥底まで、ギチギチに縛られている。
「大丈夫、安心してアリス。貴女が元居た世界を滅ぼすなんて嘘よ嘘。まさか、本当に滅ぼすと思ってた?だったら、貴女は死ぬのが怖くて元居た世界をも見捨てたってことになるのかしら?」
「……黙れ。」
「何?聞こえなかったわ。もう一回言ってちょうだい。」
「…何でもありません。」
「そう。次は、ちゃんと立場をわきまえて発言することね。もう良いわ、連れて行って。」
縄を引かれ、鞭を打たれ、城の外の車へ連れて行かれる。城から遠ざかっていくにつれて、心も苦しくなっていくような気がする。
地獄の果てまで、落ちていくような。
それから、世界は新たな進展を遂げ、約50年ほどの時が経った。
ただでさえ進化を遂げていた人々の生活は、さらなる進化を遂げ、もう十分すぎるほどの豊かな世界になっていた。
国と国との間には高速道路が引かれ、銃刀法も改正。免許さえ取得すれば、殺傷能力の無い催眠弾のみの使用ならば、銃は持ち歩くことができる。
日本語は廃止。世界は法律の改正により、一つの共通言語で統一された。
インターネットに関しても、厳しい監視下に置かれることとなった。インターネットにアップロードされるページは、全て国の承認をなくしては一般の閲覧が許可されない。
そんな世界の、少年用の更生施設…50年前で言う少年院の独房には、まだ16歳の少女が囚われていた。
その茶髪の少女の目には光がなく、誰が話しかけても、一切笑うことが無い。
「なあ、そろそろこの娘、雑居房に返しても良いんじゃないか?もう反省してるだろ。」
「ああ、そうかもな。それと、気をつけな。そいつ、正真正銘本物の超能力者だからな。下手な扱いすると、ぶっとばされるかもしれないぞ?」
「ああ、知ってるぜ。でもこの娘、更生センターの中ではまだ超能力使ってないんだろ?なら大丈夫だろ。さて、ちょっと雑居房に戻してくるよ。おい、宇佐見蓮子!そろそろ雑居房に戻るぞ!」
彼女は、自分を呼ぶ声に反応して、立ち上がり、両腕を前に出す。教官はそれに手錠をかけて連れて行く。
おはようございます。tesorusと申します。
なんか、エピローグの終わり方が少し悲惨な感じになってしまいました。まあ、この辺りは次回作で回収するので、彼女達が救われないってことはないと思います。蓮子なんか、次回作で主人公やるときには大分成長してます。
さて、今回の東方吸血精はいかがでしたでしょうか。最凶覚に比べると随分濃い内容を書いたとは思っているのですが、前作の方が面白いと言う方もいるかも知れません。そもそも、二次創作自体軽い気持ちでみたい方がほとんどですよね。
さて、前作と今作の主人公はオリキャラでしたが、次回作の主人公は既存キャラでやりたいと思います。はい、蓮子さんです。メリーも、少しだけこの作品で出しましたよね。
それでは、次回作までさようなら。
追記:新作は、「東方七世界」と言う名前で出してます。