魔法少女リリカルなのは ~コード・イレイザー~ 作:長谷川広軌
翌日。高町家の喫茶店『翠屋』の自室で、紗雪はフェレット姿のユーノと、制服姿のなのはを前に、これからの戦術方針について話し合っていた。
「……というわけで、私は単独での行動を改める。これからは君たちと情報を共有し、共同でジュエルシードの回収にあたる」
紗雪が腕を組みながら宣言すると、なのははパァッと顔を輝かせた。
「本当!? やったぁ! 紗雪ちゃんと一緒なら百人力だよ!」
「勘違いするな。昨夜の広域魔力消去(イレイズ)の反動で、私の演算領域はまだ完全に回復していない。単独での戦闘はリスクが高いと判断しただけの、合理的な結果だ」
顔を背けながら早口で言い訳をする紗雪に、ユーノが苦笑いする。
「それでも、すごく助かるよ。紗雪の索敵能力は、僕の探査魔法より遥かに広範囲で正確だったからね」
「当然だ。私は、ファイル「MOIRA網」 を用いて海鳴市全域の微細な魔力動態を常時監視している。この情報網の精度は、現在の君たちには到底真似できない代物だ」
少し得意げに胸を張る紗雪だったが、その直後、彼女の視界に赤いアラートが点滅した。
『My Lord. 第5セクター、市街地郊外の山林にてジュエルシードの波長を検知』
「……休む暇もないようだな。来るぞ、二人とも」
紗雪の表情が一瞬にして一等空尉のそれへと切り替わる。なのはも力強く頷き、胸元のレイジングハートを握りしめた。
山林地帯。
そこでは、周囲の木々や岩石を巻き込み、巨大な百足(ムカデ)のような異形と化したジュエルシードが暴れ回っていた。
上空に到達した紗雪となのはは、並んで眼下の怪物を見下ろす。
「脅威度はB+。厄介なことに、装甲の下に分厚い魔力障壁を張っているな」
紗雪はファイル「MOIRA網」 による瞬時の解析を終え、隣のなのはへと視線を向けた。
「高町なのは。今回の作戦の要は、君だ」
「私?」
「今の私の脳負荷では、あのサイズの魔力障壁を完全に消去(イレイズ)することはできない。だから、私が前衛に出て奴の機動を封じ、装甲の最も薄い箇所を物理的にこじ開ける」
紗雪は白銀のデバイス『ノーブル・コレッジ』を構え、なのはの目を見据えた。
「私が道を作る。君は、そこに最大の砲撃を叩き込め」
これまでの「自分一人で最適解を押し付ける」戦い方からの、明確な変化。
それは、なのはの力を認め、自分の背中を預けるという、紗雪なりの最大の信頼の証だった。
「……うんっ! わかった、紗雪ちゃん!」
なのはの返事を聞くや否や、紗雪は弾丸のように空から急降下した。
「ハァッ!!」
紗雪のノーブル・コレッジが、怪物の頭部へ強烈な一撃を叩き込む。怒り狂った怪物が無数の足と魔力弾で反撃してくるが、紗雪はファイル「MOIRA網」 の予測演算を駆使し、紙一重で全てを回避しながら装甲の継ぎ目を的確に破壊していく。
(いける。単独の時より、遥かに動きやすい……!)
後方でなのはが魔力を練り上げているという絶対の安心感が、紗雪の機動を極限まで研ぎ澄ませていた。
「今だ、なのは!!」
紗雪が装甲の一部を完全に引き剥がし、同時に空中の射線から素早く離脱する。
その先には、レイジングハートに限界まで魔力を集束させた、桜色の砲手の姿があった。
「いくよ……っ! ディバイン、バスターッ!!」
なのはの杖から放たれた極太の桜色の閃光が、紗雪の開いた穴を寸分の狂いもなく貫き、内部のジュエルシードの魔力器官を完全に沈黙させた。
轟音と共に怪物が霧散し、青い宝石だけが静かに宙を舞う。
「封印、完了!」
なのはがシードを回収し、紗雪のもとへ満面の笑みで飛んでくる。
「やったね、紗雪ちゃん! 私たち、すっごくいいコンビかも!」
「……ふん。私が完璧な前衛(お膳立て)をしたのだ、これくらい決めてもらわなくては困る」
紗雪はそっぽを向きながらも、その口元には確かに、隠しきれない柔らかな笑みが浮かんでいた。
圧倒的な実力差から始まった二人の関係は、今、互いの長所を完全に活かし合う最強のバディへと進化を遂げたのである。