魔法少女リリカルなのは ~コード・イレイザー~   作:長谷川広軌

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第19話:見えない盤面、研ぎ澄まされる主砲

「甘い! その角度ではアルフの死角からの奇襲(アンブッシュ)をもらうぞ!」

「きゃあっ! く、くぅ〜っ……!」

海鳴市郊外の山林地帯。

紗雪が展開した強固な隠蔽結界の中で、なのはは息を弾ませながら上空を飛び回っていた。

紺色に白い縁取りがあしらわれた燕尾服に、膝丈のスカート。未来の軍人としての規律と、少女らしい可憐さを併せ持つバリアジャケットを纏った紗雪は、空中に静止したまま白銀のデバイス『ノーブル・コレッジ』を指揮棒のように振るう。そこから放たれた無数の魔力弾が、フェイトの高速機動とアルフの変則的な蹴りをシミュレートし、なのはへ波状攻撃を仕掛けていた。

(高町なのはの出力は申し分ない。課題は、乱戦時の視野の確保と、防御から攻撃へ転じる際のタイムラグだ)

紗雪の視界には、海鳴市全域の魔力動態を把握・演算するためのファイル「MOIRA網」が展開されている。この高度な戦術情報支援ネットワークは現在、時空管理局の巡航艦『アースラ』からの探査波長を完全に欺瞞(クローキング)しつつ、同時になのはの魔力消費量や反応速度をリアルタイムで解析するという、極めて高度な並列処理を行っていた。

「なのは! フェイトの速度は脅威だが、彼女の攻撃は直線的な加速に依存している! 君は『彼女が今いる場所』を狙うのではなく、『彼女が次に踏み込む空間』に網(デコイ)を張れ!」

「は、はいっ、紗雪教官!」

なのははレイジングハートを構え直し、ただ防ぐだけだった姿勢から一転、前方へ一気に踏み込んだ。

「ディバイン……シューターッ!!」

桜色の誘導弾が放たれる。しかしそれは、紗雪の魔力弾を直接迎撃するのではなく、魔力弾が回り込んでくるであろう「少し先の空間」に配置され、次々と連鎖爆発を起こして射線を完全に潰した。

「……ッ、見事だ」

紗雪は満足げに頷き、牽制の魔力弾を消去した。

教えられた戦術を瞬時に身体で理解し、自分の魔法へと最適化していく。この恐るべき吸収力こそが、高町なのはという天才の真骨頂だった。

「はぁっ、はぁっ……や、やったぁ……!」

「よくやった。対・高速機動用の空間制圧、合格ラインだ」

地上に降り立ったなのはに、紗雪はタオルを手渡す。

かつては一人で世界を救うために「最適解」を押し付けていた冷徹な一等空尉。だが今の彼女は、目の前で汗を拭う親友が、誰一人傷つけずに未来を切り拓くための「最強の主砲」となるよう、自らの技術を惜しみなく注ぎ込んでいた。

◇ ◇ ◇

同じ頃。

次元の狭間を航行する巡航艦『アースラ』の艦橋では、執務官クロノ・ハラオウンが険しい顔でモニターを睨みつけていた。

「……消えた、だと?」

「はい。昨夜まで海鳴市の局地で確認されていた、あの特異な『魔力無効化痕』ですが……現在、レーダー上から一切の反応が消失しています。まるで、意図的に痕跡を拭い去ったかのように」

オペレーターの報告に、クロノは顎に手を当てて思考を巡らせた。

「昨夜交戦した、あの燕尾服の少女……。こちらの射撃の軌道を完全に読み切り、最小限の魔力で相殺してみせた。あの年齢で、あれほど完成された防御技術を持つ魔導師など、管理局のデータバンクには存在しない」

艦長席のリンディも、静かに紅茶のカップを置いて画面を見つめた。

「次元犯罪者、というわけではなさそうね。ジュエルシードを悪用する気配もないし……むしろ、事態の悪化を未然に防いでいるように見えるわ」

「ええ。ですが、あの少女の背後には、我々時空管理局の探査網すら欺瞞できる極めて高度な戦術支援システムが存在しています。素人の火遊びではありません。……プロの介入です」

クロノの脳裏に、煙幕の中で見せた紗雪の冷徹で、それでいてどこか悲しげな瞳が蘇る。

「次に接触した時は、逃がさない。必ず身元と目的を吐かせる」

◇ ◇ ◇

再び、海鳴市。

特訓を終え、パジャマ姿でベッドに転がるなのはの横で、紗雪は静かに目を閉じていた。

その時、ファイル「MOIRA網」が赤いアラートを明滅させた。

『My Lord. 第4セクター、地下水路エリアにて新たなジュエルシードの波長を検知。……同時に、フェイト・テスタロッサの魔力反応を確認』

「来たか……」

紗雪が鋭い声で告げると、なのはも弾かれたように起き上がった。

「地下水路……閉鎖空間か。フェイトの機動力は制限されるが、君の砲撃の射線も通しにくい。乱戦になるぞ」

「大丈夫だよ。紗雪ちゃんが教えてくれたこと、全部出し切ってみせるから!」

なのはの瞳に、迷いは一切なかった。

フェイトを救うため、そして彼女の心を縛り付ける鎖を断ち切るため。

「よし。私が前衛(盾)となり、視界を切り拓く。君は最高のタイミングで、フェイトに言葉と魔法を届けろ」

「了解っ!」

紺色の燕尾服を纏った白銀の指揮官と、不屈の心を持つ桜色の砲手。

時空管理局の包囲網が迫る中、二人の少女は決意を胸に、夜の地下水路へと向かって跳躍した。

 

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