魔法少女リリカルなのは ~コード・イレイザー~   作:長谷川広軌

10 / 44
第9話:金色の閃光、交差する運命

なのはとの共闘から数日が経過した。

海鳴市の夜は、表向きは静寂を保っていた。しかし、芹葉紗雪の脳内に展開されたファイル「MOIRA網」の戦術マップは、かつてないほどの異常な魔力動態を検知し、赤黒いアラートを明滅させていた。

『My Lord. 第2セクター、海鳴臨海特区にてジュエルシードの反応。……同時に、別次元からの空間転移(テレポーション)の痕跡を確認。この魔力波長、野生の次元生物ではありません』

自室のベッドで目を閉じていた紗雪は、弾かれたように目を開けた。

「……来たか。フェイト・テスタロッサ」

未来の記憶が、鮮烈にフラッシュバックする。

黒いマントと金色の髪。悲しい瞳をした、もう一人の魔法少女。彼女が背負う過酷な運命と、なのはとの間に繰り広げられる血を吐くような激闘の歴史。

(二人を戦わせるわけにはいかない。フェイトが抱える闇も、全て私がこの手で終わらせる!)

「セットアップ!」

紗雪は瞬時に白銀のバリアジャケットを展開し、夜の海へと続く空へ向かって一直線に跳躍した。

◇ ◇ ◇

海鳴臨海特区。

巨大なクレーンが立ち並ぶ無人の港湾施設で、ジュエルシードが発する青い光が不気味に瞬いていた。

「レイジングハート、お願い!」

『Stand by ready.』

いち早く現場に到着していた高町なのはは、宙に浮くジュエルシードに向けて封印の魔法を構築しようとしていた。ユーノのアドバイスのもと、彼女の魔法技術はここ数日で驚異的な成長を遂げている。

だが、なのはが魔力を集束させようとしたその瞬間。

上空から、黄金の稲妻が一直線になのはへと降り注いだ。

「えっ!?」

「なのは、避けろッ!!」

ユーノの悲痛な叫び。なのはが咄嗟に展開した桜色のシールドが、黄金の閃光の直撃を受けて激しく軋んだ。

凄まじい衝撃に吹き飛ばされ、なのははコンクリートの地面を転がる。

「……遅かったね。それは、私がもらうよ」

土煙が晴れた後。

月明かりに照らされたコンクリートの塔の上に、黒いマントを翻す金髪の少女が立っていた。手には、黄金に輝く斧槍(バルディッシュ)。傍らには、使い魔である犬耳の女性、アルフが鋭い牙を剥いて控えている。

「あ、あなたは……?」

「フェイト。フェイト・テスタロッサ。……ジュエルシードは、母さんのために私が全部集める」

感情の抜け落ちたような、冷たくて悲しい声。

フェイトはバルディッシュを構え、躊躇いなく二撃目を放とうと空へ舞い上がった。目標は、なのはの持つジュエルシード。

なのはは体勢を崩しており、防御が間に合わない。

「やらせるかッ!!」

その時、夜空を切り裂くように白銀の流星が飛来した。

ガキィィィィンッ!!

