魔法少女リリカルなのは ~コード・イレイザー~   作:長谷川広軌

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第21話:水路の攻防、交わる三つの星

「あの程度の隠蔽結界、アースラの索敵を甘く見すぎだ。……今度こそ逃がさないよ、正体不明の介入者たち」

薄暗い地下水路に、時空管理局執務官クロノ・ハラオウンの冷徹な声が響き渡る。

青白い光の輪(ストラグル・バインド)によって動きを封じられた高町なのはとフェイト・テスタロッサ。そして、暴走する水竜の怪物と対峙しながら、クロノの登場に舌打ちをする芹葉紗雪。

(時空管理局の索敵能力を出し抜くための隠蔽処理が、突破された……!?)

紗雪の視界には、海鳴市のあらゆる事象を演算する戦術情報支援システム、ファイル「MOIRA網」のインターフェースが展開されていた。このシステムには、3つの魔力レンズ配置の収束と発散を基本原理とした光パルス信号伝送の概念が組み込まれており、局地的な隠蔽と同時に膨大な戦術データを遅延なく並列処理することが可能である。

しかし、クロノの背後にいる巡航艦『アースラ』の演算リソースは、紗雪の9歳の脳神経をコアとした処理能力を上回りつつあった。

「君たちの身柄を拘束し、そのロストロギアを回収する!」

クロノがストレージデバイス『S2U』を構え、制圧魔法の詠唱に入ろうとした瞬間。

「……私の生徒に、手出しはさせないッ!」

紺色に白い縁取りがあしらわれた燕尾服と膝丈のスカートを翻し、紗雪が水竜への牽制をアルフに任せ、クロノと二人の少女の間へ白銀の閃光となって割り込んだ。

杖の先端から放たれるのは、魔力変換資質『消滅(イレイズ)』。

『イレイズ・シュート!!』

対象の魔力構造をピンポイントで無に還す灰色の魔光が、なのはとフェイトを縛る光の輪に直撃する。

パリンッという乾いた音と共に、時空管理局の高度な拘束魔法が紙屑のように消し飛んだ。

「なにっ……またあの特異な無効化魔法か!」

「なのは! 執務官は私が抑える! 君たちはあのデカ物を鎮めろ!」

自由を取り戻したなのはは、すぐさまレイジングハートを構え直した。そして、隣で呆然としているフェイトへと力強く頷きかける。

「フェイトちゃん! 一緒にやろう!」

「……え?」

「あの怪物を倒さないと、ここが水浸しになっちゃう! 私が隙を作るから、フェイトちゃんの一撃でシードを取り出して!」

敵対していたはずの相手からの、迷いのない共闘の提案。

フェイトは戸惑いながらも、上空で紗雪がクロノの精密射撃(スティンガー・スナイプ)を必死に捌き、アルフが水竜の猛攻に押し込まれている現状を見て、強く唇を噛み締めた。

「……アルフ、下がって!」

フェイトがバルディッシュに黄金の雷を纏わせる。

「わかったよ、フェイト!」

なのはが前方に飛び出し、桜色の魔力を全開にした。

「ディバイン……バスターッ!!」

極太の砲撃が水竜の胴体に直撃し、強固な水流の装甲を大きく吹き飛ばす。

しかし、怪物は即座に周囲の水を吸い上げ、再生しようと試みた。

「させない……っ! 『サンダー・スマッシャー』!!」

なのはが切り拓いた射線をなぞるように、フェイトの放った黄金の雷撃が直撃する。水という導電性の高い環境も相まって、フェイトの雷は水竜の内部にまで深く浸透し、その核であるジュエルシードの魔力器官を完全に麻痺させた。

「今だよ、レイジングハート!」

『Sealing Mode.(シーリング・モード)』

なのはの魔法陣が展開され、空中に浮かび上がったジュエルシードが安全に封印・回収された。

桜色の砲手と、黄金の騎士。二人の少女の初めての共闘が、完璧な形で結実した瞬間だった。

「……見事な連携だ。だが、これで終わったわけじゃない!」

上空のクロノが、S2Uの出力を最大に引き上げる。

対する紗雪は、激しい息を吐きながら白銀のデバイス『ノーブル・コレッジ』を構えていた。彼女の魔力消去は強力だが、先ほどから連発しているせいで、ファイル「MOIRA網」と脳神経への負荷がレッドゾーンに達しようとしている。

(ここでクロノと本格的に打ち合えば、間違いなくこちらが削り負ける。……退路を拓く!)

「なのは、フェイト! 離脱するぞ!」

紗雪はノーブル・コレッジの石突で、地下水路の天井を走る巨大な「老朽化した水道管」を物理的に思い切り叩き割った。

彼女の弱点である「物理」を逆手に取った、環境利用の目くらまし。

ドバァァァァッ!!という轟音と共に、膨大な水圧が地下水路に噴出し、濃密な水煙と土砂がクロノの視界とレーダーを完全に遮断した。

「チィッ……物理的なカモフラージュか!」

クロノが防壁を張って濁流を凌ぎ、水煙が晴れた頃には、三人の少女と使い魔の姿は跡形もなく消え去っていた。

「……逃げられた。だが」

クロノは足元の水たまりを見つめ、忌々しげに息を吐く。

あの白銀の燕尾服の少女の指揮能力、そして、自分たち時空管理局の魔法をいとも容易く消去する規格外の戦術。

「アースラ。ジュエルシードの波長消失を確認。……あの介入者たち、もはや見過ごせるレベルじゃない。海鳴市全域の監視態勢をフェイズ3へ引き上げてくれ」

地下水路の闇の中で、時空管理局のエースは静かに追跡の牙を研ぐ。

一方、共に手を携えて危機を脱した少女たちは、真の「対話」に向けた新たな一歩を大きく踏み出していた。

 

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