魔法少女リリカルなのは ~コード・イレイザー~ 作:長谷川広軌
夜の海鳴市上空。桜色と黄金、そして白銀の三つの光が、完璧な連携で空を駆け抜けていた。
「フェイト、右舷(スターボード)から来るぞ!」
「わかってる!」
紺色に白い縁取りがあしらわれた燕尾服と膝丈のスカートを翻し、紗雪が鋭い指示を飛ばす。フェイトが黄金の閃光となってジュエルシードの暴走体の死角に回り込み、バルディッシュで装甲を一気に切り裂いた。
「なのは!」
「いくよっ! ディバイン・バスターッ!」
最後尾で待機していたなのはの極太の砲撃が、フェイトの開いた射線を正確に貫き、怪物を沈黙させる。
「ふぅ、これで19個目!」
なのはが額の汗を拭いながら、封印したシードを回収した。
紗雪は視界の隅にファイル「MOIRA網」を展開し、局所的な魔力消去(イレイズ)の残滓と、アースラからの探査波長を相殺するための欺瞞処理を継続している。
(三人の連携はもはや完成の域にある。アースラの探査も完全にシャットアウトできている。……だが)
順調すぎる進捗に、紗雪が微かな胸のざわつきを覚えた、その時だった。
「……ッ!?」
突如、フェイトが苦悶の声を上げ、頭を抱えて空中で体勢を崩した。
「フェイトちゃん!?」
「フェイト! どうしたんだい!」
なのはとアルフが慌てて駆け寄る。フェイトの黄金の瞳は恐怖に見開かれ、その全身から制御不能な魔力が溢れ出していた。
「母、さんが……強制的に、空間を……っ!」
直後。海鳴市の上空に、巨大な次元の亀裂が走った。
ゴゴゴゴゴッ!! という耳を劈くような轟音と共に、赤黒い雷が周囲の空間を容赦なく削り取っていく。それは、狂気に囚われたプレシア・テスタロッサが、潜伏先である『時の庭園』から直接この次元へと干渉してきた証だった。
『My Lord! 莫大な次元断層の発生を確認! ファイル「MOIRA網」の欺瞞結界、これ以上の維持は不可能です! アースラに座標を捕捉されます!』
「チィッ……! ここに来て、強行手段に出たかプレシア・テスタロッサ!」
紗雪はノーブル・コレッジを構え、強烈な次元の嵐からなのはたちを庇うように白銀の防壁を展開した。
しかし、次元の亀裂が発する引力は凄まじく、標的であるフェイトを容赦なく吸い込もうとする。
「いや……っ、母さん……!」
「フェイトちゃん!」
なのはが手を伸ばし、フェイトの腕をがっしりと掴む。
その時、亀裂の反対側から青白い光の雨が降り注ぎ、暴走する空間の一部を強引に縫い留めた。
「そこまでだ!!」
空間転移で現れたのは、S2Uを構えた時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだった。
「アースラの監視網をよくも出し抜いてくれたね。だが、この規模の次元震を起こせば、もう隠れきれないぞ!」
クロノは三人の少女に鋭い視線を向けながらも、上空で荒れ狂う次元の亀裂を見て顔色を変えた。
「これは……次元犯罪者プレシア・テスタロッサの魔力波長!? まさか、あの空間の先が奴の潜伏先か!」
次元の亀裂が、さらに大きく口を開く。
「フェイト! このままでは君まで次元の狭間に飲み込まれるぞ! 早くこちらへ!」
クロノが叫ぶが、フェイトは首を横に振った。
「……私は、行かなきゃいけない。母さんのところへ」
その言葉に、クロノが息を呑む。
紗雪は、激しい風の中で紺色の燕尾服をはためかせながら、不敵に笑った。
「執務官殿。私たちは、誰にも管理されないと決めたんだ。……君たちの法(ルール)は、ここで見納めだ」
紗雪はなのはの隣に並び、フェイトのもう片方の手をしっかりと握りしめた。
「えっ……紗雪ちゃん、なのは……!?」
「フェイトちゃんがどこに行こうと、絶対に一人にはしないって約束したもん!」
「そういうことだ。お前の母親の狂気も、私たちがまとめて叩き潰してやる。……全機、突入!」
「なっ……正気か君たち!!」
クロノの制止も虚しく、三人の少女と一匹の使い魔は、自ら巨大な次元の亀裂の中――プレシアの待つ『時の庭園』へと飛び込んでいった。
残された海鳴市の夜空で、亀裂がゆっくりと閉じていく。
「……艦長」
クロノは通信機に手を当て、決意に満ちた声で告げた。
「次元犯罪者プレシア・テスタロッサの潜伏先(ポイント)を特定。これより、本局の総力を挙げて『時の庭園』へ突入します。……あの無茶苦茶な子供たちに、全てを背負わせるわけにはいきませんからね」
白銀、桜色、そして黄金の星々が、ついに絶望の淵へと集結する。
時空管理局をも巻き込んだ、誰も知らない未来への最終決戦が、今まさに幕を開けようとしていた。