「……ッ!?」

フェイトの振り下ろしたバルディッシュの刃を、寸分の狂いもなくノーブル・コレッジの石突で受け止めたのは、芹葉紗雪だった。

激しい火花が散り、二人の少女の視線が至近距離で交錯する。

「紗雪ちゃん!」

「高町なのは、君は下がっていろ! こいつは私が止める!」

紗雪は魔力バーストでフェイトを弾き飛ばすと、なのはを背に庇うように立ち塞がった。

「邪魔をするなら……あなたも倒す」

フェイトがバルディッシュの柄を回し、雷の魔力を充填する。

『Scythe Form.(サイズ・フォーム)』

黄金の刃が三日月型の鎌へと変形し、フェイトの姿が文字通り「閃光」となって消えた。

圧倒的なスピード。高町なのはが「面制圧と砲撃の天才」であるならば、フェイト・テスタロッサは「極限の機動力と近接戦闘の天才」である。

「速い……ッ!」

紗雪の網膜でファイル「MOIRA網」が高速で軌道予測を弾き出す。しかし、フェイトの機動力は紗雪の予測演算の限界値を僅かに上回っていた。

「ハァッ!!」

「チィッ!!」

四方八方から襲い来る黄金の斬撃。

紗雪はノーブル・コレッジを高速で回転させ、辛うじて防壁と物理パリィでそれを凌ぐ。しかし、彼女の切り札である魔力変換資質『消滅(イレイズ)』を撃ち込む隙が全くない。

イレイズ・シュートは強力な魔法を問答無用で消し去るが、フェイトのような「身体強化と高速近接攻撃」を主体とする相手には、照準を合わせるのが極めて困難だった。

(くっ……出力ではなのはに劣るが、この機動力……! まともに付き合えば、こちらが削り殺される!)

「アルフ!」

「おうさっ!」

フェイトの死角から、使い魔のアルフが紗雪へ向かって強烈な蹴りを放つ。

防ぎきれないタイミング。紗雪が舌打ちをした瞬間。

「ディバイン……シューターッ!」

数発の桜色の誘導弾が横合いから殺到し、アルフの軌道を強引に逸らした。

「なっ……なんだいこの魔法! ちょこまかとッ!」

「紗雪ちゃんは、私が護る!」

足元の覚束ないなのはが、レイジングハートを構えて立ち上がっていた。

先日の紗雪との戦いで編み出した「手数を増やして死角を突く」戦術。それが今度は、紗雪を援護するための完璧なカバーリングとして機能したのだ。

「君は……ッ! 引っ込んでいろと言っただろう!」

「嫌だ! 紗雪ちゃんが一人で傷つくのも、あの子が悲しい顔で戦うのも、私は絶対に嫌!」

なのはの迷いのない叫びが、夜の港に響き渡る。

その言葉に、フェイトの動きがほんの一瞬だけ鈍った。

(……悲しい、顔?)

フェイト自身すら気づかないように押し殺していた痛みを、会ったばかりのなのはに指摘され、黄金の瞳が微かに揺らぐ。

そのコンマ数秒の隙を、未来の歴戦の一等空尉が見逃すはずがなかった。

「……甘いぞ、フェイト・テスタロッサ!!」

紗雪はノーブル・コレッジのセーフティを解除し、魔力変換資質『消滅』の演算を空間全体へ強引に拡張した。

『My Lord!! 広域展開は演算領域(メモリ)に甚大な負荷が……!』

「構わんッ! これ以上、この二人を戦場に立たせるわけにはいかないんだ!!」

紗雪の周囲に展開された灰色の魔力が、ドーム状に急膨張する。

それは攻撃ではなく、空間内に存在する「フェイトの雷の魔力」と「なのはの桜の魔力」を、一時的かつ強制的に完全沈黙させる絶対的な広域ディスペル結界だった。

「なっ……私の魔法が、消えた!?」

「バルディッシュの出力が……!」

フェイトとアルフが驚愕に目を見張る。

なのはの展開していた防壁も霧散した。

魔力を封じられ、地に足を着くしかない三人の少女たち。

紗雪は肩で激しく息をし、こめかみから一筋の血を流しながらも、二人の間に毅然として立ち塞がっていた。

「……私の、勝ちだ。二人とも、これ以上戦うことは私が許さない」

圧倒的な技術と、我が身を削る無茶な魔法行使。

そこまでして自分たちを引き剥がそうとする紗雪の異常なまでの執念に、フェイトはバルディッシュを握り直すことすら忘れ、ただ息を呑むことしかできなかった。

交わるはずのなかった二つの星の激突は、孤独な空の先導者の強引な介入によって、静寂の中に縛り付けられたのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。