魔法少女リリカルなのは ~コード・イレイザー~   作:長谷川広軌

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第26話:時の庭園、絶望と対峙する星々

赤黒い稲妻が走り、崩壊しつつある異空間。

海鳴市の上空に発生した亀裂から飛び込んだ三人の少女と一匹の使い魔は、重力すら曖昧なその廃墟の最深部――『時の庭園』の中心へと降り立った。

「ここが、時の庭園……」

なのはが息を呑んで周囲を見渡す。崩れ落ちた巨大な石柱、宙に浮く瓦礫、そして空間そのものから発せられる淀んだ魔力。それは、一人の魔導師の狂気によって維持されている、死にゆく世界だった。

紗雪は、紺色に白い縁取りがあしらわれた燕尾服のバリアジャケットの裾を払いながら、すぐさま視界にファイル「MOIRA網」 を展開した。

(空間の崩壊率、70%を超えている。……間違いない、プレシア・テスタロッサはすでに自らの命すら削ってアルハザードへの道を開こうとしている)

ファイル「MOIRA網」 が弾き出した絶望的なデータ。だが、紗雪の瞳に揺るぎはない。

彼女の隣には、真っ直ぐに前を見据える桜色の砲手と、かつての迷いを捨て去った黄金の騎士が並び立っているのだ。

「……よくも、ノコノコと帰ってきたわね。フェイト」

空間の奥深くから、氷のように冷たく、ひび割れた声が響き渡った。

玉座のような巨大な機械の前に立つ、紫色のローブを纏った女性。フェイトの母、プレシア・テスタロッサ。彼女の周囲には、これまでにフェイトが集めたジュエルシードが不気味な光を放って浮遊している。

「母さん……!」

「なぜお前が、そのネズミどもと手を繋いでいるの? 私はお前に、シードを集めろと命じたはずよ。……本当に、出来損ないの役立たずね!」

プレシアの冷酷な言葉が、刃のようにフェイトへ突き刺さる。

かつてのフェイトなら、その言葉だけで心をへし折られ、涙を流してひざまずいていただろう。しかし今、フェイトの両手は、なのはと紗雪によってしっかりと握りしめられていた。

「フェイトちゃんは、役立たずなんかじゃない!」

なのはが、フェイトを庇うように一歩前に出た。

「フェイトちゃんは、お母さんの笑顔が見たいから、一人でずっと痛い思いをして頑張ってきたんだよ! なのに、どうしてそんなひどいこと言うの!」

「……五月蝿いハエね。他人の分際で、私とアリシアの邪魔をしないでちょうだい!!」

プレシアが狂気に満ちた叫びを上げると同時、彼女の杖から放たれた極太の赤黒い魔力砲が、三人を呑み込もうと殺到した。

大魔導師による、一切の手加減のない致死の魔法。

「なのは! 構えろ!」

紗雪がなのはたちを背にかばい、白銀のデバイス『ノーブル・コレッジ』を突き出した。

「ハァァァァッ!!」

紗雪が展開したのは、局所的な魔力消去(イレイズ)。プレシアの圧倒的な魔力砲の「先端の構造」だけをファイル「MOIRA網」 の演算で的確に削り落とし、威力を半減させる。

しかし、大魔導師の執念の籠もった一撃は重く、紗雪の防壁にピキピキと亀裂が走った。

「くっ……さすがに、規格外の出力……ッ!」

「紗雪ちゃん!」

「私に構うな! 射線は作った、君たちの魔法を叩き込め!」

紗雪が強引に魔力砲を左右へ逸らしたその瞬間、彼女の背後から二つの影が飛び出した。

「レイジングハート!」

『Stand by ready.』

「バルディッシュ!」

『Scythe Form.』

なのはの桜色の魔力と、フェイトの黄金の雷光が、時の庭園の淀んだ空気を切り裂いて交差する。

二人は特訓で培った完璧なコンビネーションで、プレシアの周囲に展開されていた自律防御兵器(ビット)を次々と破壊していく。

「小賢しい真似を……ッ!」

プレシアが再び魔力を練り上げようとしたその時、フェイトがバルディッシュを構えて彼女の眼前へと肉薄した。

「母さん! もうやめて!!」

「お黙りッ!!」

プレシアの放った魔力の鞭が、フェイトの頬を掠め、一筋の血が滲む。

それでもフェイトは逃げなかった。恐怖に震えながらも、黄金の瞳から逃げの感情は消え去っていた。

「私は……母さんの、本当の笑顔が見たかった! 昔みたいに、優しく頭を撫でてほしかった! だから……私はもう、母さんの言いなりになって誰も傷つけたりしない!」

「……ッ」

フェイトの魂からの叫びに、プレシアの表情が一瞬だけ歪む。

「今だ、なのは!!」

紗雪の鋭い号令。

プレシアの意識がフェイトに向いた、そのコンマ数秒の隙。

後方で極限まで魔力を集束させていたなのはが、レイジングハートのトリガーを引いた。

「フェイトちゃんのお母さん、お願いだから……目を覚ましてぇぇぇッ!!」

『ディバイン・バスター!!』

なのはの想いが乗った極太の桜色の閃光が、時の庭園の闇を打ち払うように、プレシアの玉座へと真っ直ぐに突き進んでいった。

◇ ◇ ◇

一方その頃。

時の庭園の外部宙域では、黄金の魔法陣と共に時空管理局の巡航艦『アースラ』が次元跳躍を完了していた。

「……空間の崩壊が進んでいます。内部はすでに魔力の嵐です!」

「構わない! 全機、防壁を展開して突入!」

艦橋で指揮を執るリンディの号令のもと、クロノ・ハラオウンをはじめとする武装局員たちが、次々と時の庭園へと突入していく。

「待っていろよ、君たち……!」

クロノはS2Uを握り締め、荒れ狂う次元の亀裂へと飛び込んだ。

狂気の母、絆を結んだ少女たち、そして時空の監視者。三つの運命が激突する最終決戦の火蓋が、ついに切って落とされた。

 

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