アイスバードシティ。そこは、文字通り妖精達の世界であった。街を歩く者達、商人、兵士。その全てが妖精である。氷でできたイルミネーションや住まいを見ると、一見華やかそうな街に見えるが、街の地下をよく見ると、人間を調理する妖精の姿や、傷だらけになるまで働かされている人間の姿が見える。
私も、見つかればああなるのだろうか。そう思うだけで、身体全体から恐れと恐怖が生まれてくる。本当に、こんな街からチルノと言う妖精を救わねばならないのだろうか。
無理だ。無理に決まっている。そもそも、この計画自体、おかしい気がしてならない。三月精と組んで、妖精の王家たるセルのお嬢様を救いに行くなんて、絶対におかしい。そもそも、三月精は本当に幻想郷の住人なのだろうか。
実は彼らは、ナチュレのようにセルの手先で、さとりさんがこのような計画を立てるように仕組み、私達を罠に嵌め、そして捕らえるという算段なのではないのだろうか。
そうすれば、全て合点がいく。何故、私達が妖精の街へ行く時に、彼女達が突如として姿を現したのか。単に面白そう、と言うだけで、見ず知らずの世界へ行きたがるだろうか。彼女達は確かに言った。妖精は人間よりも弱い種族だと。
あり得ない。あれだけ人々を震え上がらせ、世界すら支配している妖精が、人よりも弱い種族などと言う話を信じろと言う方がタチが悪い。あいつら妖精が私達を騙す為に作った、氷のように薄っぺらな嘘だ。
「ちょっと!結衣さん、そっちに行ったら捕まっちゃいますよ!」
怖くなって、その場から逃げ出した。既に信じられなくなったサニーミルクの言葉など、耳に入らなくなって、ただ自分の足で走り出した。
目の前の景色などほとんど見えていない。ただ本能に任せ、どこか安全な所を探して足を動かしている。数十分経つと、先ほどの妖精達の商店街は完全に見えなくなった。景色は変わり、青い綺麗な王宮が目の前に現れた。
この時、初めて我に返った。そして気がついた。しまった、これも妖精の罠だ。
「飛んで火に入る夏の虫、ですね。ゲームオーバーです。」
門の前には、碧い髪を靡かせる妖精メイド、ナチュレ・フェリーズ。私はまんまと彼女に洗脳され、思考を狂わされ、サニーミルクの裏切りを疑い、城に飛び込んできてしまったのだ。
「さて、ゲームオーバーの方には種明かしをしましょう。実は、ブリザードに居た時から、貴女は私の操り人形でした。最後に放った氷も、貴女は当たらなかったと思っていたようですが、実は私が操り、貴女に「当たらないように」氷を放てと命じたからあのようになりました。そして、今も貴女は私の術中に居ます。」
人を洗脳する力、流石としか言いようが無い。けれど、それならば何故、彼女の心を読むことができるさとりさんは、私に伝えてくれなかったのだろうか。もし教えてくれれば、もっと早くに対策できたかもしれないのに。
「貴女が弱いから、見捨てたのでは?さて、こんな場所で立ち話も退屈でしょう。貴女は、特別に私の一番近くで働かせてあげますよ。」
彼女が城の中へ入って行くと、私も無意識のうちに城の中へと足を進めた。私は、操られているのだろうか。これ完全に操り人形じゃん。まるで、脳内の回転を誰かに制限され、決まったことしか考えられないようにされているような感じ。
二階にある使用人部屋の一室に案内され、今日からここが貴女の部屋だと言われた。中へ連れて行かれると、クローゼットの中にある、白と黒のメイド服と、黒い革靴、それから白い靴下を渡され、これが制服だから、寝る時以外は脱いではいけないと言うことと、昼の休憩時間以外は、無休で働かねばならないと教えられた。そして、私はこれから無給で一生メイドとして城に繋がれると言うこと。
私は、素直にはい、と答えた。
メイドの朝は早い。朝3時に起きて、寝間着からメイド服に着替え、廊下掃除や窓拭き、風呂掃除、お嬢様達の朝食を作り、片付け、洗濯をして、部屋の掃除をして、そうすればもう昼食を作らねばならない時間で、それが終わると、パンを少し食べて、上の階の掃除もして、夕食を次に作って、部屋に無限に近い量があるトイレ掃除をし、夜1時に寝る。
眠いと言ったら、先輩のメイド妖精に殴られ、他のたくさんの先輩に暴力を加えられる。当たり前だ。人間のメイドは私だけで、他は全員、有給で、休みも好きなだけ取れる妖精メイドだ。
疲れを感じるのも、無給で城に繋がれているのも私だけ。でも、私は洗脳されているので、それ以上の不服を言わなかった。いつも、先輩やお嬢様達への忠誠心しか持っていない。どれだけ殴られようと、苦しかろうと、「申し訳ありません。」とか、「ご忠告いただき、ありがとうございます。」とかしか言わない。
しかし、そんな毎日にも、転機が訪れる。私が窓拭きをしていると、後ろから、手伝おうか?と言う声がした。声の主は、あのサニーだった。様子からして、彼女はナチュレ様の操り人形にはなっていないようだ。彼女曰く、アイスバードにはアリスさんを慕う妖精達が居るようで、仲間は彼らに匿ってもらっているようだ。